産地ルポ

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2023/2/20掲載

長野県JA上伊那野菜出荷販売額1位の白ネギ
9〜10月出荷分に「名月一文字」が高評価

売り場に立つタカハシファーム代表の高橋信一郎さん。

JA上伊那の栽培暦に登場した「名月一文字」の圃場。

編集部 2022年9月12日取材

地域の特徴

長野県の南部に位置する上伊那(かみいな)は、中央アルプスと南アルプスの2つのアルプスに囲まれ、南北に沿って天竜川が流れる「伊那谷」と呼ばれる地域です。
管内の産業は、澄んだ水と空気を生かした電子部品、輸送機械、情報通信機械などの工業や、水稲を主とした農業が主要産業です。また、標高が高く晴天率の高い上伊那は切り花のアルストロメリアの栽培も盛んで日本一の生産量を誇ります。構成市町村は 伊那市、 駒ヶ根市や 箕輪町など2市3町3村からなるJAです。

JA上伊那

JA上伊那野菜出荷販売額1位の白ネギ

JA上伊那の出荷する野菜の中でも販売額が多いのが白ネギです。面積は60ha弱。2021年度の販売目標額は5億5,000万円。播種は1月中旬から4月下旬ごろまで行われ、育苗はチェーンポット。最盛期は2月中下旬です。植え付けは3月下旬ごろから始まり、専用の農機具「ひっぱりくん」で植え付けられます。
収穫時期が集中しないように約1週間ずつ間隔を置いて定植される方もいます。2005年には白ネギ共同出荷施設も導入され、法人や大口の生産者が利用されています。

栽培暦に「名月一文字」を追加

上伊那の白ネギの出荷期間は8〜12月の間。ピークは10〜11月にかけてですが9月の早出しも増えてきています。「名月一文字」は9〜10月分の推奨品種として暦に追加されました。JA上伊那営農経済部園芸課係長で野菜全般を統括される小出さんは「名月一文字」導入のねらいについて、従来品種はさび病の発生に悩まされていましたが、「名月一文字」はさび病の発生が少ないという生産者の声を聞き注目したそうです。暦に掲載されたのは2021年からで、2022年度は10%ほどの割合となっています。

ほとんど個選共販だが、一部共選共販も行われている。

ほとんど個選共販だが、一部共選共販も行われている。

コンパクトな「名月一文字」

出荷規格で中心になるのはLサイズとなります。全長では58p、軟白部は30p以上の規格となります。バラでの出荷を希望されるところもありますが、定数結束が基本で葉枚数が3〜4枚でA品です。「名月一文字」は棒ネギになりにくいと評価するのは南部営農センターでネギの栽培指導を担当する大澤さんです。「単一品種で長期を賄うのは難しく、品種差をうまく生かしたリレー栽培で品質や出荷量を安定させています」
早い人で3月中旬定植の方もおられますが、4月上中旬の定植を推奨されています。「この品種はゴールデンウィーク以降に定植すると、寒くなった時期に生育が停止してしまいますから」と10月中旬までの収穫がよいとのこと。「太りと伸びがよいですね。台風到来時期の収穫となりますが、昨年は5%の作付けでしたから様子を見ながら今年は倍に増えています。昨年は台風の被害はなかったものの、葉部はコンパクトで倒伏には強いと聞いています」
小出さんは地域のネギの特長として、上伊那地域は、やわらかいネギでは傷みやすく、かためのネギを栽培する傾向があると教えてくれました。注意するのは調整作業中に葉が折れやすいことぐらい。ただし葉の部分もコンパクトなためごみが少なくて済むのは助かりますとのことでした。

細根も健全な収穫された「名月一文字」。

細根も健全な収穫された「名月一文字」。

ネギから出るノロも少なく、出荷後のケースが濡れて荷崩れするといったトラブルもない。

ネギから出るノロも少なく、出荷後のケースが濡れて荷崩れするといったトラブルもない。

「名月一文字」を栽培した生産者は

2022年から「名月一文字」を栽培するのは伊那市の生産者、唐沢實(みのる)さんです。唐沢さんは4月5日から中旬まで定植。8月25日から収穫を始めています。導入の動機はさび病対策から。
「この品種はいいね。19〜20pに収まって2Lにならないし、3年前は台風にやられたが、葉がコンパクトで風に強そう」と初めての栽培ながら満足な生育だとか。「初期生育がいい!夏場暑くなると生育がピタリ止まってゆっくり生育してくれるから青葉の短い棒ネギの心配がない」さらに「虫もつきにくいし、多少の軟腐病は出ているけど病気に強いし、むいた部分が褐色になる腐敗も入りにくい。何より梅雨時期によく出るさび病が出ないから防除を1回抜いても安心できる」と喜んでいただいていました。
寒くなると生育が止まると紹介しましたが、夏場暑い時期も生育はピタリと止まるそうです。「よい品種に巡り合えた」と唐沢さんの喜びの声を聞いてJAの小出さん、大澤さん、地域担当の重盛さんも自信を深めた様子でした。

この時期100%「名月一文字」に切り替えた唐沢さん。

この時期100%「名月一文字」に切り替えた唐沢さん。

夏場は出荷ケースをやぐらに積んで、風通しをよくする。ネギの変色を防ぐためには有効。

夏場は出荷ケースをやぐらに積んで、風通しをよくする。ネギの変色を防ぐためには有効。

安定した価格を維持したい

上伊那はコメを中心に、初春はアスパラガス、春はブロッコリー、夏はスイートコーン、秋は根深ネギを栽培する方が多いそうです。4月にネギの定植が多いのは、田植えをするゴールデンウィークまでに済ませてしまいたいというのがその理由。9月中旬にコメの収穫が終わった後、10月にネギの収穫に入ると作業が重ならないからです。 
しかし、最近はコメからの転作も増えてきました。それはネギの価格が10年間安定しているからです。「ネギは旬にこだわる野菜でもありませんので作れば売れる品目です」と、新規就農者にもすすめやすい品目のようです。人さえいればいくらでも面積は広げる余地があるようですが、高齢化や後継者不足が続く中、安定したネギの役割は大きく、自社で調製作業も行える大規模生産法人も呼び込みながら、共選面、物流面を強化しながら持続可能な産地づくりに邁進されています。

(左から)「名月一文字」の出荷ケースを手にJA上伊那営農経済部園芸課野菜係長の小出順誠さん、南部営農センター大澤達也さん、中部営農センターの重盛俊弥さん。ネギのベテラン生産者も多い上伊那地区で日々のコミュニケーションを欠かさない。「名月一文字」は生産者が喜ぶ品種と期待も高い。

(左から)「名月一文字」の出荷ケースを手にJA上伊那営農経済部園芸課野菜係長の小出順誠さん、南部営農センター大澤達也さん、中部営農センターの重盛俊弥さん。ネギのベテラン生産者も多い上伊那地区で日々のコミュニケーションを欠かさない。「名月一文字」は生産者が喜ぶ品種と期待も高い。

毎週お父さんと買いに来るという高木一樹くんもタカハシファームのスイートコーンが大好物。