産地ルポ

産地ルポ

2025/2/20掲載

福島県JA会津よつば 南郷トマト生産組合
「桃太郎みなみ」でA品率が格段にアップ!

JAいるま野のFG袋は株元が透明なため、鮮度のよさがよくわかる。

右からJA会津よつば南郷営農経済センター営農課の馬場彬さんと南郷トマト生産組合の木正貴組合長。

編集部 2024年8月6日取材

産地概要

星がきれいな南会津

福島県の西南に位置し、周囲を越後山脈の急峻な山々に囲まれています。そのため街の明かりが少なく標高も高いため、すてきな星空が観られるスポットとしても知られています。標高370〜870 mに耕地および集落が形成されており、寒暖差の大きい内陸山間型気候で、年間降水量は比較的多い地域です。霜は10月中旬から5月中旬にかけて、積雪期間は11月下旬から4月中旬までの5カ月におよび、日本でも有数の豪雪地帯です。

福島県JA会津よつば

「南郷トマト」について

2022年に生誕60周年を迎えた「南郷トマト」。その名は60年前、当時の南郷村(現:南会津町南郷地区)で初めてトマトが栽培されたことに由来するといいます。寒暖差を生かして、徹底的に味にこだわり差別化を図ることで、「南郷トマト」としてのブランド価値を高め、2018年には※GI登録を取得しています。主な出荷先は東京都中央卸売市場をはじめ関東方面、福島県内ですが、豪雪地帯の地の利を生かして、出荷前のトマトは雪を利用した低温庫に一晩貯蔵することで味の深みを増加させています。

  • ※「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(GI法)」によって定められた地理的表示(GI)保護制度登録

山々に囲まれた中にハウス群が並ぶ南会津。

山々に囲まれた中にハウス群が並ぶ南会津。

南郷トマトの栽培地は南会津町と只見町、下郷町にまたがり、トマトの栽培面積は全体で約30ha、組合戸数は102戸を数えます。4月20日ごろに組合の共同育苗苗を生産者ごとにポットに仮植し、6月上旬ごろに本圃に定植します。7月中下旬ごろから出荷が始まり8月上旬以降出荷最盛期を迎え、10月末まで出荷が続きます。最盛期はコンテナで1日約3000箱が搬入されます。

人による目視と、色とサイズ別に定められた光センサーで選別され、すべて専用の出荷用段ボール箱(1s、4s)で出荷されます。
栽培はパイプハウスに雨よけのビニール、サイドと妻面はネットを張り、潅水はチューブで点滴潅水、潅水頻度は品種特性に合わせて調整します。

選果レーンを流れる4s箱の「桃太郎みなみ」。雪室予冷庫で一晩予冷され、翌日の午前中に出荷される。

選果レーンを流れる4s箱の「桃太郎みなみ」。雪室予冷庫で一晩予冷され、翌日の午前中に出荷される。

選果場裏に設置された雪室(約1,000u)。冬季の間に庫内に雪を搬入し、隣の低温庫に冷気を送ってトマトを予冷する。10月末まで活躍するとのこと。

選果場裏に設置された雪室(約1,000u)。冬季の間に庫内に雪を搬入し、隣の低温庫に冷気を送ってトマトを予冷する。10月末まで活躍するとのこと。

売上アップに貢献した「桃太郎みなみ」の秀品率

南郷トマトの代名詞でもある"おいしいトマト"。初代「桃太郎」導入以来、味にこだわりながら「桃太郎8」、「桃太郎ギフト」「桃太郎セレクト」と食味重視の変遷を経てきました。近年の気候変動による温暖化の影響は深刻で、年々栽培の厳しさが増しているということでした。
「味と栽培性を両立できないか」
「桃太郎みなみ」はその名の通り、当地の組合の協力の下、タキイと産地が一緒に育成した経緯があります。高温下でも着果が安定し、障害果が発生しにくい品種です。取材当日も午前中には30℃を超える暑さで、ハウスの中はそれ以上の暑さでした。「桃太郎みなみ」が正式に栽培暦に掲載された2022年は栽培面積の半分まで導入され、2023年からは栽培面積の制限を外して段階的に導入、2024年は全体の約85%(残りの15%は「桃太郎ギフト」「桃太郎セレクト」)まで拡大し作付されています。

JA会津よつば南郷営農経済センターの馬場彬さんは「果形がきれいで、従来品種と比べて障害果の発生が少なく、秀品率が格段に向上した」とねらい通りの特性を発揮しているとの評価。2021年の南郷普及所の調べによると、「桃太郎みなみ」を使用したことで8〜10月にかけてのA品率の平均が従来品種の倍以上となりました。

8月6日に収穫された「桃太郎みなみ」。3日後には全体が色づき、均一で鮮やかな桃色になり、安定した品質がうかがえた。

8月6日に収穫された「桃太郎みなみ」。3日後には全体が色づき、均一で鮮やかな桃色になり、安定した品質がうかがえた。

Iターン組、木正貴組合長の評価

JA会津よつばでは1991年ごろから、新規就農者の受け入れに精力的に取り組んできました。現在、南郷トマト生産組合の組合長を務める木正貴さんも当時に移住を決めたIターン組の一人。農業をやりたいという思いを形にするため、36歳で家族と共に神奈川から移住し、トマト栽培を始めました。県外からの移住組の中には、スキーやスノーボードで当地を訪れ、現地の方との交流やトマト栽培の経験を経て、新規就農される方も多く、今では組合員全体の約3割がIターン組だそうです。

木組合長は、試験段階から栽培し、2024年で5作目になります。「桃太郎みなみ」の評価について伺うと
「割れが少なく、果形がよい」との評価で、具体的には
「特に1〜2段目で出やすい乱形果やチャック果が少なく、出荷量が増加しましたし、A品率は平均して4割はあります」
もともと高い選果基準の中でも、A品率が安定しているとのことでした。
栽培面については水を欲しがる品種と感じているため、樹勢を安定させるために成長点付近の葉の展開や節間の伸び具合などを観察しながら、潅水量の調整がポイントとのこと。組合としては3作目となる2024年は、「桃太郎みなみ」の生育特性を組合員間で共有し、安定生産を実現していく段階だということでした。
また、秋以降温度が下がり樹勢が落ちやすい時期に発生するすすかび病は、9〜10月の収量安定に影響しますが、「桃太郎みなみ」のもつすすかび病耐病性が安心感と栽培労力の軽減につながると期待を述べられました。

2段目の「桃太郎みなみ」。果実は果形のそろいが安定していた。

2段目の「桃太郎みなみ」。果実は果形のそろいが安定していた。

温和な印象の木組合長。「桃太郎みなみ」を組合全体で作りこなせるように情報共有していく重要性について話されていた。

温和な印象の木組合長。「桃太郎みなみ」を組合全体で作りこなせるように情報共有していく重要性について話されていた。

「南郷トマト」ブランド価値の醸成

2024年から販売面での訴求のために生産の節目となる8月6日と9月10日が「南郷トマトの日」として記念日登録されました。
さらに2024年は組合全戸がJGAP認証の審査を受け、年度内には全戸取得予定とのこと。60年の歴史の中で発展してきた南郷ブランドが「桃太郎みなみ」とともに新たな1ページを築いていくことと思います。

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