産地ルポ

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2025/2/20掲載

JA長野八ヶ岳
猛暑と不結球を乗り越え
新品種「ヒートガイ」八ヶ岳に登場!

干ばつが続いて不結球ぎみでも、最終的にがっちり結球。それが「ヒートガイ」の特徴。

干ばつが続いて不結球ぎみでも、最終的にがっちり結球。それが「ヒートガイ」の特徴。

編集部(取材・文・撮影 三好かやの)2024年7月30日取材

地域概況

JA長野八ヶ岳は、小海町、川上村、南牧村、南相木村、北相木村の1町4村で構成される日本一の高原野菜供給産地です。八ヶ岳の裾野と千曲川の源流を有し、標高は1000〜1400m。高冷地で栽培される露地野菜は、「太陽に一番近い野菜」とも呼ばれています。主力のハクサイは6月上旬〜11月中旬、結球レタスは5月下旬〜10月に出荷。非結球レタス、キャベツ、ブロッコリーなども栽培。全国の消費地へ届けています。

福島県JA会津よつば

日本屈指のレタス産地で

JA長野八ヶ岳管内は、日本屈指の高原野菜の産地。標高1000〜1400mに位置する冷涼な内陸性気候を生かし、レタス、ハクサイ、キャベツを露地で栽培しています。5〜10月は、管内全域で359人の組合員が約1857haでレタス類を栽培。その75%に当たる約1388ha(2023年産)を、結球レタスが占めています。

冷涼地として知られる八ヶ岳周辺でも温暖化の影響が顕在化してきました。「2013(平成25)年の夏、野辺山で30℃を超えたと、管内に衝撃が走りました」と、当時を振り返る南牧支所営農指導員の吉澤栄一郎さん。かつて6℃台後半で推移していた年間平均気温は、徐々に上昇し、2023年は8.8℃に。その傾向は今も続いています。
圃場では高温によるレタスの傷み、抽苔の増加などが頻発。生産者は時間を前倒しして深夜の2時から収穫を開始。黒マルチを銀から白黒へ変えて地温の上昇を抑えるなど、あらゆる手立てを講じてきました。これまで暑さと病気に強い品種が次々と登場しましたが、温暖化はさらに進んでいて、より耐暑性のある品種が求められています。

圃場から南牧支所の集荷場へ搬入されたレタスは検査を受けた後、真空冷却槽へ。しっかり芯まで冷やして鮮度を保ち5℃の冷蔵庫で保管される。

圃場から南牧支所の集荷場へ搬入されたレタスは検査を受けた後、真空冷却槽へ。しっかり芯まで冷やして鮮度を保ち5℃の冷蔵庫で保管される。

各支所で指導員が品種を選定

管内には小海、川上、南牧、南相木、野辺山の5つの支所があり、合わせて12人の営農指導員が、各エリアで新品種の試作、試験、選定に当たっています。各支所とも土壌や地形、販売先などの諸条件が異なるので、どの品種を導入するかは現地の指導員が判断しています。
南牧支所の吉澤さんは、3年前「ヒートガイ(試作品種名TLE595)」に着目しました。
「耐病性、晩抽性に関しては、一定以上のレベルがあり、特に軟腐病に強い。即導入できそうだと感じました」

(左から) JA長野八ヶ岳農業部の大塚知一さん、南牧村の生産者津金武幸さん、南牧支所営農指導員の吉澤栄一郎さん。

(左から) JA長野八ヶ岳農業部の大塚知一さん、南牧村の生産者津金武幸さん、南牧支所営農指導員の吉澤栄一郎さん。

一方、川上支所の指導員、原知樹さんは、若手を中心に組合員の圃場で試験栽培を実施しました。するとこれまで8月下旬〜9月上旬の二毛作栽培で出荷していた品種に、不結球、分球が多発することが判明。しかし、同時期に栽培した「ヒートガイ」は、一時的に不結球気味になっても、その後持ち直してしっかり結球することがわかりました。
レタスの出荷形態には、収穫適期にカットしたレタスを段ボールに詰めて出荷する市場出荷と、決められた期日に定量出荷する契約栽培がありますが、後者の場合は、適期が長く、数日間結球したレタスを圃場に残しておける「在圃性」が求められます。
こうして厳しい環境下で、耐暑性、耐病性、在圃性……多様な性質が求められる中、「ヒートガイ」の本格的な栽培が始まりました。

(左から)川上支所の営農指導員中島俊樹さん、見澤覚さん、良さん、指導員の原知樹さん。

(左から)川上支所の営農指導員中島俊樹さん、見澤覚さん、良さん、指導員の原知樹さん。

昨年新設された川上村の集荷場。真空予冷装置で芯まで冷やされたレタスは、全国の市場やファストフードチェーンなどへ発送される。

昨年新設された川上村の集荷場。真空予冷装置で芯まで冷やされたレタスは、全国の市場やファストフードチェーンなどへ発送される。

猛暑に負けずしっかり結球

南牧村でレタス4haを栽培する津金武幸さんは、2022年11月、農協青年部の視察でタキイ長野研究農場塩尻試験地を訪れた際、初めて「ヒートガイ」を目にしました。育種担当者の「暑さに強い品種です」との熱意に押され、種子を購入し、翌年から栽培に着手します。

「2023年は猛暑で、同じ時期に栽培していた他の品種は不結球でしたが、『ヒートガイ』は、ガチっと結球しました。本当に助かりました」
そして2024年は、干ばつが予想される時期の出荷分や、これまで不結球が出ていた7月上旬〜8月上旬の定植分は、すべて「ヒートガイ」に切り替えました。
津金さんの予想通り、2024年も猛暑が続いていて、圃場は乾燥気味。10a当たり2000〜3000ℓの水が必要で、トラクターに1000ℓ入りのタンクを積んで、圃場を何度も往復し、8月中旬に始まる出荷に向け、ブームスプレイヤーで散水する日々。「ヒートガイ」は順調に生育しています。

肉牛の肥育も手がけ、循環型の栽培を続ける津金武幸さん。「ヒートガイは、ガチっと結球するのがいい」と評価している。

肉牛の肥育も手がけ、循環型の栽培を続ける津金武幸さん。「ヒートガイは、ガチっと結球するのがいい」と評価している。

一方、川上村の見澤覚さんは、レタスを栽培して40年以上のキャリアを持つベテラン。7年前から次男の良さんも栽培に加わりました。
JA長野八ヶ岳管内では、見澤さんのように農家の子弟が帰郷し、さらに技能実習生を雇い入れ、規模拡大に乗り出す生産者が10年ほど前から増えているのです。

猛暑の影響で、不結球の割合が増える中、見澤さんも試験的に「ヒートガイ」を作り始めました。すると、「結球性が抜群にいい。そして病気にも強い」
かねてから、試作品種の栽培試験に協力を続けている見澤さん。いち早くその可能性を感じました。
取材に訪れた7月30日。見澤さんの「ヒートガイ」は、欠株や目立った病害もなく、4日後に収穫を迎えるまでに。お話を伺っていると、にわかに強い雨が降ってきました。
「こんなにいい雨は久しぶり。これで不結球ぎみの球も持ち直すでしょう」 と、明るい表情で話されていました。

川上村で40年以上レタスを栽培してきた見澤覚さんも、いち早く「ヒートガイ」に着目。

川上村で40年以上レタスを栽培してきた見澤覚さんも、いち早く「ヒートガイ」に着目。

高温と不結球に強い「ヒートガイ」は、本格導入から2年目にして実力を発揮。今後は二毛作、三毛作への対応、在圃性の確保など、新たな課題も視野に入れ、夏のレタス需要に応えていきます。

見澤さんは、「ヒートガイ」を株間24p×畝間46pで栽培。

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