産地ルポ

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2025/2/20掲載

北海道恵庭市 西野農園
北海道の6月まきでも晩抽性が安定し、
高温乾燥下でも生育の停滞が少ない!
「晩抽サマージェット」を採用

左から西野和文さんとご子息の文平さん。二人ともタキイ園芸専門学校の卒業生で品種特性を見極めながら経営に組み込む。

左から西野和文さんとご子息の文平さん。二人ともタキイ園芸専門学校の卒業生で品種特性を見極めながら経営に組み込む。

北海道恵庭市で西野農園を営む西野和文さんとご子息の文平さんは39棟のハウスを約4回転し、年間約160棟分でホウレンソウを周年栽培されています。栽培は12月中旬まき→3月中旬収穫からスタートし、GW明けから収穫の最盛期を迎えます。播種、潅水、遮光など役割を分担して二人三脚で栽培管理を行い、収穫や出荷調製作業はパート5〜6名と共に行っています。
2020年に栽培を開始された「晩抽サマージェット」の評価と、年々厳しくなる夏の栽培方法について伺いました。

編集部 2023年6月22日、2024年6月20日取材

地域概要

恵庭市は札幌市と新千歳空港のほぼ中間に位置しており、恵まれた交通アクセスと穏やかな気候風土をもつ地域。市民主導による花のまちづくりが盛んで全国的に評価されこれまで緑化・景観に関する多くの賞を受賞しており、「ガーデニングのまち」として知られるようになっています。農業は特別栽培農産物などの安心安全でクリーンな農業をテーマにした野菜づくりや花苗生産などの近郊農業が盛んになっているほか、酪農では優良牛生産地帯であり、家畜の糞尿を堆肥化して活用する循環型環境整備を進めています。

北海道恵庭市

晩抽サマージェットの評価

「晩抽サマージェット」の栽培は2020年に試験番号時代から始まりました。導入の決め手となった特性は、北海道で抽苔リスクが最も高い6月まきで、晩抽性が安定していたことでした。2020〜2021年の2年とも抽苔は見られませんでしたが、従来品種は条件によっては抽苔が見られました。北海道は緯度が高く、夏至前後にあたる6月まきは特に日長が伸び、ホウレンソウの栽培にとっては抽苔のリスクが高まるため、晩抽性が安定していることは非常に重要です。

一方で、晩抽性にすぐれる品種は生育が比較的じっくりしているという傾向があり、西野農園のように数十棟のハウスで何作も作付けする生産者にとっては生育のスピードがハウスの回転率に影響します。
「晩抽サマージェット」の生育を伺うと、盛夏期でも極端に停滞することはなく、おおむね計画通りに収穫できたといいます。従来の晩抽系の春夏どり品種は、軸が太く肉厚なため1株当たりの重量はすぐれています。しかし、盛夏期や乾燥条件になると生育が停滞しやすいため、収穫までの日数がかかり、栽培のサイクルが乱れてしまうことが課題でした。それに対し「晩抽サマージェット」は耐暑性があるため、水管理の多少にかかわらず生育が安定しており、収穫目安の播種後32〜35 日で収穫でき、作業サイクルが立てやすいとのことでした。

また、極端に葉が伸びすぎず在圃性にすぐれる特性から作期幅が広く6月まきだけでなくその前後での作付けも見込んでいるとのことでした。実際に2024年度は5月中旬から8月上旬まきまで「晩抽サマージェット」の作付けを拡大されていました。

39棟のハウスには効率化を図るために番号が振られている。5月下旬から7月上旬にかけては萎凋病対策としてローテーションで土壌消毒を実施。

39棟のハウスには効率化を図るために番号が振られている。5月下旬から7月上旬にかけては萎凋病対策としてローテーションで土壌消毒を実施。

作業性のメリット

ハウスの回転率を上げるために重要なのが収穫時、出荷時の作業性です。
「晩抽サマージェット」は作業性の点でも高い評価を受けていました。具体的には立性の草姿で3枚目の本葉が横に広がらないため収穫がしやすいこと。また、軸折れしにくいことから、調製作業においても作業効率アップにつながっているとのことでした。

さらに、西野農園では2020年から収穫機を導入されています。これまでは手作業での収穫でしたが、省力化や従業員の体力面を補うために導入されたとのことでした。ただし、機械収穫では品種によっては葉が折れたり、ロスが出てしまうことがあります。
「晩抽サマージェット」は、立性草姿や葉軸のしなやかさが機械収穫に適しており、軸折れなどによるロス軽減につながるのではないかと評価いただいていました。

5年前から導入した収穫機。手作業より歩どまりは劣るが効率化、夏場の体力面のカバーを図るためには必要。

5年前から導入した収穫機。手作業より歩どまりは劣るが効率化、夏場の体力面のカバーを図るためには必要。

機械収穫した「晩抽サマージェット」。機械を使うことで最低限のロスは出るが、草姿が立性でしなやかな特性は機械収穫への高い適性を示す。

機械収穫した「晩抽サマージェット」。機械を使うことで最低限のロスは出るが、草姿が立性でしなやかな特性は機械収穫への高い適性を示す。

収穫調製作業もしやすい草姿。下葉を取る労力は少ない。

収穫調製作業もしやすい草姿。下葉を取る労力は少ない。

品種×栽培方法で品質を高める

夏の栽培、特に盛夏期の栽培は年々難しくなっています。西野農園では、夏の栽培においてホウレンソウの品質を安定させるために、発芽から初期生育にかけての時期と収穫間近に発生するしおれ防止のために遮光資材を使用します。2023年に酷暑を経験し、その翌年から約半数となる20棟分のハウスに「タキイ涼感ホワイト50」を導入。これまで使用していた遮光資材の更新に合わせ、年々厳しくなる夏の栽培に備えられていました。

潅水管理においては土の状態や天気を見て小まめに欠かさず行います。「晩抽サマージェット」の葉色は従来品種と比べると葉色がやや淡いという印象ではありますが、生育後半にホウレンソウの状態を見て必要に応じて潅水を行うことで最後の色乗りがよくなると感じておられます。教科書的には収穫が近づくと潅水を控えるわけですが、品種や天候によって管理方法を工夫するという西野農園を取材し、品種と栽培管理の相乗効果で品質が高められ消費者のもとに届いているのだと感じました。今後も「晩抽サマージェット」が西野農園のホウレンソウ栽培の一助となることを願っています。

2024年から導入した「タキイ涼感ホワイト50」。これまで使用してきた遮光資材の更新と、近年の暑さに備えるため補助金も活用し20棟分を備えた。

2024年から導入した「タキイ涼感ホワイト50」。これまで使用してきた遮光資材の更新と、近年の暑さに備えるため補助金も活用し20棟分を備えた。

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