産地ルポ

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2023/2/20掲載

群馬県 JA佐波伊勢崎/JAにったみどり
ハウス栽培で単為結果ナスが好評
「PC鶴丸」の導入で積極的に「楽」しませんか。

群馬県はナス生産量関東1位、全国でも3本の指に入るナス生産量を誇ります。半促成栽培と露地栽培がうまく組み合わされ長期にわたって出荷され、冬春ナスと夏秋ナスのバランスがほどよく取れた全国的にも稀な産地になっています。
今回は群馬の中でもハウス栽培の多いJA佐波伊勢崎とJAにったみどりを訪問し、長卵形の単為結果ナスとして発売された「PC鶴丸」を導入しての評価などをお伺いしました。

編集部 2022年6月22日取材

JA佐波伊勢崎

国内最大規模の 「なす・きゅうり選果場」が稼働

JA佐波伊勢崎園芸販売課ナス担当の新野見光輝さん(左)と管内生産者の糸井高美さん。

JA佐波伊勢崎園芸販売課ナス担当の新野見光輝さん(左)と管内生産者の糸井高美さん。

全国屈指の大規模選果場。

全国屈指の大規模選果場。

地域の特徴

群馬県の南東に位置し、赤城山麓南面の標高40〜160mの平坦地帯です。夏季は内陸的気候で雷雨が多く高温多湿、冬季は乾燥した晴天が続きます。長い日照時間と豊富な水源を利用した畑作が盛んな地域です。首都圏とは、JR両毛線・東武スカイツリー線、北関東自動車道などで繋がり、東京とは100q以内の立地条件を生かし、県下でも有数な農畜産物の生産供給基地となっています。

JA佐波伊勢崎

面積拡大に寄与する選果場

今回お伺いした「なす・きゅうり選果場」は広域営農拠点施設として、平成29年4月にオープンしました。カメラ選別を備えた7ラインが設置され、働くパートさんは1日100〜120人(最大150人)を数え、ナス、キュウリが処理できる選果場としてはおそらく国内最大規模の選果場です。お伺いした6月末ではナス4ライン、キュウリ3ラインが稼働していました。ナスの生産者は全体で約150名を数えますが、その中で選果場に収穫物を持ち込むナス生産者はハウス100人弱、露地94名、これは栽培面積にしてハウス約20ha、露地約15haに当たります。この選果場の稼働で手詰め作業から解放された生産者は栽培に専念できることから面積拡大にもつながると多くの支持を集めています。
また、新規生産者の出荷の受け皿としても機能しており、管内の栽培面積は増加しています。出荷締め切りは10時と13時でその日のうちに出荷されて行きます。

糸井さんは1月5日に10.5pポット苗を定植、4本仕立てで高温期の切り戻しなしで11月上旬まで連続収穫。

糸井さんは1月5日に10.5pポット苗を定植、4本仕立てで高温期の切り戻しなしで11月上旬まで連続収穫。

糸井さんの連棟ハウス。当地ではこうした天井の高い連棟ハウスをエコノミーハウスと呼ばれている。

糸井さんの連棟ハウス。当地ではこうした天井の高い連棟ハウスをエコノミーハウスと呼ばれている。

「PC鶴丸」の導入について

ハウスナスは12月〜2月定植で3〜6月に出荷ピークを迎え、その後9月まで収穫、または切り戻して11月末まで出荷します。なす・きゅうり選果場園芸販売課の新野見光輝さんに「PC鶴丸」についてお伺いしました。

ハウス栽培での単為結果ナスの有利性は、ホルモン処理の手間がいらない点と、ハチ利用のコストが省けるという2点があります。これまでも単為結果ナスは一部、ハチアレルギーの生産者を中心に導入されていました。実際命にかかわる場合は、単為結果ナスでなければナス栽培をあきらめるしかない、という場合もあるそうです。一方でこれまでの単為結果ナスは、出荷本数が少ない、色が出にくいなどの問題点が解決できず、従来品種から大きく変わるまでには至らなかったようです。その中でタキイの単為結果ナス「PC鶴丸」(試作名TNA168)は出荷本数の低下が少なく、色も遜色ないことから、3年の試作を経た中で導入する農家が増えました。

5月以降の夏場はミツバチで交配。暑さに弱いミツバチはハウスの外に巣箱を設置。マルハナバチのコストは1年の売り上げに対し1割ほどの負担だった。神経も使う。

5月以降の夏場はミツバチで交配。暑さに弱いミツバチはハウスの外に巣箱を設置。マルハナバチのコストは1年の売り上げに対し1割ほどの負担だった。神経も使う。

今期は選果場に出荷しているハウス栽培ナスの35%程度が「PC鶴丸」に切り替わったのですが、一気に増えた要因を次のように分析しておられました。

❶出荷された果実について、選別などで差がない。
従来品種と形状、果実の色のりが同等で、精緻なカメラ選別でも差がなく、従来品種同等に扱える。したがって、従来品種と合わさっても選果効率が落ちることがない。皮は少しやわらかい傾向ですが、肉質はしっかりして選果作業に支障が出ない。強いて言えば、果実のつやがやや少ない感じはするのですが、見比べてやっと分かる程度で市場からの評価は従来品種と同等。ちなみにB品は漬物加工に出荷もされるが「PC鶴丸」は漬物としても品質に問題はない。
❷以前の単為結果ナスと比べて出荷ロスが圧倒的に少なく、ハチ利用のコストやホルモン処理の手間などを考えると十分採算に合う。
❸新規就農者に導入をすすめやすい。選果場の使用と併せて新規就農者でも単為結果ナスは余計な労働時間を使わなくてよい。

年間に持ち込まれるコンテナはハウス物だけで12万5000コンテナ。1コンテナ当たり130〜140 本。100 人を超えるパートさんの差配も重い責任。

年間に持ち込まれるコンテナはハウス物だけで12万5000コンテナ。1コンテナ当たり130〜140 本。100 人を超えるパートさんの差配も重い責任。

小葉で節間は中位。ハウス向けの草姿をした「PC鶴丸」。

小葉で節間は中位。ハウス向けの草姿をした「PC鶴丸」。

各農家は選果場出荷にあたり、規格外を除いて出荷します。単為結果品種群は従来品種と比べると、やや規格外が多い傾向(出荷数は70〜80%に低下)にありましたが、「PC鶴丸」はその比率が(5〜6人の生産者のデータからですが)80〜90%に収まるようです。これならばホルモン処理やハチのコスト(おそらく生産コストの10%程度)を考えれば十分有利と考えられます。また、栽培を重ねるうちに出荷可能比率は上がる傾向にあり、収量差は従来品種に迫りつつある手応えだそうです。
出荷できない果実の主な原因は①花びらが付着しやすく先端や腹にキズがつく。曇天時には特に花落ちの悪さが目立ち、そこから灰色かびが発生しキズにつながる②てんぐ果(舌だし果)の発生が見られる、の2点。また、果皮がやわらかいので、ヤケが発生しやすい曇天の後の管理には注意が必要とのことでした。従来品種でも梅雨時期の品質管理には苦労しているそうですが、今年は3月と5月に現地検討会を行い、品質の向上に努めているそうです。草勢管理に慣れてくれば徐々に出荷比率が高まり、より省力のメリットが生かせる、との見立てでした。
次に生産者の糸井高美さんをお伺いしました。

栽培概要

ハウス主体で一部露地、全部で50a程度を3名で栽培しておられます。今年のハウス栽培はすべて「PC鶴丸」に切り替えられました。台木は強勢の「トレロ」。ハウス栽培では、1月5日10.5cmポット苗を定植、4本仕立てで高温期の切り戻しはせず11月上旬まで連続して収穫します。例年ではトマトトーン処理を実施。その後マルハナバチを入れ、5月以降の夏場はミツバチに切り替え、涼しくなって再度マルハナバチを使用するそうです。

導入経過

昨年ハウスで130本程度(ハウス栽培の5%程度)「PC鶴丸」を試験栽培しました。過去の単為結果品種の経験から大幅な収量減を心配しましたが、結果は例年と比べて出荷数量は80〜90%程度。この数値ならホルモン処理の手間とハチの購入費、世話を考えたら十分採算が取れる、と考え今年の全面導入に踏み切ったそうです。

栽培の実際と注意点

基本的な管理方法は従来品種と変えていないそうです。4年前からCO2処理を行っている関係から元々潅水量、施肥ともに多めでしたが、「PC鶴丸」では、昨年の試作結果から草勢は強めにもっていくよう留意し、潅水と液肥は意識してこまめに管理されていました。取材時の収量は従来品種の90%程度と見ているそうですが、今後の管理次第で同等の収量までもっていける、と自信をもっておられました。ハチの出費(年によっては60万円前後)や、ハチが働く環境整備の苦労を考えれば「PC鶴丸」を作りこなした方が得、また(ハチを使用しないので)農薬の選択肢の幅が増えたことも大きなメリットでした。こうした利点から全面切り替えに一気に舵を切られたのです。

最新の光センサーを使ったカメラ選別の7ライン。夜なべの選果作業から解放され利用者も省力化を実感。

最新の光センサーを使ったカメラ選別の7ライン。夜なべの選果作業から解放され利用者も省力化を実感。

JAにったみどり

手詰め出荷メインの 笠懸集出荷所管内でも導入に手応え

岩崎さんの連棟ハウス。手づくりの加温ハウスは当地のエコノミーハウスの先駆け。

岩崎さんの連棟ハウス。手づくりの加温ハウスは当地のエコノミーハウスの先駆け。

JAにったみどり営農部笠懸営農課の大堀晃さん(奥)と管内生産者の岩崎俊明さん。

JAにったみどり営農部笠懸営農課の大堀晃さん(奥)と管内生産者の岩崎俊明さん。

地域の特徴

JAにったみどりは群馬県の東部に位置し、桐生市、みどり市、太田市、伊勢崎市境平塚地区が管内となります。笠懸地区はその中では北部に位置し、前出のJA佐波伊勢崎と隣接しており、同じように年間安定した日照時間と豊富な水源を利用した畑作が盛んです。
笠懸地区はJAにったみどり管内で一番ナス栽培が盛んで、令和4年度の作付はハウス栽培は70戸弱、約20ha、露地栽培は50戸弱、約11haを誇ります。ハウス栽培のメイン作型は、1月末〜2月定植→3月中旬〜7月末まで収穫。後作はホウレンソウ栽培への切り替えが多いのですが、2割程度の農家はナスを引き続き11月まで収穫します。すべて個人で箱詰めされ、1箱=3本詰めを30袋または4〜5本詰めを20袋。15時までに出荷所に持ち込まれ首都圏含め約10市場に出荷されます。
笠懸地区の営農担当である営農部笠懸営農課係長大堀晃さんは「PC鶴丸」に切り替える生産者が自分の予想を超えていたことに驚かれています。

JAにったみどり

集荷場に箱詰めした「PC鶴丸」を持ち込む岩崎さん。J Aにったみどりは個人で箱詰めをする産地だ。

集荷場に箱詰めした「PC鶴丸」を持ち込む岩崎さん。J Aにったみどりは個人で箱詰めをする産地だ。

「PC鶴丸」の導入について

単為結果の品種は以前から試験していましたが、「PC鶴丸」の本格導入は昨年から。今期はハウス栽培農家の約半分が「PC鶴丸」の導入を開始し、そのうち10 戸以上はすべて「PC鶴丸」への切り替えです。今までのハウス用主力品種の栽培実績は常に安定しており、これまで単為結果品種の積極推進もしてこなかったので、この「PC鶴丸」の急激な導入には正直驚かれている様子でした。その原因を次のように分析しておられました。

❶ホルモン処理、花粉媒介用ハチの管理の手間や購入コストがかからない。ハチアレルギーの心配がない。農薬の選択範囲が増える。
❷草姿は小葉で節間は短く、ハウス栽培向きで、従来品種に変えても違和感が少ない。果実品質も問題なし。
❸収量は現状では10%程度落ちるものの、上記のメリットを考えると十分価値がある。
「諸々考えると、(PC鶴丸を)一度経験したら、もう従来品種には戻れないのではないか」との感想が印象的でした。

岩崎さんは13.5pポットで育苗し大苗を12月19日に定植、その後草勢確保のため12月末までに開花した花はすべて落とし1月末から収穫を開始する。最終は10月末まで。ねらいは加温して値段が付く3月に1回目のピークをもっていくため。

岩崎さんは13.5pポットで育苗し大苗を12月19日に定植、その後草勢確保のため12月末までに開花した花はすべて落とし1月末から収穫を開始する。最終は10月末まで。ねらいは加温して値段が付く3月に1回目のピークをもっていくため。

「PC鶴丸」の現状と課題

「PC鶴丸」の収量は現在のところ、従来品種の90%程度のようです。減収の要因については、@側枝の生長がやや遅い、A花びらの付着によるキズ、Bてんぐ果(舌だし果)が見られる、との3点を挙げておられました。これについては、「PC鶴丸」に適した草勢管理である程度解決できるとされています。具体的には従来品種よりも潅水をこまめにして肥培管理を適正化して草勢を落とさないことが肝だとの判断でした。なお、花びらの付着については、トルキャップ(スムーズな花びらの落下が期待できる)の使用をすすめており、好結果が得られている様子です。

最近では貴重になった束出荷荷姿、250g束、小野さんの作業場にて。

花柄の付着には注意が必要。

果実の品質については従来品種と遜色なく満足しているそうです。色は良好、ややつやが落ちる傾向にありますが、ほとんど見分けはつかない程度、果皮はやわらかく、肉質はしっかりして食味では上だとの評価でした。なお、「ホルモン処理やハチを使用しないでよいのならナスの栽培を増やしたい」との声も多く、「PC鶴丸」は1戸単位のナス栽培面積の増加にも一役買っているそうです。
ナス栽培歴45年の岩崎俊明さんにお伺いしました。

栽培概要

岩崎俊明さんはナス栽培歴45年、この地区のハウス栽培の先駆けです。ナスの栽培を始めた当初からの連棟ハウスを主力に、無加温ハウスとあわせて約200本弱の栽培です。夫婦2名での作業ではこれが手一杯だと言います。
連棟ハウス栽培では、13.5cmポット育苗のやや老化苗を12月19日に定植、年末までに開花した花はすべて落として、1月末から収穫開始し、10月末までの収穫を続けます。無加温ハウス栽培は3月1日定植で12月中旬まで連続して収穫する予定です。台木は「トレロ」。4本仕立てです。

導入経過

単為結果ナスは新しい技術として興味があり、いろいろな品種を試験した中で、「PC鶴丸」が❶葉がコンパクトで短節間のためハウス向きの草姿で従来品種に一番近く、❷果実の品質がほかの単為結果品種よりよいため、これなら本気で取り組めると思い、今年は全面的に導入したそうです。
また、ホルモン処理を従来品種は奥さんと2人でしていましたが、低温期から高温期まで必要ないため、奥さんの「もう通常品種には戻りたくない」との意見も後押しになったようです。

栽培の実際とこれから

栽培方法は従来品種に準じていますが、潅水、液肥をよりこまめに実施し、後半は粒状肥料も使い草勢維持に努めるそうです。気になる収量については「試作を始めて以来、年々とれる量は増えており決して少なくない」「収量の乱高下がない」と品種の力に満足されている言葉をいただきました。また、低温期でも確実に着果すること、(側枝の生長がやや遅いように感じていたが)高温期では意外と動きがよいこと、などの特性が分かってきたことから、越冬作型への応用、生育後半の整枝方法など、「PC鶴丸」に合った栽培でこの品種を使いこなしたい、と導入に向けて前向きでした。
なお、近年の気候の変化から、夏季はもとより梅雨時期でも直射日光の日差しは強いので、ハウスの張り替えの際により散乱光の機能のあるフィルムに変えました。直射日光を受けず、かつハウスの隅々まで光が届くので、栽培中のナスはもちろん、人間に当たる光も分散し、中で作業する人間にもやさしい上、収穫量も変わらないとのことです。ひと昔前までは生産者は休みなく働くのが当たりまえという意識から、多少コストをかけて作物によいのはもちろん、快適な職場環境にしたい、との変化を感じます。
タキイでは、各地のナス産地向けに単為結果ナスの品種展開を進めています。持続可能な農業へ、それぞれの栽培に合ったご検討をお願いします。

JAにったみどり営農部笠懸営農課の大堀晃さん。今期「PC鶴丸」へ切り替えた人は大堀さんの予想を超えた。「従来品種に近い手癖で栽培できることで切り替えやすい上、単為結果のありがたさを知ればもう戻れないだろう」とその威力に驚かれていました。

JAにったみどり営農部笠懸営農課の大堀晃さん。今期「PC鶴丸」へ切り替えた人は大堀さんの予想を超えた。「従来品種に近い手癖で栽培できることで切り替えやすい上、単為結果のありがたさを知ればもう戻れないだろう」とその威力に驚かれていました。

側枝は第1果上で摘芯し、収穫時に孫枝を残して連続して収穫。「PC鶴丸」の葉は側枝以降の葉がコンパクトで手入れしなくてもすっきりしていると岩崎さん。

側枝は第1果上で摘芯し、収穫時に孫枝を残して連続して収穫。「PC鶴丸」の葉は側枝以降の葉がコンパクトで手入れしなくてもすっきりしていると岩崎さん。