産地ルポ

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2022/7/20掲載

佐賀県白石地区、(有)佐賀東部青果
タマネギ「ボルト」と
赤タマネギ「ケルたまルビー」への期待

2022年の佐賀産タマネギ(作付け面積:全国2位)の相場は、北海道産の不作や中国産の輸入停止を背景に、出荷価格が高騰。2年前のコロナ禍による需要減を受け出荷の平準化を図るため早生作型のマルチ栽培の一部を露地栽培に転換したことから、早出しの出始めで出荷減も影響しました。5月の連休前には平均価格の4〜5倍の値をつけるなど近年にない状況下でした。

編集部

赤タマネギの扱いが多い佐賀東部青果

今回は佐賀県白石町の佐賀東部青果様にお話しを伺いました。佐賀東部青果様は同地区の青果会社の中でも赤タマネギの扱いが多い特長があります。営業部次長の山口将広氏に、4月中下旬収穫の高値時期に成績のよかった早生品種の「ボルト」と2022年産から導入いただいた赤タマネギの「ケルたまルビー」についてお話をお伺いしました。

JAいるま野

JAいるま野

硬玉で秀品率がよかった「ボルト」

今年の早生種は価格上昇が始まった4月中旬ごろからの収穫でした。この時期の主力の他社品種は3年前の豊作時、増反していたマルチ栽培は肥大しすぎて価格が安い2〜3Lサイズが発生しやすい状況でした。タキイの早生タマネギ「ボルト」は立葉で病気にかかりにくく、価格が高いLサイズでのそろいがよく作業性にすぐれているというのが山口氏の評価です。早生マルチ栽培は保温重視の透明マルチと、防草も兼ねた緑マルチが使われますが、「ボルト」はどちらの栽培でも硬玉で平玉の発生も少なく、しっかり量もとれたそうです。これまでも暖冬年での硬玉・Lぞろいという能力を発揮していましたが、心配された寒冷の本年でも肥大に問題がなく品質安定をもたらしたことで現地の評価が高まっています。現在4品種ほど早生品種がある中で、「ボルト」にまとまって注文が上がってくるというのが山口次長の見立てです。資材費高騰の状況下、早生露地作型での実績にも期待したいところです。

「ケルたまルビー」は草勢があり貯蔵がしやすい中早生種

白石管内の青果会社の中では佐賀東部青果様が赤タマネギの取り扱いでは最大手と思われ、山口氏によると、赤タマネギの取り扱いは全体で7ha、20sコンテナで2万ケースの出荷があるそうです。現在は4月半ばに出荷される他社品種から始まり、主流となるのは中早生種のマルチ栽培・露地栽培で5月に出荷されます。

冷蔵庫にコンテナ保存された赤タマネギ

冷蔵庫にコンテナ保存された赤タマネギ

「ケルたまルビー」は作りやすさと肥大性のよさで評価され、導入されました。加えてアントシアニンを豊富に含む品種で色の入りもよく、球内の赤色がくっきりする面も従来品種から向上していると評価いただいています。
山口氏が赤タマネギの栽培面で注意を呼び掛けるのは、貯蔵を伸ばすため最後の止め肥が遅れないようにするということです。止め肥が遅れると収穫時期の遅れや裂皮につながります。過去2年間の試作から「ケルたまルビー」は草勢があり、病気が入りにくく、止め肥を実施しなくても葉がしっかり立っているといいます。裂皮しやすい圃場では敢えて止め肥をしないようにされるそうです。

5月中下旬倒伏した「ケルたまルビー」を圃場で確認する山口さん。

5月中下旬倒伏した「ケルたまルビー」を圃場で確認する山口さん。

佐賀東部青果様では冷蔵貯蔵施設も完備しているため、8月いっぱいまで販売可能です。佐賀東部青果に出荷される生産者は30人ほどですが、2022年産の「ケルたまルビー」は5.5〜6tの反収があり収量面でも問題がなく、収穫後早めに冷蔵貯蔵することで長く貯蔵もきくとのこと。根切りを入れて上手に枯らすよう栽培すれば貯蔵性も上がるということでした。また赤タマネギの2級品は加工ができる黄玉と違って使いどころが少なく裂皮の発生に注意したいということでした。

品質を確認する山口さん。従来品種と比して色味や品質も向上したという。

品質を確認する山口さん。従来品種と比して色味や品質も向上したという。

調製作業中の「ケルたまルビー」

調製作業中の「ケルたまルビー」

調製作業中の「ケルたまルビー」

調製作業中の「ケルたまルビー」

早生を求めるのでなく貯蔵施設を生かして

山口氏は早生マルチ栽培においては透明より緑マルチを生産者に薦めています。理由は早さを追及した結果、肥大しすぎる透明マルチ栽培より、首しまりがよく肥大が抑えられる緑マルチ栽培の方が販売に有利だということです。当地区でのタマネギ生産者の平均年齢は66.7歳、面積も全体で約1,800haに減少しています。今年の高値を区切りにやめる生産者が増えないかも心配されています。2年前の暴落で機械を処分した高齢の生産者もいるという中、面積を増やしていくには人を手配して収穫作業を分業していくしかないとの見解です。そのためには「ボルト」や「ケルたまルビー」のように機械収穫に向くそろいのよい硬玉のタマネギを導入し、冷蔵貯蔵施設を利用して安定した価格で販売を継続することが大事ではないかと話していただけました。

硬玉の「ケルたまルビー」は従来品種より機械収穫に適していると期待されている。

硬玉の「ケルたまルビー」は従来品種より機械収穫に適していると期待されている。