産地ルポ
2025/7/25掲載
産地ルポ
2025/7/25掲載
右からJA島原雲仙 南串地区営農センターの和田修一さんと山本晃裕さん。
編集部 2024年10月31日取材
長崎県南東部に位置するJA島原雲仙では、イチゴをはじめとする施設園芸とバレイショなどの露地野菜に畜産を含めた農業粗生産額は県全体の約40%を占めるほどで、島原半島は長崎県を代表する農業地帯となっています。
半島西南部の雲仙市南串山町は海と山に囲まれた、温暖で放射冷却を受けにくい地域で、水もちのよい肥沃な赤黄色土と、丘陵の多い地形を生かした水はけのよい段々畑でレタスやバレイショの栽培が盛んに行われています。
南串山棚畑展望台から望む橘湾に面する段々畑。
当地のレタスの出荷は10月中旬ごろから始まり、最盛期の12月〜3月には月10万ケース(3L・1箱12玉入り)、最終の5月下旬ごろまでを合わせると年間60万ケース(6000t)を数えます。温暖な気候を生かして冬レタスの西の大規模産地として、九州、京浜市場の大消費地だけでなく外食用として北海道まで輸送されています。
2024年度のJA島原雲仙南串地区のレタス部会は非結球レタス生産者を含めて45名が所属し、作付面積は約135haあります。最盛期には「農援隊」と呼ばれる収穫支援チームが依頼を受け農家の収穫を行うシステムがあり、安定出荷に寄与しています。また、当地は後継者が多く、30〜40代の生産者の割合が高いことも特徴です。
約6haの畑を1.5回転(延べ面積8.5〜9ha)でレタスを栽培する佐藤洋さんは「ヒートガイ」を2024年から導入しました。10月中旬以降の長野県産が終わる端境期をねらった作型で導入されています。南串地区管内で2023年度に「ヒートガイ」を試験導入した生産者は5〜6軒でしたが、その評判は徐々に広まり、2024年度は約10軒に増加、佐藤さんもそのひとりです。
大面積でレタスとバレイショを栽培する佐藤さん。「ヒートガイ」に合わせた肥培管理で特性を生かす。
「下葉がとろけにくく、軟腐病に強い印象。2024年の暑さでも結球が安定し、暑さにも強い」
9月5日まきを含む50a分で導入し、これまで作っていた他品種と比較しました。また、他の生産者が8月10日まきで栽培されている状況を見たところ、2024年の高温でも生育が安定していたため「ヒートガイ」は暑さにも強いことはほぼ間違いないといいます。
一方で、9月5日まきの「ヒートガイ」は、育苗段階では他品種と比べて苗の伸びが遅く育苗日数は多くかかるとのことでした。収穫に関しても3〜4日遅れる性質がありますが、他品種が収穫まで至らないことがある中で「ヒートガイ」は確実に収穫できることは品種の強みとみています。
2024年の結果から次作の処方もすでに出ています。施肥量は現行の品種より多めに設定し、生育特性を加味した栽培計画を立てることで、「ヒートガイ」の特長を最大限生かせると、次年度に向け検討されていました。
前年まで使用していた品種より葉が立ちぎみに巻き、最後に玉が座ってくる「ヒートガイ」。お尻の切り口は小さい。
南串山町と西有家町の約3.8haでレタス栽培をする松山太さんは、8月20日まきで9月10〜25日定植、10月23日〜11月10日収穫で「ヒートガイ」を作付けされていました。
3年ほど前から9〜10月の乾燥によって多くの品種で不結球が増加。2023年はどの品種でも不結球が発生した中で、「ヒートガイ」は不結球ぎみにはなったものの、最終的に収穫まで可能でした。
天候が安定しない10月は、貴重な晴れ間をぬって収穫と冬どりレタスの圃場の準備を行うという松山さん。
この地域は根腐病のレース1・レース2に耐病性が必要ですが、「ヒートガイ」はその点でも条件を満たしています。他品種より苗の伸びが緩慢ではあるものの、生育のコントロールが難しい高温乾燥条件下で結球性が安定している点を評価され、2023年秋は6aの作付から、2024年は35aに増やされていました。
「GGAP※認証を取得した青果物しか扱わない販売先へも出荷でき、部会としての販路の確保、安定所得につながる」
JA島原雲仙南串地区では毎年部会員の中から希望者がGGAP認証を受けることができます。松山さんも4年前にGGAP認証を取得し、部会全体では2024年度までで7軒が認証を取得しています(2024年度の取得予定も含む)。
営農指導員として2年目の山本さんは、和田さんと共に産地の安定出荷に向け、定期的に圃場巡回する。収穫間近となった「ヒートガイ」を確認する。(松山さんの圃場にて)
物流コストの値上がり、物価高騰による経費増大など栽培や出荷にかかる経費の負担は増すばかり。販売担当の和田さんは、生産者の継続的な安定所得確保のために、販売業者との価格交渉は今後も行っていかなければならないといいます。同時にレタス産地として、出荷量および品質維持のための品種選定も重要。新品種の試験もメーカーと一身になって取り組みながら採用を決めています。
2024年度から当地で暦掲載された「ヒートガイ」。厳しさが増す秋どりの選択肢として安定生産に貢献していくことを期待します。
2025年
秋種特集号 vol.60
2025年
春種特集号 vol.59