産地ルポ
2025/7/25掲載
産地ルポ
2025/7/25掲載
編集部 2025年1月30日取材
島原半島は、普賢岳(1,359m)を中心とした雲仙山系と、それに連なる緩やかな丘陵地帯および海岸沿いに広がる平野部からなっています。一方で平地に乏しく傾斜地で細分化された耕地が分散し、大半の耕地は畑地帯となっています。島原市は、島原半島の北東部に位置し年間の平均気温が17.3℃、降水量が2,026mm、日照時間が2,200時間という温暖な気候に恵まれています。土壌も肥沃で、市内中心部にある白土湖の湧水を利用して畑地潅漑が整備され、様々な作物が安定生産できる環境となっています。
島原市有明町にある島原鉄道「大三東駅」は有明海がすぐそばの「日本一海に近い駅」の一つです。
JA島原雲仙有明人参部会は部会員124名で、栽培面積の内訳は春夏栽培が約90ha、秋冬栽培が約80haとなっています。
JAの指針で秋冬どりの播種は8月1日〜9月20日までに定められ、出荷は11月上旬〜2月中旬までとなります。
春夏ニンジンはトンネル栽培が10月中旬〜2月中旬まき、ベタがけ栽培は2月〜3月上旬までの範囲です。収穫時期は3月中旬〜6月下旬となっています。近年はベタがけ栽培の播種日が年々早まり、JAの指針より早い1月播種の生産者も見られるようになりました。比率的にトンネル4に対しベタがけ6の割合となり、ベタがけ栽培が増加傾向です。春夏どりの出荷は6月いっぱいまでと部会で定められています。これは7月に入ると品質が落ちてくるので、『島原ブランド』を守るための取り決めとなっています。
有明地区の栽培の特徴は、秋冬どり栽培においては間引きをする生産者が一定数いることです。なぜなら暑さの中で発芽や生育をそろえることを重視しているからです。暑い時期の間引き作業は過酷ですが、品質のよいニンジンを出荷したい生産者の意気込みがうかがえます。さらに、各生産者は収穫用の機械を保有しており、適期収穫での高品質確保を目指しています。
秋冬栽培では、夏の高温で8月上中旬の播種は年々厳しくなっており、播種日の後進傾向が顕著です。そのため、温暖な土地柄とはいえ、9月播種が多くなると寒さの厳しくなる年明けどりの割合が以前より増えてきました。作型の後退で、機械収穫に適した葉の耐寒性や根部の割れにくい品種が求められるようになってきました。
有明地区で「冬ちあき」は、厳寒期でも割れが少ない品種として評価が上がっています。尻づまりがよいため重量が出やすく、収量性にもすぐれるとして年内〜年明けどりの作型で栽培されています。JA島原雲仙営農部有明地区営農センター主任の本多浩介さん、有明人参部会副部会長の生産者前田圭佑さんからは、「試験から3年栽培しているが、割れが少なくて高秀品率で収量が確保できる」と「冬ちあき」の利点を評価いただいています。
前田さんは9月5日まきの1月28日収穫。割れにくく在圃性があることや、ある程度の大きさもあり尻詰まりがよいと「冬ちあき」に期待。
前田さんは、「冬ちあき」を以前に7p株間で作ったときに根長が長くなる印象があったので株間5〜6pで播種されており、今はちょうどよい根長で収穫できているそうです。
「発芽は本当に大切ですが、この品種の発芽はそろいますね」
割れない、そろいがいい「冬ちあき」は有明地区で現在、8月下旬〜9月中旬まきの年内〜年明けどりでよい品種特性を示し、島原ニンジン生産の一助となっています。
同じ島原市有明町でも大三東地区は地下水による灌漑施設がありますが、前田さんの圃場がある湯江地区は灌漑施設がなく潅水は天水利用です。
「発芽がそろったタイミングで水をやれるかで、作柄の多くが決まるのですが…」という前田さん。昨秋の9月前半は雨が降らず、やきもきしたそうですが、9月22日に66.5mmのしっかりした降雨があり、概ね発芽は順調だったそうです。「特に、8月まきの年内どり分は間引きしないとよいモノがとれないので…」この間引きはみなさん手作業だというから驚きです。
「本葉3枚までが大事で胚軸がぐらつくサイズの時にいかに丁寧に土寄せをし、暑さから守ることが品質のよいニンジン生産には重要です」
手間のかかる作業ですが「間引き」と本葉3枚までの「土寄せ」の大切さを話していただけました。
さらに、前田さんは12月に霜が降りる時期にカルシウム剤を葉面散布されます。これは機械収穫のために寒さに耐える葉を作ることや、葉ができすぎて根の太りが悪くならないようにするための工夫です。こうして地道に手をかける栽培が、「島原ブランド」ニンジンを支えているともいえます。
収穫されたニンジンはJ A島原雲仙有明地区人参洗浄選別施設へ運び込まれる。従来のミニコンテナ出荷に加えフレコンも活用されている。
目視で規格外が除かれた後、選別ラインで規格に分けられる。
「冬ちあき」の出荷箱をもつJA島原雲仙営農部北部基幹営農センター有明地区営農センターの本多浩介さん。
肩の障害(エクボ症)が今年(2025年)は多かったようです。年々暑くなる中、作型の見直しや品種選定を地元の振興局が実施していく予定です。本多さんからは、例えば従来品種でも肩の障害が発生しにくい「翔馬」を見直すというのも一つの考え方だとし、また、高温期でも発芽が比較的安定している「向陽二号」も8月まきでは見直すべきかもしれません、とのコメントがありました。温暖化で作型の見直しとそれに合わせて品種も再選定が必要な時期です。
前田さんは32歳で就農14年目。若手がもっと生産者の集まりに出てくることを期待されています。
「部会の集まりでは親世代が出てきますので、若手で集まる機会を作って栽培研修や情報交換などしたいですね」
と話される前田さん。副部会長として品質のよいニンジン出荷を目指して栽培しながら、さまざまな可能性を探求されています。
有明町湯江地区で「冬ちあき」を手にした有明人参部会副部会長の前田圭佑さん。
2025年
秋種特集号 vol.60
2025年
春種特集号 vol.59