産地ルポ

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2022/2/21掲載

発芽良好で栽培性が高い「ほしつぶコーン」
〜千葉県・群馬県での導入事例〜

関東平坦地で栽培されるスイートコーンは、7月中旬ごろ、梅雨明けとともに出荷量が減少します。その後、8月上旬に入り北海道からの出荷が本格化するまでの間、夜温が下がる海沿いの千葉県銚子市や、群馬県の準高冷地で栽培されたスイートコーンが京浜地区の需要をまかないます。
今回は、この時期のスイートコーン栽培を担う千葉県銚子市と群馬県昭和村で、「ほしつぶコーン」を作付けしていただいた生産者の方にお話を伺いました。

編集部

事例1千葉県銚子市

地域の概況 海沿いの産地、千葉県銚子市

千葉県銚子市は周囲を海に囲まれた海洋性気候帯で、日中でも30℃を超えることは少なく、リモートワークが前提となる中で、東京からの移住先としても注目されています。「夏は涼しく、冬は暖かい」気候を生かした農業で、秋〜春ダイコン、冬春キャベツの代表的な産地です。スイートコーンは夏の涼しさを生かした栽培品目として定着しており、本格播種は5月からと関東地区では比較的遅く、7月下旬が出荷最盛期となります。
銚子市では、年によって異なりますが、倒伏による作業性不良、紋枯病による収量減、先端不稔やしなびによる品質低下などが栽培上の問題となっており、例年品種選定を難しくしているそうです。

千葉県銚子市

株式会社野村商店 野村隆之介さん株式会社野村商店 野村隆之介さん

株式会社野村商店は銚子地区の農産物を集出荷している卸売業者です。主力はダイコン、キャベツ、ニンジンですが、夏はメロンやスイートコーンなども重要品目です。
野村商店が扱うスイートコーン銘柄の「イエロークールサブマリン」は、銚子漁港で使われる氷を詰めて出荷されるスイートコーン。関東では珍しい氷詰めという出荷形態と、安定した品質から評価は高く、主に東京〜大阪間の比較的人口の密集した地域にある市場向けに出荷されています。
品種指定はなく、栽培農家とどの品目をいつ出荷するか、しっかりとすり合わせすることで出荷品質を安定させているそうです。そのため、品種選定は重要な要素になります。

「イエロークールサブマリン」として、氷詰め出荷される「ほしつぶコーン」。港町の銚子市らしい資源を活用。

「イエロークールサブマリン」として、氷詰め出荷される「ほしつぶコーン」。港町の銚子市らしい資源を活用。

「イエロークールサブマリン」として、氷詰め出荷される「ほしつぶコーン」。港町の銚子市らしい資源を活用。

出荷箱を前に、野村商店の販売スタッフの方々。コーンの穂を潜水艦に見立てたポップなロゴデザインは、隆之介さんの叔母さんが手掛けた。

出荷箱を前に、野村商店の販売スタッフの方々。コーンの穂を潜水艦に見立てたポップなロゴデザインは、隆之介さんの叔母さんが手掛けた。

穂の品質が安定し、栽培性も高い

野村商店で出荷を担当されている野村隆之介さんは、「ほしつぶコーン」について「穂の品質が安定し、栽培面についてもバランスのとれている品種です」と注目しています。
野村商店では、2020年から「ほしつぶコーン」の試作を行ってきましたが、糖度、大きさ、包皮の色、かぶり、しなびが問題となったことはなく、特に穂の品質は安定しているそうです。栽培面でも、草丈が低く、着穂位置も比較的低いため安定感があり、分けつは中位で風通しがよく、収穫作業性も良好とのことです。
銚子市は年間を通じて風が強く、風力発電設備が集中していることでも知られています。2021年は前年ほどの大風がなかったため、耐倒伏性に関しては十分に検証できていないものの、「ほしつぶコーン」は草丈が低く、二次根の張りもよいため、比較的風に強いと判断されています。
また、銚子地区では、絹糸についたかびが先端部の子実にうつる赤かび病が近年問題となっており、本病への耐性は注視していきたいとのことでした。
「ほしつぶコーン」は品質および栽培面での安定性がよいことから「徐々にではあるものの、栽培は増加すると思います」と野村さんの期待も高まっています。

続いて、野村商店関係のスイートコーン生産者の方々からいただいた
評価をご紹介します(いずれも2021年の栽培)。

千葉県銚子市 古川裕さん千葉県銚子市 古川裕さん
1粒まきでも安定した発芽

銚子市の古川裕さんは、他社の88日タイプを栽培されていましたが、倒伏の問題があり「ほしつぶコーン」を導入されました。5月上旬播種で栽培され「1粒まきでしたが発芽がよく、草丈が低い割に穂は大きくなりました。余分な分けつが少ないので収穫作業性もよかったです」との評価をいただきました。

5月10日に条間60cm1条、株間28〜32cm、1粒まきにて播種。マルチはなし。交配が終わったころに雄花を除去している。収穫は7月23日。

5月10日に条間60cm1条、株間28〜32cm、1粒まきにて播種。マルチはなし。交配が終わったころに雄花を除去している。収穫は7月23日。

収穫前日の果実。旗葉の色が濃く、先端不稔なしでかぶりもよい。熟期は85日よりかなり早い。

収穫前日の果実。旗葉の色が濃く、先端不稔なしでかぶりもよい。熟期は85日よりかなり早い。

千葉県銚子市 岩瀬修一さん千葉県銚子市 岩瀬修一さん
先端不稔なく、そろいもよい

同じく銚子市の岩瀬修一さんは、他社の88〜90日タイプを栽培されていましたが、先端不稔が見られたため、「より安定した品種を」と思い、2021年は他社86日タイプに加え、「ほしつぶコーン」を導入。
その結果、懸念されていた先端不稔や、先端の露出はなし。「発芽が安定していて、草丈が低いにも関わらず、2L中心によくそろった果実が収穫できました」と、品質にはご満足いただけたようです。

「ほしつぶコーン」の二次根の様子。

「ほしつぶコーン」の二次根の様子。

同日(5月5日)にまいた他社品種より、2〜3日熟期が早かった「ほしつぶコーン」(7月19日撮影)。先端部はやや尖り、先端露出の危険が少ない。

同日(5月5日)にまいた他社品種より、2〜3日熟期が早かった「ほしつぶコーン」(7月19日撮影)。先端部はやや尖り、先端露出の危険が少ない。

事例2群馬県昭和村の事例

地域の概況 春〜秋野菜の一大供給地、群馬県昭和村

群馬県昭和村は、群馬県のほぼ中央にある赤城山の北西麓にあります。標高は350〜800mで気温の日較差が大きく、日照時間が長いので、良質な高原野菜が収穫できます。代表的な野菜はホウレンソウ、コマツナ、レタス、キャベツで、こんにゃく芋の生産量は日本一です。
また、こうした気候条件から、良質なスイートコーン栽培も盛んですが、倒伏による作業性、品質の低下、年によっては紋枯病による収量減が問題となっており、これらに対応できる品種が求められています。
当地には約70名の組合員を擁する赤城高原共栄出荷組合があり、15〜20名の組合員がスイートコーン栽培を手掛けています。出荷時期は7月中旬から8月下旬。ピークの8月上旬には、1日600〜1000ケースを出荷します。組合が出荷するスイートコーンは、京浜地区の有力スーパーからの絶大な信用を得ていて、甘みとコクが乗ることで定評があります。

群馬県昭和村

群馬県昭和村 金子洋一さん群馬県昭和村 金子洋一さん
良好な発芽と草丈の低さが印象的

組合員の一人、金子洋一さんは、2021年の栽培で、他社88日タイプと併せて「ほしつぶコーン」を導入。「発芽は1粒まきでも可能と思うほど良好で安定感があり、他社88日タイプに比べて、初期から草丈は低く、出荷時期でも160〜170cm程度という印象です」と、発芽の安定と草丈の低さが特長的だとか。 また、草丈が低いわりには子実が大きく、旗葉の色、先端のかぶり、食感、糖度も良好で、品質に関して問題点は見当たらないと太鼓判。一方、着穂位置は比較的低く、2穂が連続するものの2番穂は糖度が安定せず、粒列も乱れるものがあり、経済出荷には向かなかったそうです。さらに、従来の88日タイプに慣れていることもあり、熟期には注意したものの、85日タイプよりもやや早い収穫適期との印象でした。

父の松二郎さん(右)、息子の拓磨さん(左)とともに、親子3代で農家を営む。

父の松二郎さん(右)、息子の拓磨さん(左)とともに、親子3代で農家を営む。

倒伏については、「今期はどの品種も大きな問題は発生していませんが、草丈の低さ、根張り、着穂位置から考えて他社88日タイプと同等かそれ以上と見ています」とのことから、「作りやすく、青果品質の安定した品種として今後も栽培に取り組んでいきたい」と評価いただきました。

播種は5月10日2粒まき。9235マルチを使用。生育初期から草丈が低いことが よくわかる(5月29日撮影)。

播種は5月10日2粒まき。9235マルチを使用。生育初期から草丈が低いことが よくわかる(5月29日撮影)。

間引き後、草丈60〜70pでマルチを除去。分けつは放任。収穫期の草丈の低さは一目瞭然(7月29日撮影)。

間引き後、草丈60〜70pでマルチを除去。分けつは放任。収穫期の草丈の低さは一目瞭然(7月29日撮影)。

収穫作業の様子。穂の色、大きさともに申し分なし。

収穫作業の様子。穂の色、大きさともに申し分なし。

収穫作業の様子。穂の色、大きさともに申し分なし。