産地ルポ

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2025/7/25掲載

栃木県 JAうつのみや
さらなる秀品率、品質安定を目指し
黄変果の発生が少ない「桃太郎ブライト」が増加

色回りのよい「桃太郎ブライト」を手に、JAうつのみや営農部園芸課の石ア将弘さん(左)と生産者の鈴木智博さん(右)。

色回りのよい「桃太郎ブライト」を手に、JAうつのみや営農部園芸課の石ア将弘さん(左)と生産者の鈴木智博さん(右)。

編集部 2025年2月12日取材

地域概況

JAうつのみやは栃木県のほぼ中心に位置し、管内は2市1町(宇都宮市、下野市の一部、上三川町)からなっています。
鬼怒川水系を中心とする豊かな水と肥沃な農地、長い日照時間、内陸のため台風被害が少ないなど恵まれた環境で、稲作を中心にイチゴ、ナシ、トマト、ニラなど、様々な農産物の生産が盛んです。首都圏まで100q圏内で近辺に自動車関連工場が多いことから道路環境は良好で、園芸産地としてますます重要性が増しています。また、宇都宮市は県庁所在地で人口50万人強の大消費地であること、工業団地が多いことから近郊農業の一面ももち合わせています。

栃木県 JAうつのみや

JAうつのみやのトマト生産について

栃木県のトマト生産額は近年70〜80億円弱で推移しており、全国で5本の指に入ります。そのうちJAうつのみやは約10億円の生産額を誇ります。栃木県全体では冬〜春トマトが主体ですが、JAうつのみやは周年出荷が特徴です。その作型は、
❶越冬(収穫:10月〜翌年6月、以下同様)
❷春(1〜6月)
❸半促成(5〜7月)
❹夏秋(6〜8月)
❺抑制(8〜11月)
の5つに分類され、年間を通じてJAのトマトの選果場を経由して主に首都圏市場などへ出荷されます。

全部の作型を統括するトマト専門部会は約100名(2024年現在)で構成されており、の作型ごとにグループ長が置かれ、おいしいトマトを生産するために日々努力を重ねています。その中で春トマト(全体の約半分の栽培面積)中心に「桃太郎ブライト」の評価が高まりつつあります。

JAうつのみや トマト作型一覧(2024年度産)

JAうつのみや トマト作型一覧(2024年度産)
  • ※1人が複数作型で栽培しているため、作付数(人)の合計は会員数を上回ります。

課題解決の一手として「桃太郎ブライト」

JAうつのみや営農部園芸課・トマト専門部部会運営担当の石ア将弘さんに品種の動向と「桃太郎ブライト」についてお伺いしました。

「JAとしての品種指定は特にありませんが、1年を通じてお客さまにおいしいトマトを届けたい」との思いから、おのずと桃太郎系に絞られていました。しかし近年はⓐ黄化葉巻病の発生 ⓑ高温の常態化による品質異常(特に黄変果の発生)などから、それらに対応した栽培管理と品種選択が重要になってきました。青枯病は土壌消毒と接ぎ木によって回避できていますが、ⓐ ⓑに対応でき、かつ食味を満足させる品種はなかなかありませんでした。
その中で2022年より試作を行っていた「桃太郎ブライト」の安定した黄化葉巻病耐病性、暑さに負けない草勢、花質、色ムラの少ない果実特性が注目され、2024年の新発表を機に春トマトを中心として栽培面積が順調に伸びています。

春トマト栽培での「桃太郎ブライト」

「桃太郎ブライト」の栽培について、春トマトグループ長である鈴木智博さんにお伺いしました。
鈴木さんは春トマトを中心にほかの作型も含めてほぼ周年出荷しています。トマトの栽培面積は40a強、水稲と加工用の馬鈴薯との組み合わせで、パート従業員(最盛期6名、通常期3〜4名)を雇用する家族経営です。お父様の代からトマト栽培を始め45年、家業を継ぐ形で就農し25歳からずっと栽培に携わっており、「L、Mでそろったおいしいトマト」の安定供給を目指しています。

「桃太郎ブライト」の質のよい花がそろって開花していた。

「桃太郎ブライト」の質のよい花がそろって開花していた。

玉姿がきれいな「桃太郎ブライト」。玉ぞろい、色まわりがよく着果も安定。

玉姿がきれいな「桃太郎ブライト」。玉ぞろい、色まわりがよく着果も安定。

春トマトの栽培では、低濃度エタノールを用いた土壌還元消毒を実施後、10月中旬に50穴プラグトレー接木苗を裸地に定植します。台木は青枯病耐病性をもち、なるべく強勢のものを使用。果実のそろい性や作業性を重視して1本仕立て、栽植本数は1m²当たり2本を基準としていますが、5本に1本程度はやや広い間隔で定植し、万が一に備えて一部を2本仕立てにできる準備をしています。定植〜年内は手潅水、必要になれば葉かきなどで草勢管理を行い、しっかりした根張りと後半まで持続するスタミナを養います。

1〜2段はトマトトーンを使用して確実な着果とともに摘果で生育のバランスを取り、病害防除も徹底します。12月末に全面に白黒マルチを敷き、マルハナバチを導入、草勢を見ながら摘果、追肥管理を行い6月末に最終ピンチ、18〜19段まで収穫、出荷は2月中旬から7月末までです。

後半の草勢維持の環境づくりにも気を配っています。高温対策として、黄化葉巻耐病性品種の使用を前提に、ハウス上部開口部の防虫ネットは0.4o目合からマルハナネットにあえて換え、潅水ムラがないように潅水チューブは15p間隔片面のものを使用しています。

きれいに管理された春トマト栽培ハウスの面積は2,160m2。高温に備えて天井換気+谷換気仕様で大きく開く。高温対策として上部の開口部のネットを2016年に0.4mm目合からマルハナネットに変更。そのためコナジラミ対策を徹底して行う。

きれいに管理された春トマト栽培ハウスの面積は2,160m²。高温に備えて天井換気+谷換気仕様で大きく開く。高温対策として上部の開口部のネットを2016年に0.4㎜目合からマルハナネットに変更。そのためコナジラミ対策を徹底して行う。

「桃太郎ブライト」の導入過程と評価

鈴木さんが「桃太郎ブライト」を導入したのはJAからの紹介で、2022年定植の春トマト(10月12日定植→翌年8月13日まで収穫)での試作から始まりました。
当初の第一印象は「果実の色が着果始めから何となく違う」

果実のショルダーグリーンの発生がなく均一に着色する特性から、そう感じられたのかもしれません。生育全期を通じて果実がきれいに色づくこと、高温になる栽培後半まで草勢維持が容易なこと、そして良質の花が安定して咲き、花粉の出がよい、葉かび病にも強く、葉先枯れも少ない点を評価し、2023年からは、強勢台木との組み合わせで越冬、春、抑制の3作型で導入されています。
後半の草勢維持が容易なことは、結果として黄化葉巻病症状の発現が抑えられ、収量への影響を最小限にとどめることができます。また、適度な花数で花粉の出がよい点は、副次的にマルハナバチの長寿化にもつながるとのことでした。

鈴木さんから「おいしいトマトを適正価格で長期にわたって供給するために、より完成度の高い品種を提案してほしい」との熱いメッセージをいただきました。タキイ種苗では各種耐病性はもちろん、引き続き果実品質維持のスタンダードとしてムラのない着色をする品種の育成を進めています。
「桃太郎ブライト」がJAうつのみやのトマト生産農家の皆様のお役に立つことを願っています。

2004年以来、JAうつのみやのトマトを選別し、市場評価を高めてきた東部地区の選果施設。2026年5月からは「JA全農とちぎ青果物広域集出荷センター」に引き継がれることが予定されている。

2004年以来、JAうつのみやのトマトを選別し、市場評価を高めてきた東部地区の選果施設。2026年5月からは「JA全農とちぎ青果物広域集出荷センター」に引き継がれることが予定されている。

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