2024/7/22掲載
2024/7/22掲載
気候変動による春の高温化傾向がみられる中、冬春トマトの主要産地・熊本県八代地域ではヘタの周りが黄化する「黄変果」の発生がこの時期の秀品率低下の一因となっていました。黄変果対策として新品種「桃太郎ブライト」を導入されたJAやつしろ営農部の上田誠さん、佐々木勉さんと生産者の東家誠也さんにその評価をお聞きしました。
編集部 2024年2月1日取材
熊本県八代地域は、九州の中心部に位置し、全国有数の農業地域です。かつては畳の原料「い草」や贈答品の「晩白柚(ばんぺいゆ)」が名産でした。干拓事業によって広大な八代平野ができ、球磨川や氷川といった清流が潤し、肥沃な土地を生かした露地野菜のキャベツやレタス、そして干拓地に立ち並ぶハウスの施設群は八代の特長となっています。イチゴやメロンなどの施設園芸も盛んですが、中でもハウスで生産されている大玉トマトブランド「はちべえトマト」が現在八代地域を牽引しています。
トマトの2023年度の栽培面積は大玉トマトが約203ha、ミニトマトが約74haあり、国内最大の冬春トマト産地となっています。八代地域には中央トマト選果場(通称:中央館)と南部館を主に利用するトマト選果場利用組合と、西部館、北部館に出荷する組織があり、それぞれが荷受け〜出荷までを担っています。大玉トマトの年間出荷量2022年度は約3万3000tを誇り、関東、関西を中心に西日本、北海道へも出荷しています。組合員はトマト全体で約300名の大組織です。
当地では8月中旬に定植し、10月から翌6月20日まで出荷する抑制長期栽培を行っていますが、近年の気象環境の変化で春の温度が高温となっており栽培終盤(5月中旬〜6月中旬)には果実のヘタの周りが黄化する黄変果の発生が増加しています。
「桃太郎ブライト」は2021年度から熊本県野菜振興協会八代支部で毎年行っているトマト品種比較試験と少量の現地試験を開始し、1〜2年目ともに4月以降の黄変果の発生が他品種と比較して顕著に少ない結果となりました。その結果を受けて通常3年間の試験を経て導入されるところ、試験実施2年後の2023年産からの採用が決定しました。
JAやつしろ営農部中央総合営農センターで営農指導係を務める上田誠さんは、3つある組織の中で最大のトマト選果場利用組合をご担当されています。なぜ、品種比較試験を1年短縮して導入に至ったのか伺うと、「決め手は黄変果に安定して強いことですが、それだけではなく、品質、収量の面でも及第点に達していました。誰が作っても70〜80点を取れる作りやすさがあり、八代に合う品種だったからです」とトータルバランスのよさだったと明かされました。
「桃太郎ブライト」の2023年度の作付面積は管内全体で約20ha、トマト選果場利用組合では12haになります。黄変果の発生が多くなる4〜6月は出荷ピークと重なり、中央トマト選果場では1日3万ケースを出荷します。「桃太郎ブライト」の導入によって、この時期の可販果率や品質の向上に期待していると上田さんは言います。
一方で、長期作であるため産地の切り替わりの時期で高単価となる10〜11月の収量も重要です。当地では2〜3品種を組み合わせた作付けが主体ですが、「桃太郎ブライト」の年内収量はどうなのかお聞きすると「現在、JAやつしろで最も面積を占めているのは晩生の品種で、年内出荷のピークは12月中下旬ごろとなっています。『桃太郎ブライト』は、やや早い出荷ピークを迎え、特に遅い印象もないため、年内の出荷量に期待しています」とのことでした。
東家さんはトマト選果場利用組合の組合長で大玉トマトとミニトマトを合わせて約2.7ha栽培。2023年産の「桃太郎ブライト」は6m×118m4棟分の連棟ハウス27a(約6200株)で作付けされています。導入の一番の理由をお尋ねすると「黄変果に強いことだね!」と即答でした。組合の課題も黄変果対策に重点が置かれているからです。黄変果の発生が増えてくる春先の4月以降は内張の寒冷紗に加えてハウスの外側にもシルバーや白などの遮光資材をかけて黄変果対策に取り組まれています。黄変果の発生で出荷率が落ちることは精神的な負担も大きく、黄変果に強いことは生産者ニーズに沿っていると期待されていました。
「桃太郎ブライト」は栽培期間を通して草勢の乱れがなく草丈がそろっていて作りやすいこと、花数と着果が安定すること、黄化葉巻病耐病性が安定していることなど、八代の抑制長期作に適した品種特性を兼ね備えていると東家組合長は言います。
2023年産は面積拡大後1年目。期待をしつつも結果だけで即拡大ではなく、最低でも2年間は同規模で栽培をしてみて安定出荷可能な品種か見極めていきたいと決意を示していただきました。トマトの市況や物量を支える一大産地ならばこそ、その責任も重く品種選定にはじっくり時間をかけて取り組まれます。「桃太郎ブライト」が産地の一助となることを期待しています。
熊本県野菜振興協会八代支部によって、黄変果に対する品種比較調査が2021年産と2022年産で実施されました。その結果、2年間を通して「桃太郎ブライト」がほかの品種と比べて明らかに黄変果の発生が少ないことが確認されました。
2024年
秋種特集号 vol.58
2024年
春種特集号 vol.57