JA香川 トマト黄化葉巻病耐病性「TY千果」の導入で栽培性と食味を両立

2019/07/22掲載

右から仲多度地区ミニトマト部会 部会役員平包實さん、JA香川県営農部園芸課 和泉正浩課長補佐と筆者。

右から仲多度地区ミニトマト部会 部会役員平包實さん、JA香川県営農部園芸課 和泉正浩課長補佐と筆者。

地域概況 〜おだやかな気候を利用した高品質・個性化栽培に取り組む〜

JA香川県は1県1JAとして、「日本の地中海」ともいわれるおだやかな瀬戸内気候により、冬季でも暖かく、降雪日数も極めて少ない温暖な地域で、青果物の生育にとって最良の環境となっています。特産は米、野菜、花き、果樹、畜産と多岐にわたり中でも野菜は、ブロッコリー、レタス、にんにく、トマトを中心に栽培されています。トマトにおいては、温暖な気候を利用した施設栽培が盛んで、主に多度津町、さぬき市、善通寺市、東かがわ市で栽培を行っています。
また、1戸当たりの耕作面積が小さく、大量生産がかなわないことから、高品質・商材の個性化など、高付加価値の作物を作ることで国内外の競合産地との差別化を図っています。生産者一人ひとりの丁寧な栽培によりおいしい青果物を生み出しています。

香川県の主なミニトマト産地

JA香川県ミニトマト部会

当管内のミニトマトは、昭和60年ごろから栽培をはじめ、「ミニキャロル」の発表とともに急速に県下全体に普及しました。生産者は高齢化や後継者不足などで減少傾向にありますが、新規就農者も入っており、平成30年産で生産者数124戸、栽培面積15ha、出荷数量は1,180tを計画しています。栽培は通常土耕から養液栽培に移行しており、現在は6割以上が養液栽培となっています。
作型としては促成長期(8月〜6月)、抑制(8〜11月)、半促成(11月〜7月)、雨よけ(3〜10月)と作型を使い分けることで、長期出荷を可能としています。出荷先は関西(大阪、京都、兵庫)、四国を中心に行われています。

産地を悩ませるトマト黄化葉巻病(おうかはまきびょう)

トマト黄化葉巻病は、タバココナジラミによって媒介されるウイルス病で、平成17年に香川県への侵入が確認され、県内各産地に被害が拡大しました。本県では、タバココナジラミの侵入防止対策や侵入後の迅速な防除対策を実施することで対処を行っています。しかし、防虫ネットの隙間からのコナジラミの侵入などにより数カ所は黄化葉巻病の発病がみられ、被害の大きい圃場では50%近い被害株が発生する状況で防除に苦慮していました。
病害に悩む生産者からはTY(トマト黄化葉巻病耐病性)品種の登場が待ち望まれていました。

トマト黄化葉巻病に侵された株。

トマト黄化葉巻病に侵された株。

TYと食味のよさをあわせもつ「TY千果」

当管内では、以前からタキイ品種は果色が鮮明赤色系で裂果に強く、糖度も高く安定した高品質種として評価しており、主に「CF千果」「千果」を栽培していました。新品種の「TY千果」は、トマト黄化葉巻病耐病性品種として平成27年度より試験的に栽培を始め、平成30年度からは善通寺市、高松市を中心として導入が始まりました。

平成30年産JA香川県ミニトマト品種割合

平成30年産JA香川県ミニトマト品種割合

この度は、仲多度地区ミニトマト部会 部会役員平包 實(ひらがね みのる)さんの栽培を例にあげて当地の「TY千果」導入の取り組みについてご紹介します。

平包 實さんのミニトマト栽培

平包さんは善通寺市にてハウス1棟、栽培総面積約14aの養液土耕にてミニトマトの生産に取り組まれている生産者です。

平包さんのミニトマトのハウス

平包さんのミニトマトのハウス。トマト黄化葉巻病対策として、ハウスの開口部は0.4mmネットを展張。出入り口には二重にネットを張っています。

品質のよさに着目して「TY千果」を導入

「TY千果」発売当初から試験栽培を行っていた平包さんは、昨年は「TY千果」と他社品種を半分ずつ栽培していましたが、今作(平成30年度)はすべて「TY千果」を導入されました。
「『TY千果』は黄化葉巻病耐病性品種とあって被害は最小限に抑えられています」とTY耐病性については合格。果実は裂果が非常に少なく、玉ぞろいがきれいで食味もよいとTY品種の中でも品質の高さに着目された平包さん。これまで50品種以上の試験栽培を行ってきた経験から、「TY千果」の耐病性と品質を高く評価されています。
今後のさらなる収量アップを目指して、品種特性を捉えたうえでの栽培方法を確立するため試行錯誤されているところです。

平包さんの「TY千果」圃場

平包さんの「TY千果」圃場。今年から潅水をオンラインドリッパーに変更しました。記録はしっかりと残し今後に生かしています。

裂果、へた取れが少なく秀品率が高い「TY千果」

今作は定植時期の8月の高温、9月の日照不足により低段の花房が小さく、果実も小さめになりましたが、10月以降の好天候により草勢は回復しました。
「『CF千果』に比べて節間が伸びやすく、茎が折れやすいので誘引作業は気を使いますが、裂果やへた取れが少なく秀品率が上がります」と平包さんは評価されています。

裂果の少なさが食味のよさにつながる

特に平成30年は例年に比べて長雨や朝晩の寒暖差による結露が発生しやすく、ハウス内の湿度の上昇から裂果する要因が多くありましたが、「TY千果」は裂果が非常に少なかったそうです。
ミニトマトは完熟で収穫しないと、特有のえぐみ(ミニトマト臭さ)が残り、食味が悪くなるといわれます。
「裂果のリスクがある時は早めに収穫しなければなりません。けれど、裂果しにくい『TY千果』なら完熟まで近づけてから収穫できます」
えぐみがなくなり甘みが増すことが食味のよさにつながっているというのが平包さんの見立てです。裂果が少ないことは商品化率を高めるだけでなく、食味の向上にもつながっていると考えておられます。
また、近年はミニトマトを1/2カットしてサラダなどの彩りにすることも増えているので、中の果肉まで赤い「TY千果」は消費者の反応もよさそうです。

秀品率高く食味のよい「TY千果」

秀品率高く食味のよい「TY千果」。

高度環境制御を導入

高度環境制御を導入。「TY千果」は生育旺盛なので肥料濃度は高めに設定しています。

草勢の管理が良品多収のポイント

栽培については、着色スピードが他品種に比べて遅く、株への負担が多くなるため追肥や摘葉によって採光性を確保することで生育を良好に保つ必要があります。「TY千果」は特に草勢が強いため追肥量が多いと葉が大きくなりやすく、さらに日照の少ない時期は薄くて大きな葉になりやすくなります。光合成の兼ね合いで摘葉の量やタイミングを計るのが難しいようで、平包さんは株全体の状態を観察しながら的確なタイミングを模索されています。  

12月から厳寒期に向けて低日照の影響で糖度が上がりにくい時期になりますが、草勢の管理をしっかりとして3月からの収量を確保していきたいとのことです(取材は平成30年12月)。
「草勢管理は大変だが、裂果が少なく食味もよい「TY千果」をうまく栽培していきたい」
と、平包さん。耐病性と食味のよさを兼ね備えた「TY千果」に期待を寄せておられます。

「耐病性品種ではありますが、コナジラミの発生によりトマト黄化葉巻病が発病する事例もあるのでしっかりとした防除は必要ですね」と筆者。

「耐病性品種ではありますが、コナジラミの発生によりトマト黄化葉巻病が発病する事例もあるのでしっかりとした防除は必要ですね」と筆者。

「他品種と特性に違いがあり戸惑いも多いがポイントを押さえて高収量を目指したい」と意気込みを見せる平包さん。

「他品種と特性に違いがあり戸惑いも多いがポイントを押さえて高収量を目指したい」と意気込みを見せる平包さん。

きれいにパック詰めされたミニトマト。そろいのよい「TY千果」は選果作業もやりやすい。

きれいにパック詰めされたミニトマト。そろいのよい「TY千果」は選果作業もやりやすい。

中の果肉まで赤くてきれいな「TY千果」。

中の果肉まで赤くてきれいな「TY千果」。

玉ぞろいよい「TY千果」で出荷作業もスムーズに

JA香川県の出荷規格は手作業による200gパック詰めが中心で、一部で3kg段ボールバラ詰めも行っています。「TY千果」は他品種に比べて、玉ぞろいがよく収穫から出荷作業の短縮化が図れていると思います。

「TY千果」で香川のおいしいミニトマトを安定出荷

JAでは県普及センターと協力して定期的に講習会や巡回を行うなど産地指導にあたり、高品質栽培の平準化を実現するべく積極的な取り組みを行っています。特に「TY千果」については今年から栽培をはじめた生産者も多く、タキイ種苗の技術員と情報の共有化を図りながら巡回を実施しています。また、JA香川県ミニトマト部会では市場担当者を招いて年1回の品等査定会を実施し、県下の出荷規格や品質の平準化を図っています。今後は、食味良好の「TY千果」を含め、香川県の丁寧な栽培によってできる高品質ミニトマトのブランド化に向けて活動していきます。