産地ルポ

産地ルポ

2023/2/20掲載

極上ワインのように贅沢なトマトジュースに感動
宮城県大崎市の農業法人マルセンファーム
〜土耕節水栽培で「フルティカ」や「桃太郎ゴールド」を栽培〜

「どうぞ、飲んでみてください」
千葉社長からすすめられたトマトジュースを口にした瞬間、まさに衝撃が走りました。「えっ!」と絞り出すのがやっと。おいしいという言葉が出なかったくらいです。橙黄色のトマトジュースは芳醇なコクと甘さが突き抜けていました。「本当に桃太郎ゴールドですか?」と、瓶のラベルを二度見したほどです。
続けていただいた赤いトマトジュースは、前者に比べて澄んださわやかな味で、こちらもトマトのうまみが溢れています。この瓶のラベルには「フルティカ」と記されていました。

有限会社マルセンファーム(宮城県大崎市)代表取締役千葉卓也氏。

有限会社マルセンファーム(宮城県大崎市)代表取締役千葉卓也氏。

編集部

有限会社マルセンファーム

宮城県大崎市、鶴田川の堤防沿いに広がる水田地帯。夏の日差しを浴びて緑の穂がキラキラ輝く中に、マルセンファームさんの施設が突然姿を現します。トマトを栽培するハウス面積が1万6,000u、周年で栽培されるホウレンソウと菊のハウスが併せて1万4,600uにトマトジュースを販売する直売所も併設されています。トマトは8月から植え付けが始まり、10〜6月に生産・販売されます。当初は市場出荷も行われていましたが、直売所ブームを背景に、大半を自分で単価を決められる直売所出荷にシフト、県内量販店への出荷や自社ECサイトでの販売がメインです。目玉商品は糖度7度以上に仕上げる大玉トマトや中玉トマト。栽培の秘密は環境制御ハウスでありながら、人工培地の水耕ではなく、土耕による節水栽培農法と土づくりへのこだわりです。千葉卓也社長以下、お父さんや弟さんらご家族にスタッフさん36名の熱意が結集されたトマトは単に甘いだけでなく芳醇な味わいで、それを原料にしたトマトジュースはジュースを飲んでいるというよりトマト丸ごと食べていると感じるほどプレミアムな味わいの人気商品です。設立は2004年、現在の年間売り上げは2億5,000万円にのぼり、3億円の売り上げが当面の目標です。

「フルティカ」を100%使用した「あかい実りの贅沢しぼり」はさらりとした飲み口。

大型ハウスでのトマト栽培のきっかけ

千葉社長の父、民夫さんの野菜栽培は1,000坪程度の軒の低い雨よけパイプハウスでしたが、千葉社長が引継ぐにあたり、大型ハウスを導入して拡大を図られました。理由は、「チャレンジする父の姿」。
父親の民夫さんは、稲作中心から、天候にあまり左右されない施設園芸を基幹とする専業農家としてスタートを切った矢先の1986年に豪雨水害にあいました。その結果、ハウスのホウレンソウは全滅し、大打撃を受けましたが、民夫さんは水が引いたすぐ後に、ホウレンソウのタネをまき、収穫・出荷にこぎつけました。その後も計画的に栽培面積を拡大し、安定した収入を上げていきました。当時中学生だった千葉社長はそんな父の姿を見て、就農を決意、自分がやるには「父親とは別の作物にチャレンジしたい」という気持ちが強くなり、宮城県の1億円をとれる生産者づくり(10人以上の雇用、企業的経営)に応募。そのころ地域の農協トマト部会が「デリシャストマト」という、味のよい品種の普及に力を入れ始めていたタイミングでもあったので、地域の新しい特産品を作り出そうという取り組みに共感し、これを導入。試行錯誤の結果、経営を支える大事な商品の一つとなっていきました。
5棟のハウス8,000坪のうち半分で千葉社長がトマト栽培をスタートさせました。

近代的な大型ハウスが立ち並ぶ。

近代的な大型ハウスが立ち並ぶ。

植え付け直後の「フルティカ」。

植え付け直後の「フルティカ」。

トマト栽培

現在1万6,000uのハウス面積で栽培されるトマトは4万株程度、うち大玉品種と中玉品種が50%ずつの割合です。中玉トマト品種は「フルティカ」オンリー。当初取り組み始めた大玉の「デリシャストマト」は当地の地下水位が高く、糖度が上がってこないため生産量を減らして栽培に工夫を重ねたものの、なかなか単価もついてこなかったそうです。そうしたとき、高糖度栽培で実績を上げていた中玉品種「フルティカ」の話を聞き、青森の生産者まで足を延ばして見学に行かれました。現地での栽培を見て「フルティカ」を土耕でも節水栽培すれば高糖度で栽培できるのではないかと見込みを立て、200坪程度で試作を開始。3年程度の比較試験を経て導入を決意されました。
通常の中玉トマトは40〜50gの大きさですが、節水栽培することで20g前後の大きめのミニトマトサイズになります。また、節水栽培をするとトマトの果肉や皮がかたくなりやすいのですが、「フルティカ」はやわらかく気になりません。食味は甘さだけでなくまろやかさがありました。青果で販売したところリピーターも増えてきました。「フルティカ」の糖度は年内取れ始めこそ6度くらいですが、光量が増加する年明けとともに安定して7度以上をキープ、春からは8度を超え終盤にかけては10度にも到達します。糖度のバラツキは少なく、小さなお子さんも含め幅広い層に好まれています。3月以降の糖度8前後の「フルティカ」は「トマクイーン」ブランドで差別化して販売されています。さらに青果の「トマクイーン」の、糖度が高く安定している6〜7月にかけて時期を限定し、樹上で赤く完熟させたものだけを贅沢に絞りこんだ、ワンランク上のトマトジュース「あかい実りの贅沢しぼり」はトマト嫌いの人でも飲めるジュースとして人気商品となりました。今や面積の半分を占める「フルティカ」はマルセンファームさんの中心的な商品として欠かせない品種となっているのです。

「フルティカ」を100%原料にしたジュースはマルセンファームの主力商品の一つ。

大玉トマトでアクセントとなっているのは前述の赤系トマトのほか、1,000株程度で栽培される「桃太郎ゴールド」です。特に「桃太郎ゴールド」100%で作られる期間限定の ジュースは、「ゴールデン・ティアーズ」のブランド名で販売。300本程度しか製造されないプレミアムジュースですが、トマトらしいトマトジュースとして知られています。冒頭試飲した筆者が思わずうなったジュースがこれでした。

トマトジュースの加工は社外への発注ですが、ジュースの販売は青果のない時期でも売り上げに貢献できます。それにしてもプレミアムな味とデザイン、トップブランドは価格もそれなりです。

「桃太郎ゴールド」の濃厚な食味を引きだしたジュースは味わう価値あり。

「桃太郎ゴールド」の濃厚な食味を引きだしたジュースは味わう価値あり。

「レストランのシェフたちとのつながりの中で、アルコールを飲めないお客様が高級ワインをオーダーする感覚で飲めるトマトジュースを作りたかった」とそのねらいを話していただけました。

味の秘密は

マルセンファームさんのトマトは特筆すべきおいしさですが、節水栽培による高糖度だけではないようです。それは土耕ゆえの土へのこだわり。土づくりから始まり、土の性質を考え、施肥設計をした有機肥料中心の栽培にあります。今現在の畑はミネラル不足(微量要素)と言われていますので、マルセンファームさんでは自家製堆肥を使用。稲作から出る副産物のモミ殻・わら・米ぬか、農産物残渣を1年かけて発酵させてから畑に施し、海藻肥料、ミネラル肥料(微量要素肥料)を畑に施されます。有機肥料・堆肥・ミネラル肥料と土の中の微生物の力を借り、土耕ならではの、甘みや酸味さらにコクや味わいが広がるわけです。周年で栽培されるホウレンソウも食味は確か。品種は冬に「伸兵衛」春には「福兵衛」などが使われています。

栽培中の「福兵衛」。

栽培中の「福兵衛」。

ホウレンソウも周年経営を支える重要品目。

ホウレンソウも周年経営を支える重要品目。

これからもチャレンジで

土耕による大型ハウス栽培で、味と品質にこだわり、直販を中心に差別化で自分たちの価格で安定した経営を行いたい。父の民夫さんのチャレンジを見てきた千葉社長の目指す農業経営は始まったばかりです。令和2年に「ディスカバー農山漁村の宝」の選定をはじめ数々のコンクールで表彰をうけるマルセンファームさん。ギフト市場や飲食店市場を開拓できるおいしいトマトを基盤とした6次産業化と付加価値の高いブランドづくりの実例として今後の活躍も目が離せません。何よりタキイ社員として「フルティカ」や特に「桃太郎ゴールド」で、ここまでおいしいジュースをありがとう、と伝えたくなりました。

令和2年に「ディスカバー農山漁村の宝」に選定。

令和2年に「ディスカバー農山漁村の宝」に選定。