北海道JAながぬまのトマトは食味にこだわり存在感あり秀品率が向上した「桃太郎ワンダー」

2020/02/20掲載

北海道JAながぬま地域

地域概況

実は知られたトマト産地

長沼町は札幌から車で1時間圏内、千歳空港からも30分とアクセスのよい道央の内陸部に広がる田園都市です。管内の農産物は大豆の生産は道内でも最大で、長ネギやハクサイ、ブロッコリーなどの葉物野菜が上位ですが、トマト栽培も盛んでピーク時には日量1万ケースも市場に送り出すほどの産地です。

北海道JAながぬま地域

「桃太郎ワンダー」を100%導入

JAながぬまでは長らく「桃太郎ファイト」「CF桃太郎ファイト」が中心品種でした。高温性と低温性を備えた「ファイト」は、春先4月末の定植時期はまだまだ寒い北海道の栽培には適した品種でした。また、「桃太郎」シリーズの中でも糖度ののりがよく食味にこだわる北海道の栽培には現在も好まれる品種です。しかし、近年は北海道といえども夏は内地と変わらない高温で、夏場にはどうしても小玉傾向となり収量を下げていました。夏秋品種である「桃太郎ワンダー」の導入は夏場の栽培安定を目指したものでした。

「桃太郎ワンダー」を100%導入

トマト生産組合熊谷和夫組合長(長沼町園芸組合連合会)は、「桃太郎ワンダー」に切り替えた一番大きい理由は秀品率の向上だといいます。「お盆過ぎからの玉伸びがよくなり、2L率が高まりました。」

「ワンダー」で3年目を迎えた産地では可販果率が向上し、共販数量が減少気味にもかかわらず、取扱金額は増えているといいます。

近年、農家戸数は長沼町でも減少傾向にあって1戸当たりの経営面積が増加する中、若い後継者からは収益性向上のため売上の拡大が望まれていました。JAでは売上低下を解消するため平成24年に原料出荷の考えから商品出荷に考え方をシフト。小玉パックを5玉入り、6玉入り規格に増やしスタンドパックの出荷も開始。小玉傾向によるメイン規格4kgL20玉、M24玉以外の規格の販売単価底上げで売上低下を解消し、単価の維持向上につなげました。比較してみると、平成23年産の秀品の等級内比率は3L〜L率が27・8%だったのに対し、「ワンダー」を導入した30年産では3L〜L率が65・6%に上昇しています。取扱数量の比較では92%に減少したにもかかわらず取扱金額は133%に上昇、単価145%に向上していますから如何に売上の向上が図られたかが示されています。

秀品率の高さを高く評価する熊谷和夫組合長。秀品率の高さを高く評価する熊谷和夫組合長。
秀品率の高さを高く評価する熊谷和夫組合長。
価格安定に貢献するSパックの5玉、6玉入りを手にするJAながぬま販売部園芸蔬菜課山本大介課長。
価格安定に貢献するSパックの5玉、6玉入りを手にするJAながぬま販売部園芸蔬菜課山本大介課長。

栽培面でも盆前からの遮光資材の導入で果実の日やけ防止を図ることや、9月頭から収穫する株を6月20日に定植して、作型を分けることで収穫の波が少なくなるよう工夫もされてきました。「ワンダー」を導入してから収穫の波による落ち込みや着果の集中がなくなり、計画的に作りやすくなったと喜んでいただいています。夏秋品種ならではの耐病性もあり葉かび病にも強いので農薬を減らした特別栽培もサポートします。北海道のトマトとして食味第一の要求に対しても、糖度と酸味のバランスもよく、「ファイト」に劣らない評価でした。

「大玉トマトの需要がミニや中玉にシフトしていく中、高値がついた平成24〜26年産以降に備え、産地としての地位確立に向け、食味評価で優位性が認められてきた『桃太郎トマト』は重要です」と、JAながぬま販売部の山本大介課長は近年の取り組みを話してくださいました。こうしてJAさんによるパック規格の開発や栽培技術、品種の検討で生産者減少や取扱量の減少を乗り越え、生産者と一体で長沼産「桃太郎」「とまらんどー」ブランドを高めておられます。

日本食研さん製チーズソースと食べ方レシピをセットにしたJAながぬまオリジナルの2玉パック。アイテム添付販売でおいしいトマトの食べ方を前面に需要喚起を図っている。
日本食研さん製チーズソースと食べ方レシピをセットにしたJAながぬまオリジナルの2玉パック。アイテム添付販売でおいしいトマトの食べ方を前面に需要喚起を図っている。
「桃太郎トマト」をプリントした「とまらんどー」ブランドケースに詰められていく。
「桃太郎トマト」をプリントした「とまらんどー」ブランドケースに詰められていく。
大型の選果場に運び込まれた「桃太郎ワンダー」。
大型の選果場に運び込まれた「桃太郎ワンダー」。

高糖度トマトでキラリ

産地が「ワンダー」に切り替える中、2軒の農家さんは「CF桃太郎ファイト」の栽培を続けられています。それは独自の高糖度トマト栽培。

川原敏幸さんは平成15年ごろから、JAさんを通じて「こんなトマトがあるよ、作ってみないか」と持ち掛けられていました。そのトマトを食べて果物のようなおいしさに驚いたそうです。徳島産の高糖度トマトでした。「同じトマトを作るならおいしいものを作りたい」と栽培を決意。元来研究熱心な川原さんはそこから独学で本やネットで情報を集め、独自の工夫で高糖度トマトを栽培。3年後には普通栽培をやめてすべて高糖度トマト栽培に切り替えられました。

平成14年ごろに管内で高糖度トマトに初めて取り組んだ川原敏幸さん。当時の品種「桃太郎ファイト」から現在は「CF桃太郎ファイト」。
平成14年ごろに管内で高糖度トマトに初めて取り組んだ川原敏幸さん。当時の品種「桃太郎ファイト」から現在は「CF桃太郎ファイト」。

詳しい処方は企業秘密ですが、概略はハウス周りに止水シートを埋め込み外部からの水の浸入をなくすことに加え、魚由来のアミノ酸肥料や木酢液を葉面散布中心で与えることで、味を調えていかれます。
「糖度は春先なら10度以上はありますし夏場で8度。酸味など味つけは肥料で多少自由がききます」

収穫は4〜5段で終了し、その後2作目を植え替え。こうしてただ甘いだけでなく、旨みが効いた濃厚な高糖度トマトが生産されます。現在川原さんのハウスは14棟。息子の直明さんも家業を継いで、中玉トマトの「フルティカ」を使った高糖度トマトも3棟栽培されていてこちらも好評です。

川原さんの大玉「ファイト」と中玉「フルティカ」の高糖度トマト。川原さんと水岡さん高糖度トマト出荷用にケースは別途デザインされている。
川原さんの大玉「ファイト」と中玉「フルティカ」の高糖度トマト。川原さんと水岡さん高糖度トマト出荷用にケースは別途デザインされている。
後継者の直明さんが管理するのは中玉トマト「フルティカ」の高糖度栽培だ。
後継者の直明さんが管理するのは中玉トマト「フルティカ」の高糖度栽培だ。

もう一軒、同じく「CFファイト」で高糖度トマト栽培に取り組まれるのが親戚にあたる水岡忍さんです。水岡さんのお姉さんが川原さんに嫁がれている関係で、やってみないかと持ち掛けられ平成20年から取り組まれました。現在ハウス8棟で栽培されています。「それこそ、毎日のように川原さんに質問を重ねました。やさしい義兄ですからいやな顔一つせず丁寧に教えてくれます」

それでも川原さんのハウスと自分のハウスでは条件が異なるので同じようにはいかず、11年目を迎えた現在も教えてもらうばかりだといいます。
「最近は息子の和成が手伝ってくれるので、息子に聞きに行かせます(笑)」 課題は栽培が難しい夏場にも高糖度トマトを継続して出荷すること。現在は3月上中旬に定植し、5月下旬、2段目の着果から出荷を開始しますが7月いっぱいで収穫が終わり。6月10日定植分に切り替え、再び9月から出荷していきます。
「4〜5段で終わる収穫を何とか伸ばして、7月下旬〜8月の暑い時期にも出荷を続けたい」と目標を定め栽培技術の確立に意欲を示されています。

JAながぬま販売部の山本大介課長によると、川原さんと水岡さん2軒で昨年は7000万を超える販売金額を記録されたそうです。kg当たり単価も1000円を超えました。高糖度トマトは1kg入りケースで出荷されます。もう少し取り組む方が増えてもいいようですが、糖度センサーの購入が必要なこともあってお二方にとどまっているようです。しかしながら、「桃太郎ファイト」は「桃太郎ワンダー」に切り替わった長沼桃太郎ブランドに一味違った甘みを与え続けているようです。

(この記事は2018年8月に取材したものです。)

管内で同じく高糖度トマト栽培に取り組む水岡忍さん、和成さん親子。川原さんとは親戚にあたる。「1年目にハウスに入った時に立ち込めた甘い香りの印象がすごかった」と忍さん。
管内で同じく高糖度トマト栽培に取り組む水岡忍さん、和成さん親子。川原さんとは親戚にあたる。「1年目にハウスに入った時に立ち込めた甘い香りの印象がすごかった」と忍さん。
水岡さんハウスで生育中の「CF桃太郎ファイト」。散乱光ビニールを展張し日陰を少なくしている。
水岡さんハウスで生育中の「CF桃太郎ファイト」。散乱光ビニールを展張し日陰を少なくしている。