北海道七飯町 JA新はこだて七飯支店の越冬作に べと病に強い「福兵衛」が好評です!

2018/07/20掲載

「函館育ち」ブランドとして全国へ

JA新はこだては、北海道の南西部に位置し、渡島・檜山地域の大部分にわたる2市12町を管内としています。総面積6,600 km2(66万ha)は全道の8%、耕地面積4万4,000haは全道の4%を占めています。

また、七飯町周辺は比較的温暖な地域で、北海道農業の発祥の地であり、日本における西洋農業発祥の地でもあります。多様な品目が栽培可能で水稲をはじめ青果・花卉と北海道各地で生産されているほとんどの農産物が生産されています。中でも長ねぎ・トマト・ニラ・ホウレンソウなどは道内有数の産地となっており、七飯町野菜出荷組合では、平成27年度組合員166名に対し、野菜取扱高31億円を超える売り上げを達成されています。

北海道七飯町 JA新はこだて七飯支店

ホウレンソウ栽培

七飯支店管内においてホウレンソウは、ニンジン、ダイコン、長ネギ、白カブと肩を並べる主力品目です。元々は水田の転作制度によって作付が増え、昭和55〜60年ごとの最盛期には春先で日量3,000ケースの出荷があったそうです(現在は1000ケース程度)。各家で個選して18時までにJAに集荷された荷物は検品されたのち、真空予冷をかけ翌朝出荷されていきます。長年当地でホウレンソウ販売の最前線に立ってきたのは七飯支店営農センター長の冨原明広さんです。「出荷に当たっては一人だけよくてもダメ。みんなでお金をとろうよ」と呼びかけて、量と品質をそろえれば単価も安定すると、JAでの共販を推進してきました。

当地の作型は「ハウス半促成(2/1〜4/25)」「ハウス早どり(4/26〜7/31)」「ハウス雨よけ(8/1〜11/30)」に大きく分かれます。元来はメロンやトマトの後作に位置づけられていたハウス雨よけがメインの作型です。気候のいい当地では、ハウスでの越冬は本州の露地よりあたたかく10月播種からの越冬ホウレンソウは、寒さに当たって高品質なホウレンソウが生産可能です。

現在当地で40ha、40名のホウレンソウ部会を率いるのは、青山誠部会長です。青山家のホウレンソウ栽培は誠さんの祖父の時代に25棟のハウスからスタート。父親の金助さんの時代に30棟に増やし、現在46棟のハウスを4〜5回転で行っています。経営は誠さんの奥さんとご両親、4人程度のパートさん。主力で栽培するホウレンソウ以外には連作障害防止も兼ね「トップランナー」などダイコンなども栽培されています。

圃場の土は年に1回は消毒し、アブラナ科野菜のダイコンやマリゴールドなど輪作して地力を保っている。12~2月は積雪に閉ざされるが2月から雪かきして日中1~2時間はサイドをあけて換気を開始。

圃場の土は年に1回は消毒し、アブラナ科野菜のダイコンやマリゴールドなど輪作して地力を保っている。12〜2月は積雪に閉ざされるが2月から雪かきして日中1〜2時間はサイドをあけて換気を開始。

福兵衛の利点

試作で導入いただいた「福兵衛」についてお話を伺おうと、JA新はこだて七飯支店の奈良将裕さんにご案内いただき、青山部会長のハウスを訪れました。ハウスの中では部会長の父である金助さんらが慣れた手つきで収穫した「福兵衛」の下葉をとったり、FG袋への手詰め作業中でした。

青山部会長の父、金助さん。慣れた手つきで調製作業をこなす。

青山部会長の父、金助さん。慣れた手つきで調製作業をこなす。

下葉の判別1
下葉の判別2
下葉の判別3
福兵衛ケース

「福兵衛」はとるべき下葉の判別が分かりやすく、強く握っても折れにくい。青山さん方では10%〜15%収穫が増加。

「下葉は取りやすく、むしり取ったあと、ささくれが残りにくい。ほかの品種はささくれが残るので面倒なのです」

かきとった下葉の葉柄がささくれて残るともう一度そのささくれをかきとる動作が必要になります。数をこなす調製作業では手間な部分。「福兵衛」はそのささくれが残らず、上手にとれるそうです。
「下葉をとるのがもったいないくらい草姿の見ばえもいいし、株張りもいいね」
と、ベテラン農家の金助さんらにも評価をいただいているようで安心しました。

そうこうするうちに誠さんがハウスに来ていただいたので挨拶を済ませ、改めて「福兵衛」について伺うと、大変手応えを感じているとの様子です。

誠さん宅のホウレンソウは、周年で回されますが、メインとなる秋冬の作型に求められるのは「収量」、「作業性」、「ベと病抵抗性」、「色の濃さ」だと言います。「福兵衛」はすべての要素を持っていて、加えて早生種なので当地の秋冬の栽培に向くのではと高い評価でした。ホウレンソウ栽培は、年々作付が厳しくなっているという誠さんですが、3〜5月に発生しやすいベと病で全滅の苦汁を味わったこともあったそうです。

「この品種にしてからはベと病も発生していません」と、レース12以上をもつ「福兵衛」に安心感を寄せていただいています。

50mハウスに30条の栽培
株間は5〜9pで調整

50mハウスに30条の栽培。株間は5〜9pで調整。冬場で日量100ケースを出す。

9月中に播種したものは年内どり
福兵衛

9月中に播種したものは年内どり、10月の2週目までに播くものは越冬し2月下旬〜3月上旬に収穫となる。春先の管理は特に難しく3月上旬に取るものは伸びてほしいが温度が高くなる下旬には伸びない方がありがたいという青山部会長。

「私個人は秋まきをほぼ『福兵衛』に変えるつもりです。部会全体でも試作を広げますので、いい結果が出ると期待しています」

同行いただいた奈良さんも「福兵衛」の評価点として、「ベと病の耐病性」、「しなやかで折れにくいことや下葉がとれやすいなどの作業性のよさ」を管内の試作状況を見ながら、確認できたと話していただきました。

福兵衛の利点

前述の冨原センター長は「福兵衛」について、「この品種は葉柄が太くて株張りもよい。夏場温度が上がると下葉の軸が細い品種は、輸送中とけてしまって出荷先からクレームになる。多様な輸送体系を誇っているが、クレーム回避はありがたい」と輸送面でも評価をいただいていました。これまでタキイのホウレンソウに縁がなかったという冨原さんですが、「福兵衛」の導入を機会に長沼研究農場も生産者と視察に訪れ、今後にも大変期待を抱けたと喜んでいただいていました。

同じ処方で同じハウス内でも生育に差が出るものと新門さん。

JA担当の奈良さん(右)と談笑する青山部会長。「一箱3,000円くらいの価格が10日は続いて欲しい」との注文に苦笑い。

回転数を重視して1〜2段で収穫を終える。

笑顔で産地状況を話していただいた冨原センター長(右)。

「北海道産のブランド力を背景に作れば高値で売れる時代もありましたが、今はそうはいきません。物がないときにも継続販売できるかを考えています」

全国の量販をターゲットに、例え少量でも固定して売り場を確保する戦略です。金太郎飴では面白くない。多彩な生産物が栽培できる地域の強みを生かし、ホウレンソウの後はダイコン、ニンジン、そのあとは長ネギをといった具合にJA新はこだて七飯支店として売り場を確保していくかという戦略です。1978年、七飯町の予冷庫建設時にJAへ入組しホウレンソウ栽培と共に歩んで来た冨原さん。現在は真空予冷施設が新設中であり今後は新たなJA新はこだてとして、七飯地区だけでなく北斗地区からの出荷も合わせ広域での集荷にも対応するためです。予冷庫の収納能力が上がれば市場価格への対応力も向上して行きます。これからもホウレンソウをはじめとするJA新はこだて産の野菜が全国に届けられていくことでしょう。

新門農園代表取締役 新門剛さん。

部会を引っ張る青山誠さん。若さあふれる部会長だ。