産地ルポ

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2021/2/22掲載

味と見た目で差別化のできる
「桃太郎ゴールド」が好評!
〜岐阜・愛知 / 青森での栽培事例〜

事例1岐阜県中津川市 大橋鋭誌さん

岐阜の高冷地で夏秋トマト栽培を始めた理由

今回お話を伺ったのは、本誌でも過去「食通レビュー」に登場いただいた、愛知県豊田市の大橋鋭誌さん。大橋さんはタキイ園芸専門学校の卒業生。在学時は圃場での実習もさることながら、週1回の座学で聴講する京大農学部をはじめとした、一流大学教授の講義が実におもしろかったという、何事にも意欲的な姿勢の持ち主です。
「自粛期間中東京へ出荷されてた半分がストップしたものの、地元の産直で全量はけた」桃太郎ゴールド。元豊田市のJA産直店舗では1店舗100袋ずつ、5店舗で計500袋が1日に出たという。「先入観をもたずに、まずは食べてもらうことが大事。そうすればリピーターも付きます」と大橋さん(右)と当地ハウス栽培担当の関さん(左)。

編集部

さまざまな方面で意欲を発揮

大橋さんの家業は、父の代から始めた店頭販売用の野菜苗生産と、祖父の代から引き継ぐ米作りですが、それだけにとどまらず、野菜作りも精力的に手掛けています。直売所やマルシェに青果を出荷したり、地元豊田産の小麦を使った「このまちうどん」という地元ブランド品を開発したり、フレンチレストランを始めたり、などなど既成概念にとらわれず、自身がもつネットワークをどんどん生かし、常に新しい事業に取り組まれています。

大橋さんの農場

中津川地図

トマト栽培への挑戦

そんな大橋さんは、拠点の豊田市で苗生産のハウスの空きを利用してトマトづくりを計画。持ち前のこだわりを発揮し、2016年4月には3反のトマト専用ハウスを完成させます。コストを抑えるため簡易なものではあるものの、日射式の環境制御システムも導入。水耕システムを利用し、9月に定植し11月から翌年7月まで収穫する、ほぼ周年栽培を開始しました。
栽培品種はもちろん食味重視の「桃太郎」系。現在は赤玉の「ホープ」のほかに「桃太郎ゴールド」を作付けされています。黄色のおいしい大玉トマトは珍しく、当時経営していたレストランシェフから、料理の彩りにと希望があったためです。樹上でしっかり完熟させた、雑味が少ない「ゴールド」は、名古屋市内の「オアシス21」にある、愛知県のアンテナショップ「ピピッとあいち」でも好評。見た目で他品と差別化もでき、オーダーは年々増加しました。

アンテナショップでの桃太郎ゴールドは1玉150円の価格設定。2個入りのパックを324円で販売。通常のトマトは、地元の産直では1玉100円だが、ゴールドは割高でも動く。料理の彩りにと、ゴールドをリピートする女性客も。

アンテナショップでの桃太郎ゴールドは1玉150円の価格設定。2個入りのパックを324円で販売。通常のトマトは、地元の産直では1玉100円だが、ゴールドは割高でも動く。料理の彩りにと、ゴールドをリピートする女性客も。

「ゴールド」が好評な理由とは?

また、「ゴールド」には見た目やおいしさ以外の特長もありました。それは日もちにすぐれていること。「果皮が赤玉よりかたく、特定の成分も関係しているのか、赤より日もちが格段によく、収穫して1カ月しても平気なものもあるくらいです。出荷先からも驚かれました」といいます。そのため、樹上でしっかり金色に近づくまで着色して出荷でき、食味も抜群だとか。また「ゴールド」はリコピンの中でも、より吸収されやすい「シスリコピン」を含有するファイトリッチシリーズ。機能性成分への関心の高まりからか、最近、直売所などで成分への反応が出ている手ごたえもあるそうです。
「トマト臭が少ないので、トマトが苦手な子どもでもゴールドなら食べるという声も聞きます。また、雑味が少なく口当たりがいいので、ゴールド100%のジュースも開発し販売しています」と、加工品も好評のようです。

春先の「桃太郎ホープ」が日焼けしてしまうのに対し、「ゴールド」は夏でも日焼けに強い。

春先の「桃太郎ホープ」が日焼けしてしまうのに対し、「ゴールド」は夏でも日焼けに強い。

好評の桃太郎ゴールド100%ジュース。いずれは自前で加工もしたいと意欲をもつ。

好評の桃太郎ゴールド100%ジュース。いずれは自前で加工もしたいと意欲をもつ。

新たな栽培の地を求めて

販売が右肩上がりの中、大橋さんは2020年、高冷地の岐阜県中津川市阿木町で、シクラメン農家の知人から2反分のハウスを借りました。夏秋作での栽培をここで行い、周年栽培を強化するのがねらいです。栽培品目は、夏秋向きの赤の大玉「ワンダー」と「ゴールド」。真偽はわかりませんが、阿木は岐阜県の夏秋トマト栽培発祥の地で、トマト栽培を経験者も多いとか。ちなみにシクラメン栽培も当地から始まったそうです。
本拠地の豊田市から車で1時間かかる阿木町には、大橋さんは週1回来訪し、実際の栽培は静岡県の公務員を退職後農業を志す関悠介さんに任せています。関さんは新規就農へ向けて研修の1年目。農業経験はゼロですが、地元でトマト栽培経験があるベテランの女性パートさんのサポートもあり、日々栽培に励んでいます。
阿木町のハウスは環境制御までは整っていませんが、水耕システムの利用は同じ。経験がない関さんでも取り組みやすい、わかりやすい農業といえます。今作は長びく曇雨天で、徒長気味の草姿、尻腐れも散見され、花がとぶ段もありますが、それでも草勢を維持し収穫を保てるのは水耕管理の利点でしょう。「今年は春先が寒く、定植が5月後半に遅れましたが本来は前半に定植して、豊田市のハウス栽培を6月で終わらせ、こちらでの栽培に切り替えたい」といいます。

今年の作付けは豊田市で1,750本、中津川市で1,000本。周年体制を整え需要増に対応。

今年の作付けは豊田市で1,750本、中津川市で1,000本。周年体制を整え需要増に対応。

中津川のハウスは年内で収穫を終了する。写真は「桃太郎ワンダー」。

中津川のハウスは年内で収穫を終了する。写真は「桃太郎ワンダー」。

楽しみ、模索し続ける

もちろんすべてが理想通りにはいきませんが「もっと涼しいのかと思っていましたが、暑いのは中津川でも豊田市とたいして変わりませんね」とこぼす大橋さんは、それも含め農業を楽しんでいる様子。その姿勢が社員やスタッフとともに、常に新たな取り組みを模索する、モチベーションの源なのかもしれません。
今後は新品種、大豆の栽培や、新たに直売所のオープンも計画中。次回はぜひ直売所の取材を、と約束して、依然豪雨が降り続く阿木の地を後にしました。

事例2青森県弘前市 佐久間 夕香さん

「桃太郎ゴールド」市場の競りで最高値!

主人の定年退職後、2人で両親の畑を受け継ぎました。ピアノ教室をしながら、5年ほど前からトマト、キュウリ、カブ、ハクサイなどをハウスで栽培し、弘前中央青果に出荷しています。
トマトは「桃太郎なつみ」を中心に「桃太郎はるか」などを栽培していますが、初めて「桃太郎ゴールド」に挑戦。2月20日にセルトレイへ播種し、室内で育苗。管理に気を配り4月27日に定植しました。橙黄色のトマトを作るのは初めてだったので収穫のタイミングが難しかったのですが、病害の発生もほとんどなく収穫期を迎え、7月7日の初出荷、競りでなんと1kg500円の最高値がつきました。その後も「桃太郎なつみ」より3割ほど高い値で取り引きされ、7月20日、2〜3段目を収穫中ですが樹は元気でまだまだ収穫できそうです。
「桃太郎ゴールド」は収穫直後の香りがフルーティーで酸味が少なく、マイルドな味が家族にも大好評。今後「桃太郎ゴールド」を栽培に取り入れようと思います。

夕香さんとご主人の○○さん。

夕香さんとご主人の重行さん。

桃太郎ゴールド