産地ルポ
2025/7/25掲載
産地ルポ
2025/7/25掲載
↑右から住田雅信さん、柴田卓也さん、霜野要規社長(奥)、上原英之さん、村田信幸さん。
編集部 2025年1月31日取材
堺市は、大阪府下で大阪市に次ぐ第2の都市で、大阪市のベッドタウンとしての性格が強く大阪都市圏の一部に組み込まれています。また、堺泉北臨海工業地帯の中核都市であり、近畿地方最大の工業都市となっています。農業では、コマツナ・ホウレンソウ・シュンギクなど軟弱野菜は大阪府下でトップの生産量で、特にホウレンソウとシュンギクは全国においてもトップクラスの生産量を誇ります。
1989年から環境保全型農業を取り入れ、2002年には化学肥料および化学農薬の使用を大阪府標準から5割以上削減して栽培された農産物である、大阪エコ農産物「泉州さかい育ち」として大阪府知事の認証を取得されています。現会長の霜野繁治さんが、会社設立前から取り組まれてきた持続可能な農業。肥料はすべて有機質肥料を使用し、冬は完全無農薬栽培。自然なものを自然な環境で作ることで、植物がもつ本来の生命力が引き出され、味や品質が向上し、店頭での店もちにもすぐれると霜野要規社長はおっしゃっていました。
堺市内の3カ所にある連棟ハウスの総面積は210a、甲子園球場の約1.5倍に相当。コマツナは周年で6回転、ホウレンソウは真夏を除き5回転、シュンギクは秋〜冬で3作栽培し輪作します。出荷量はコマツナが年間約250t、ホウレンソウは約30tで大阪府下の量販店への契約出荷を中心に、堺市が力を入れる地産地消活動として学校給食にも取り入れられています。
大規模な環境保全型農業を可能にしている背景には、1人でも管理ができるように徹底した栽培設備への先進的な投資によるものです。環境制御型の潅水設備、側・天窓および遮光開閉管理や減農薬・無農薬栽培には欠かせない防虫ネットに、ハウス周りは防草シートで隙のない整備がなされています。ハウスの内外は除草管理され、倉庫内は肥料・資材の整理整頓が徹底されていました。
「寒兵衛」は調製がしやすく、袋詰めもしやすい。袋の左下には大阪エコ農産物の承認を受けた証である「泉州さかい育ち」の文字が印字されている。
創業当初はコマツナの栽培に特化していましたが、近年は福岡や茨城などの大規模産地の流入によって価格競争が激化してきたため、比較的相場が安定しつつ需要が高いホウレンソウの作付けを徐々に増やしています。
2024年度から本格的に導入した「寒兵衛」は、長峰地区のハウスにぎっしりと作付けされていました。連棟ハウスの1区画(単棟分)に株間5cm×3条×4畝で栽培され、生育が安定しやすくそろいや収量が上がりやすい設定にされています。2024年度は11月8日から年明け1月23日まきで、約1ha分の面積で導入されています。
「寒兵衛」の導入を決めた理由について伺うと
●株張りがよく、軸がしっかりしている
●そろいがよいため収量が上がる
●旺盛な株はやや下葉が絡まることもあるが、軸の柔軟性があり収穫しやすい
●色の濃さ、見た目が従来品種と同程度
●調製、袋詰め作業がしやすく、商品の荷姿もきれいで味もよい
品種特性に加え、しものファームの栽培体系に合致し、おいしいホウレンソウとして品質も十分備わっていると評価されていました。
草姿立性で軸がしなやかなため収穫機での収穫がしやすく、収穫後にまとめてもちやすく作業性がよい。
取材した長峰地区の連棟ハウスは、もともと稲作地帯だった土地を整備し、2005年に九州の海砂を厚さ50p分客土。海砂のためpH値が高く、コマツナの根こぶ病対策や弱アルカリ性が適するホウレンソウの栽培にとっても非常に作りやすい条件が整えられていました。また、海砂は収穫機の使用にも適した土壌になっており、従業員の方が2人1組となってテンポよく収穫されていました。
先述の通り、環境制御型のハウスは気温や降雨・風量センサーが備え付けられていますが、それらはすべてしものファーム創設者である繁治会長がこれまで得てきた知見を基に、天候や栽培管理の状況を考慮して設定されます。
朝、昼、夕と圃場の見回りを欠かさない、繁治会長の存在が今でも現場をけん引しています。
一方で、その技術の継承のために、要規社長と住田専務をはじめ栽培を担当する社員の方々へ、後継者としての教育も進められているとのことでした。
収量と作業性にすぐれ、食味も合格点を得た「寒兵衛」。しものファームの先進的な設備と受け継がれる技術とともに、関西圏の食を支えていきます。
ハウスの開閉管理は生育に合わせて制御盤で設定し、すべて自動化されているが、人の手で毎日記録することで継承可能なノウハウが蓄積されていた。
堺市南区の長峰地区にある連棟ハウス。太めのパイプが使用され、2018年の台風21号襲来時でも骨組みへの被害はなかった。
2025年
秋種特集号 vol.60
2025年
春種特集号 vol.59