産地ルポ
2023/2/20掲載
産地ルポ
2023/2/20掲載
編集部
札幌市内中心部から恵庭、千歳空港方面へ車を走らせること30分程度。羊ヶ丘通りから滝野すずらん丘陵公園へ向かう北海道道341号線へ入って10分ばかりすればタカハシファームさんが右手に見えてきます。今回訪問したタカハシファームさんは札幌市街化調整区域にある直販のファームで、夏季の目玉商品スイートコーンを買い求めに来るお客さんが朝からひっきりなしの人気です。
訪問したのは9月の最終週、北海道の朝夕はすっかり肌寒さを感じる季節ですが、トウモロコシ販売中ののぼり旗は風になびいています。タカハシファーム代表の高橋信一郎さんから頂戴した名刺には「トマト専門店高橋ファーム」「トウモロコシのタカハシファーム」の名前が並び、新たに「焼き芋屋タカハシ」のネームも加わっています。高橋さんは当初トマト専門店を目指していましたが、ほかの野菜も扱ってほしいとの要望を受け、トマト以外の野菜も栽培開始。現在の3本柱はスイートコーンを中心に、11月から専用の壺で焼く「壺焼き芋」、春先のミニトマトとなります。特に2ha、10万本を作付けするスイートコーンは直売の目玉中の目玉商品。品種はすべてイエロー種の「ほしつぶコーン」です。
道内のスイートコーンの旬は8月。少しでも早くから食べてもらおうと160uのビニールハウス2棟で3,000本ほどは6月中旬からの出荷で1本250円の価格が付きます。露地ものは2022年で7月23日からスタート。このころには毎年買い求める方から「もう販売しているの?」と毎日多数の問い合わせが入るそうです。Lサイズ380〜400gの販売は8月に突入してから。毎年お盆前ごろに地元テレビ局が夏の風物詩として中継されると、お客さんがどっと繰り出してこられるとか。9月以降も400gを超えるものがどんどん取れて次々に売れていきます。
「昨年は9月中旬で青果の販売が終わってしまったんですが、その後も買い求める客足が続いたことから、今年は10月10日ごろまで売るつもりです」と人気はうなぎのぼり。多い日には1日2,500本を売りつくすとか。夏休みが終わり9月に入っても200〜300本は毎日売れるそうです。また地方発送の郵便局ギフトは1日500本がでることも。11月からは真空パックした焼きトウモロコシを売ることでなるべく長期間販売を続けるそうです。
「冬には敷地内に農業交流施設が完成予定で、スイートコーンをペースト状にしたものを使ったスムージーやかき氷も提供予定です。和食料理人の方を招いてトウモロコシに特化した料理も出すつもり」と、シーズン後もスイートコーンでお客を呼びたいという高橋さん。もちろん冬の目玉としては、サツマイモのつぼ焼きが農園のメインになるのですが、お客さんに足を運んでいただく商品開発は欠かせません。
高橋さんが惚れ込んだ品種が「ほしつぶコーン」です。名前がつく前から栽培し早くも3年以上になります。惚れこむ理由は「なんといっても甘さがありますね。お盆近くで糖度19度くらいになりますし、粘土質で火山灰土であるこの土壌にあっているのかもしれません」
口の肥えた地元リピート客の目当てはもちろん甘くておいしいスイートコーン。中には、ゆでた後冷蔵庫に入れて冷やしてから食べた方がより甘さを感じると教えてくれる常連さんもいるとか。
「お土産に買って帰る方や、ギフトで送る方も多いので『しなびに強い』というのも安心して売れる特長ですね」
「ほしつぶコーン」はしなびにくい一方で、春先の天候などによっては先詰まりが甘いところがあります。対面販売では先詰まりが怪しいものは皮をむいて販売しますが、ギフト用ではそうはいきませんから、選別には気を付けられています。
おすすめの食べ方を聞いてみると、「コーンスープにするといいですね。粒がとりやすいですから」と、コクや粒のとれやすさも「ほしつぶコーン」の特長のようです。
地元テレビやラジオ、新聞など媒体の取材を活用し、季節の話題を提供することで販促につなげている高橋さん。まだまだ地域の特産として知名度を高められると考えられています。そうした取り組みの一つに、札幌市の有名百貨店などが合同で企画する「シンコウプロジェクト北海道」で「ほしつぶコーン」を取り上げてもらうことができました。この企画は北海道で生産数がわずかでなかなか味わえないもの、特定の地域・お店でしか味わえないもの、特定の季節しか味わえないものなど、まだまだ知られざる魅力的な食材と、情熱をもって育てている生産者を取り上げて販売するものだそうです。こうした機会をとらえて発信していきたいと意欲的です。
勤め人だった高橋さんが兼業農家の父の跡を継いで農業を始めて7年目。直売を始めた理由を聞いてみました。
「周囲はホウレンソウの生産者が多いのですが、私は自分の農業の特色を出したいと思いました。それがトウモロコシであり、ミニトマトであり、サツマイモになってきたのです」
最初はあれこれ栽培していましたが、両親、委託スタッフの4名で切り回す上で効率を考えて、売れ筋に絞っていったそうです。さらに直売だけでなく通販も開始。全体の売り上げの半分がECサイトになりました。
「今後は加工品を増やして販売期間を延ばしていきたいと思っています。干しいもをスイートコーンのパックとセットで送ってほしいという要望にも応えたいと思います。」
おいしい野菜にしたいと肥料や堆肥にこだわり土づくりをする高橋さん。何度も買いに来てくれるお客さんの笑顔に応えたいという情熱が、甘くておいしいスイートコーンを生み出す何よりの肥料のようです。
2024年
秋種特集号 vol.58
2024年
春種特集号 vol.57