産地ルポ

産地ルポ

2021/7/20掲載

「夢舞妓」導入でキャベツの作付面積が急増
品種を組み合わせたリレー出荷で生産量拡大

メインビジュアル画像

JA邑楽館林管内は、群馬県の南東部に位置し、茨城県、栃木県、埼玉県に隣接する標高10mから35mの平坦地です。利根川と渡良瀬川に挟まれた肥沃な土壌で、年平均気温が約15℃、年間降水星が1,180mm程度と温暖な気候と日照時間にも恵まれていることから、施設野菜ではキュウリやトマト、露地野菜ではハクサイやナス、ニガウリといった多くの農作物が生産されており、年間の青果物販売金額は約100億円に及んでいます。 冬季の長い日照時間を利用した施設園芸の産地、邑楽館林は首都圏からも近く、UターンやIターンで若手の生産者も増加しています。中でも急速に増加しているのがキャベツの作付面積です。

JA邑楽館林 園芸指導課 岡島 史弥

キャベツの作付面積が2年で2倍に

JA邑楽館林は、平成21年にJA館林市(館林市、明和町)、JA群馬板倉(板倉町)、JA西邑楽(邑楽町、千代田町、大泉町)の3つのJAが合併し、1市5町にまたがる広域農協として誕生しました。

現在、当地で急速に作付面積が増加している作物がキャベツです。高齢化による大規模経営者への農地委託や水田転作が進み、平成30年度に37haだった面積は、令和2年度には81haと2倍以上に増加しました。現在は、31名の生産者がJAぐんま青果物一次加工センターや管内の流通業者に出荷を行い、「高品質・安定出荷」を軸に取り組んでいます。特に、ハクサイ生産者がハクサイの生産規模を維持しつつ、新たにキャベツを作付けする作型が増加しており、ハクサイ収穫後の3〜4月はキャベツの出荷最盛期となっています。

JA邑楽館林地図

筆者

「夢舞妓」を抱える筆者。(撮影2021年3月12日)

「夢舞妓」が長期リレー出荷に一役買った

また、3〜4月出荷が増加している背景には、タキイの品種「夢舞妓」の存在も大きく関わっています。

例えば、管内のVegeta(ベジータ)株式会社(祖父の跡を継いで就農した松島章倫・圭祐兄弟の会社で、2人はたびたびマスコミにも登場する若手生産者)では、年間の作付品目としてキャベツの生産を拡大しています。キャベツの出荷期間は11月〜6月と長期にわたるため、さまざまな品種を組み合わせ、計画的な出荷を行っています。その中でも、一番評価の高い品種が「夢舞妓」です。数年前、4月出荷の品種に悩んでいた際に、タキイとJAから紹介されたのをきっかけに、現在は400aを作付けし、2月中旬〜5月中旬での出荷を行っています。

マスコミにもよく登場するVegeta(ベジータ)

マスコミにもよく登場するVegeta(株)の松島章倫さん(長男:右)、圭祐さん(次男:中央)、豊さん(父:左)。(「夢舞妓」の圃場にて:撮影2021年3月12日)

「夢舞妓」を評価している点は3つ、①在圃性、②肥大力、③耐病性です。

①在圃性

収穫期間の幅が広く、4〜5月の端境期にも出荷が可能。葉質がかたく、葉色も濃いタイプで品質がよく、内部黒変症にも強いです。4月に入るとわき芽から抽苔してくるのが課題です。

②肥大力

甲高扁平状で裂球しにくく、限界まで肥大してくれるため、収量も大幅に上がっています。年内に大きく仕上がっても在圃性にすぐれ、年内に小さくても春先の肥大で重量が稼げる万能な品種です。

③耐病性

胚軸が長く、適切な防除や管理を行うことができれば、病気はほとんど出ません。黒腐病にも強く、ロスなく収穫できています。

夢舞妓

すぐれた在圃性で4月どりが可能な夏まき寒玉晩生種「夢舞妓」。青果だけでなく加工・業務用にも適する。萎黄病に強く、黒腐病にも圃場耐病性を示す。

「夢舞妓」管理のポイントは肥料切れを起こさないこと

「夢舞妓」を管理するうえで一番のポイントは肥料切れを起こさないこと。栽培期間が長く、吸肥力が強いため、堆肥施用による地力維持と肥料切れを起こさない施肥(肥効の長い元肥、適期での追肥など)が重要です。地力のない圃場や排水性の悪い圃場には作付けしないよう注意を払っています。今後の課題としては、反収をもう少し上げること。病気は出さないように管理できているため、品種の組み合わせを工夫することで、増収につなげていきたいとVegeta(株)では考えておられます。

当地でのキャベツ品種リレー

11月 「いろどり」「おきな(タキイ)」
12月 「あさしお(タキイ)」「冬藍」
1月 「あさしお」「冬藍」「夢いぶき(タキイ)」
2月 「夢いぶき」「冬そだち」「夢ごろも(タキイ)」「夢舞妓(タキイ)」
3月 「夢ごろも」「夢舞妓」
4月 「夢舞妓」
5月 「夢舞妓」「錦恋」「ことみ」「さつき女王」

「夢舞妓」は葉質がかたく葉色も濃いため、貯蔵性にもすぐれ、在圃性の面からも安定出荷に適しています。

暑さ対策をしっかりして良質苗を育てることが課題

「夢舞妓」の肥培管理は元肥主体で行います。栽培期間が長いため、肥料切れを起こさないよう施肥設計を組みます。チッソ過多は微量要素欠乏や病気の助長につながる恐れがあるので注意が必要です。管理でのポイントは初期の根張りと外葉の形成です。

近年、異常気象と思われる状況が常態化しており、育苗期間は生育適温をはるかに上回る高温時での育苗となり、暑さ対策と徒長に注意して良質苗を育てることが課題となります。

Vegeta(株)の圃場と収穫した「夢舞妓」

アントシアンの着色も少ない

Vegeta(株)の圃場と収穫した「夢舞妓」。8月上旬まき、200穴セルトレイ育苗、9月上旬〜12日定植、条間65cm ×株間35cm。2月の乾燥と寒さで外葉は枯れ始めているが、玉はまだ余裕があり、アントシアンの着色も少ない。(撮影2021年3月12日)

定植後は酷暑だけでなく大雨も頻発しており、圃場の選定も排水面を十分に考慮し、排水溝の設置、高畝で栽培、過湿を防ぐための中耕、追肥も行います。外葉の展開に比例して肥大が決まるため、ここまでの作業は欠かせません。病害防除は、菌核病を中心に行い、5月出荷を行う場合は、4月も登録薬剤を最小限施用し、虫害の発生を未然に抑えます。

出荷規格を統一することで品質を高める

当地域ではキャベツをJA全農ぐんまや民間の食品会社向けに出荷していますが、加工・業務用キャベツは出荷規格基準を設定し、出荷規格を統一することで品質の高位平準化を図っています。虫害やすす症、中枯れ、抽苔、芯割れ、内部黒変症などの不良球混入を未然に防ぐため、圃場で試し切りしてからの収穫・調製作業を行う流れになっています。

圃場で試し切りをするVegeta(株)の松島章倫さん

圃場で試し切りをするVegeta(株)の松島章倫さん

20kgダンボール

500kgコンテナー

JA邑楽館林の出荷場。キャベツの出荷形態は20kgダンボールと500kgコンテナーになる。

日本有数の農産物の産地として、次世代とともにワンチームで

当地域は、冬季の長い日照時間を利用したキュウリをはじめとする施設園芸の産地です。夏場には、ナスやニガウリ、秋冬にはハクサイ、シュンギクなど1年を通して野菜の生産が盛んです。最近では、UターンやIターンで若手の生産者が増加しています。出荷については、高速道路を利用し、首都圏だけではなく北海道から関西まで可能です。今後も引き続き、新しい生産技術の導入と普及を行い、異常気象に負けない産地として、生産者と「ワンチーム」になるべく活動していきます。

松島兄弟、従業員、IA担当者、ワンチームを目指して「夢舞妓」圃場に勢ぞろい。

松島兄弟、従業員、JA担当者、ワンチームを目指して「夢舞妓」圃場に勢ぞろい。

※本文中で紹介された品種はタキイで取扱いがないものもあります。ご了承ください。