有機栽培のすすめ−臣先生の実践講座−有機栽培のすすめ−臣先生の実践講座−

講師 臣 康雄さん

講師 臣 康雄さん

タキイ研究農場で野菜育種に従事し、退職後は大学客員教授や企業コンサルタントとして活動。有機栽培の普及にも積極的に取り組んでいる。

取材:農園芸ライター

久野 美由紀

久野 美由紀

2022/07/20掲載

ご愛読いただいた「有機栽培のすすめ」もついに最終回。実践編の第4回は、ハクサイ、キャベツを取り上げます。代表的な葉物野菜であり、日々の食卓に欠かせない品目です。

最終回 有機栽培実践編4 ハクサイ、キャベツ

久野

秋冬野菜といわれて、最初に思い浮かぶのがハクサイとキャベツです。

臣先生

鍋物、煮物、漬物、炒め物、お好み焼き、サラダと、いろんな料理に使えるからね。日本人にとってなくてはならない野菜だな。

ハクサイ、キャベツ

臣先生

寒い季節に向かって栽培する秋冬野菜は、1日まくのが遅れるごとに収穫が1週間延びるといわれている。適切な時期を外さないように気をつけたいね。

作型

ハクサイやキャベツは、冷涼な気候を好みます。おすすめは夏まき秋冬どりの作型で、栽培容易なうえ旬の味覚も味わえます。また、キャベツなら春まき夏どりに挑戦してもかまいません。
夏まきの場合、タネまき時期は8月ごろとなります。ただし、真夏の育苗はやや難しいため、本数の少ない家庭菜園では苗を購入した方が無難でしょう。タネから作る場合はポリポットなどで育苗しますが、ハクサイは根の再生力が弱いため、8月中下旬の直まきを推奨します。
植え付けは9月に行い、11月から収穫を始めます。

ハクサイ
キャベツ

品種

ハクサイやキャベツには多くの品種がありますが、家庭菜園では昔ながらのものがおすすめです。長く使われている品種は総じて作りやすく、いくらか病害虫の被害にあっても、最終的には収穫までたどり着けるからです。
あとはお好みで、早くとりたいなら早生、年明けまで畑に置きたいなら晩抽性の品種を選ぶとよいし、キャベツの場合はやわらかい春系、加熱調理に向く寒玉系の違いがあるので、用途によって使い分けるとよいでしょう。私の教える市民農園では、表のような品種を取り入れています。

ハクサイ

無双 生育旺盛で生理障害の発生も少なく作りやすい。植え付けから60日程度で収穫できる早生品種。
金将二号 低温でもよく太り、生理障害の発生が少なく生育旺盛、良質の玉が安定してとれる。植え付け後80日程度で収穫でき、寒い季節の鍋物に重宝する。

キャベツ

北ひかり みずみずしくやわらかで、サラダなどに向く春系キャベツ。生育旺盛でトウ立ちが少なく、作りやすい。春〜初夏どり、秋どりなど、幅広い作型で栽培できる。
彩風 萎黄病、黒腐病に強く、よく肥大する寒玉系キャベツで、加熱調理に向く。植え付け後70〜75日で収穫できる中早生品種だが、裂球が遅く長期間畑に置ける。

畝立てと植え付け

ハクサイとキャベツは、アブラナ科の中でも比較的連作の影響が出やすい品目です。前回アブラナ科野菜を作付けしてから、2〜3年は間隔をあけるのが望ましいでしょう。日当たりと水はけのよい場所を選びますが、特にハクサイは耐湿性が弱いので注意します。
元肥を主体とし、初期生育を促して、生育中期までの肥料切れを防ぎます。植え付けの1カ月ほど前に施肥し、十分に耕して畝を立てます。

健康な野菜を作るには、まずしっかりした苗を植えること、そして品目に合った間隔を守ることです。狭い面積の家庭菜園では、どうしても密植しがちになりますが、風通しも日当たりも悪くなって、結果的に病害虫の巣になりかねません。収穫時の姿を思い浮かべ、それがきちんと植わっている間隔で植え付けましょう。
畝幅120pなら2条植え、60pなら1条植えとし、株間はキャベツで35p程度、ハクサイなら45p程度とします。

植え付けの目安

本葉4〜5枚程度の苗が適切です。手で浅く植え穴を掘り、苗を入れて根鉢に軽く土を被せる程度の浅植えにしましょう。多く土をかけすぎると、病気が入る原因になります。また、株元に水がたまると腐りやすいので、できればこんもりした山にして、周囲に浅い溝を掘り、雨が降ったとき余分な水が外側へ流れるようにするとよいでしょう。
最後に水をたっぷりやり、もみ殻をふっておきます。これは乾燥や雑草、雨で叩かれた際の泥はねを防ぐためです。

本葉4〜5枚程度の苗。左がハクサイ「金将二号」、右がキャベツ「彩風」。

手で軽く穴を掘り、根鉢部をていねいに植え付ける。

こんもりした山のように、少し高めの位置に植え付け、周囲に溝を掘って排水をよくする。

たっぷりと水をやる。

乾燥や雑草、泥はね防止にもみ殻をふる。

もみ殻は畝の全面にふってもよい。

乾燥や雑草防止には、黒マルチを張っておくのも効果的です。必ず土が湿った状態で張るようにし、乾いていたらあらかじめ水をやっておきましょう。乾燥した状態で張ってしまうと、よけい乾いてしまうので注意します。
手間はかかりますが、同時にネットをトンネル状にかけておくと害虫が防げます。

マルチ栽培は乾燥や雑草防止に効果的。必ず土が湿った状態で張る。

植え付け後すぐにネットをかけておくと害虫が防げる。隙間がないように。

管理作業

植え付けの1週間〜10日後、苗が活着したころに1回目の追肥を行います。このとき気をつけるのが、株元へやらないことです。根は葉が開いているあたりまで張っているので、そこへ肥料を施すと、植物は養分を吸い上げるため自ら根を伸ばし、強い株に育つからです。株元へやると濃度障害を起こし、根が傷むこともあるので避けましょう。
施肥後に畝の表面を軽く中耕し、草を抑えるとともに、土壌の通気性をよくして根の発育を促します。このとき、葉や根を傷つけないようにしてください。
2回目の追肥は、1回目の1週間〜10日後(植え付けの2週間〜20日後)に行います。これにより外葉を大きく育てます。

植え付けから1週間〜10日後のハクサイ。1回目の追肥を行い、畝の表面を軽く中耕する。

植え付けから2週間〜20日後のハクサイとキャベツ。そろそろ2回目の追肥を行う。

結球開始から収穫までは肥効を切らさないことが大切ですが、一方で過剰になりすぎないよう注意も必要です。同じ畑で長く野菜を作っていると、知らず知らずのうちに土が肥え、ともすれば与えすぎになっていることもあるからです。
肥料が多すぎると、野菜は人間でいう「メタボ」のようになってしまいます。そうなると病気も出るし、害虫もつきやすいのです。

野菜はチッソ分を好むので、足りていても土中にあれば余分に吸収します。チッソは植物の体内でアミノ酸に変わりますが、多すぎると変化しきれず、硝酸態チッソとして体内に残ります。それがえぐみとなって食味を損ねたり、人間の健康にもよくない野菜となったりします。
野菜を多少飢餓状態にしてやると、養分を摂取するために根をしっかり張ろうとします。そして、すくすくと健康に育ってくれるのです。
日ごろから葉をよく観察しておきましょう。青々としすぎていたら肥料過多の恐れがあります。薄緑色が健全な状態です。

植え付けから1カ月あまり、結球を開始したキャベツ。肥料過多、不足、どちらにも気をつける。

病害虫の防除

前回も説明しましたが、土づくりをして細胞膜や表皮がしっかりした健康な野菜に育てれば、植物の発する「におい」が漏れにくくなり、害虫に気づかれることが少なくなります(第8回参照)。
しかし、ハクサイとキャベツの場合、それだけで被害を防ぐことは難しいでしょう。何も対策をとらなければ、葉が虫に食い尽くされてしまうこともあるほどです。

害虫に食われてポロポロになったハクサイ。葉の付け根を探ると、ダイコンハムシ(ダイコンサルハムシ)が大量に発見された。

キャベツは虫に食われても、ハクサイよりダメージが少ない。外葉は穴だらけでも、結球部はほとんど無傷。

最も簡単なのは、コンパニオンプランツを取り入れることです。例えば、代表的な害虫であるアオムシは、レタスやシュンギクといったキク科野菜のにおいを嫌います。これらをハクサイやキャベツと混植するだけで、被害を減らすことができます。
また、植え付けの項で述べましたが、最初にネットをかけておけば、物理的に害虫の侵入を防げます。ただし、隙間が多くあいていると、簡単に中へ入り込まれ、かえって害虫を囲ってしまう状態になるので、きっちり閉じておきましょう。

キャベツとリーフレタスの混植。植え付け時の工夫で、害虫をある程度は防げる。

ネットをきっちりかけると、虫食いは目に見えて少なくなる。

あとは、とにかく観察することです。写真は市民農園で見られたものですが、ハクサイやキャベツには、アオムシのほかにヨトウムシ(ヨトウガ)、コナガ、ダイコンハムシ(ダイコンサルハムシ)、キスジノミハムシなど、さまざまな害虫が存在します。害虫だけでなく病気も葉裏にひそんでいることが多いので、必ず葉をめくって確認してください。発見したら虫は手でとり、病気が出た葉は早めに取り除きます。

アオムシはアブラナ科野菜の代表的な害虫。チョウが卵を産みつけ、かえった幼虫のアオムシが葉を食いつくす。

成虫のヨトウガが大量に産卵し、幼虫のヨトウムシが葉を食い荒らしてボロボロにする。市民農園でも被害が大きい。

ダイコンハムシは成虫で越冬し、春になると1,000個ほど卵を産んで大繁殖するやっかいな害虫。

手でダイコンハムシをとろうとするとポロッと落ちて行方をくらますので、ピンセットで根気よくつまみとる。

収穫

9月上中旬に植え付けた場合、早いものでは11月ごろから収穫期を迎えます。結球部を押さえてみて、かたくしまった感じになれば、収穫して大丈夫です。
ハクサイを1月下旬ごろまで畑に置くときは、外葉を寄せて玉を包みしばっておくと、防寒になって長い間利用できます。

11月下旬、ほどよく結球し、収穫を待つキャベツ。

12月下旬のハクサイ。厳寒期まで畑に置く場合は、外葉を寄せて玉を包み防寒しておく。

久野

ハクサイやキャベツを農薬を使わずに作ると、どうしても虫食いは避けられませんね。たまに、食われすぎて葉がレースのようになったものも見かけます。

臣先生

とにかく観察することだな。病害虫にしても肥料の過不足にしても、まずは葉に現れることが多いから。

久野

有機栽培についてお聞きしてきたこの連載も、今回が最終回になります。もっと教えていただきたかったのに残念です。最後に、有機栽培をするうえでの心がまえをお聞かせください。

臣先生

常によいものを作ろうとする姿勢は必要だけど、パーフェクトをねらっても無理。売られている品物はきれいでも、裏で多くの野菜が捨てられていたりするからね。だから、店と同じようなものを作ろうとはせず、自分なりの野菜を作って、家庭菜園ならではの新鮮なおいしさを味わってほしいな。

久野

少しぐらい形が変でも、虫食いがあっても、自分で作ったものには愛着がわきますものね。

臣先生

有機栽培に「これをしたら絶対成功する」というやり方はない。毎年いろんなことが起こるから、失敗したらその度に「なぜそうなるんだろう」と考えて、「ああしてみよう、こうしてみよう」と工夫する。それで、「案外いけた」となれば成功だから。できなかったらその経験を生かして「今度こそはうまく作ろう!」とがんばる。そうやって、楽しんで野菜を作り続けてください。

久野

考えて、工夫して、作ることを楽しむんですね。分かりました。どうもありがとうございました。