産地ルポ

栽培技術

2021/2/22掲載

ネグサレセンチュウを抑制。
花の咲かないマリーゴールド
「エバーグリーン」導入の効果

近年、野菜の産地などでは、連作などにより発生する病害が問題になっており、その対策として、さまざまな機能性をもつ緑肥作物が注目されています。緑肥作物は土壌の団粒構造を促進する物理性の向上、病害対策、各種の有害センチュウの密度抑制、生産性向上などに効果があります。 神奈川県三浦半島地域ではダイコンの前作としてマリーゴールドを30年以上栽培し、現在は「エバーグリーン」を導入されています。今回は神奈川県農業技術センターに導入の経緯とその効果を解説していただきました。

神奈川県農業技術センター三浦半島地区事務所 普及指導課 田千惠

三浦半島地域におけるマリーゴールド栽培の歴史

神奈川県三浦半島地域は神奈川県南東部に位置し、三方を相模湾、東京湾に囲まれた地域です。温暖な気候もあり、秋から春にかけたダイコン栽培では全国でも有数の産地(作付面積:699ha 平成30年度野菜生産出荷統計)です。
マリーゴールド「アフリカントール」は、神奈川県三浦半島地域の主力品目であるダイコンに大きな被害を与えるキタネグサレセンチュウに対する密度抑制効果が高いことから、昭和60年ごろから夏の休閑畑に栽培が広まり、昭和63年夏には20ha程度が栽培されていました。

各種センチュウを抑制する「アフリカントール」。美しい花をつけるので景観用としてもすぐれる

各種センチュウを抑制する「アフリカントール」。美しい花をつけるので景観用としてもすぐれる

「アフリカントール」は、初期生育が緩慢なことから移植栽培を行うことで雑草を抑制します。しかし、それでは定植労力が必要なことや、すき込み後の分解に要する期間が長いこともあり、「アフリカントール」の栽培は平成3年をピークに減少しました。
さらに、平成7年ごろからオオタバコガの幼虫がマリーゴールドの花で増殖し、周辺の作物を食害することが問題となり、「アフリカントール」の栽培はさらに減少しました。
マリーゴールド以外の緑肥としては、野生種のえん麦が作付けされていますが、マリーゴールドほどのセンチュウ密度抑制効果が期待できないこと、雑草化を防ぐために出穂前にすき込む必要があることなどから、地域にあった緑肥が求められていました。

花の咲かないマリーゴールド「エバーグリーン」が登場

そこで注目したのがフレンチマリーゴールド「エバーグリーン」です。オオタバコガの幼虫の餌となる花が咲かないことから、神奈川県農業技術センター三浦半島地区事務所では、平成22年度から試験栽培に取り組み、キタネグサレセンチュウの密度抑制に効果があることが確認できました。
さらに「エバーグリーン」は、株の老化が遅く茎がかたくなりにくいため、すき込み後の分解が早いこと、株元での分枝が旺盛で従来の品種より地面を早くから被覆し、雑草が繁茂しにくいことなどの利点が明らかになりました。

4月下旬播種の「エバーグリーン」

4月下旬播種の「エバーグリーン」

4月下旬播種の「エバーグリーン」、7月上旬の様子。しっかりと圃場全面を覆っている。

「エバーグリーン」の導入と課題解決

ダイコンの前作の緑肥として多くの利点があり有効であることが実証されたことから、「エバーグリーン」の導入・普及に本格的に取り組んでいくことを決め、まずは環境保全型農業に意欲的に取り組む農業者に向けて、農協と連携しながら情報提供をしました。
「エバーグリーン」を導入栽培した農業者から、新たな課題が出され、その対応策を検討しました。
移植栽培は労力がかかることが課題であったため、手押し式播種機を使った直播栽培が可能であることを実証しました。

手押し式播種機「ごんべえ」による「エバーグリーン」直播栽培の様子。

手押し式播種機「ごんべえ」による「エバーグリーン」直播栽培の様子。

「エバーグリーン」直播栽培での除草管理作業。

「エバーグリーン」直播栽培での除草管理作業。

現在は手押し式播種機「ごんべえ」(向井工業)を使用した直播栽培をすすめています。 
生育初期の雑草対策として、播種後3週間ごろに畝間に管理機を入れて土寄せを兼ねた除草を行うことで効率的な除草が可能です。
また、マリーゴールドのすき込みには、ハンマーナイフモア(草を刈って粉砕する機械)などで粉砕してからロータリー耕を行うよう指導していましたが、ハンマーナイフモアがない農業者もいるため、事前に粉砕しない方法についても検討しました。

「エバーグリーン」は茎葉がやわらかいため、粉砕しなくてもダイコンの播種までに1カ月以上の期間をとれば土中で十分に分解され、ダイコンの品質に問題が出ないことがわかりました。
さらに、平成28年度の現地試験において、「エバーグリーン」を4月下旬に播種する栽培だけでなく、春キャベツの収穫が終了する5月下旬に播種する栽培でも十分な生育量となり、キタネグサレセンチュウの密度抑制効果も4月下旬播種と変わらないことがわかりました。
また、マリーゴールドの効果は従来、本圃で3カ月以上の栽培が必要とされてきましたが、令和元年度の当所研究課の試験結果では、「エバーグリーン」を6月上旬から8月上旬の2カ月間栽培すれば、5月下旬播種の場合と同等のキタネグサレセンチュウ密度抑制効果があることもわかりました。

「エバーグリーン」の導入で経費削減

「エバーグリーン」導入の効果

・キタネグサレセンチュウの密度低下に効果・オオタバコガの幼虫の餌になる花を咲かせない・株の老化が遅く茎がかたくなりにくいため、すき込んだあと分解しやすい・ネグサレセンチュウ防除で必要なD−D剤費用より 「エバーグリーン」の種子代金のほうが安価である→手押し式播種機「ごんべえ」を利用し省力的な直播栽培を推進中

野生種のえん麦ではキタネグサレセンチュウの密度減少効果は十分ではなく、殺センチュウ剤の使用も必要になりますが、密度抑制の効果が高い「エバーグリーン」を栽培することで殺センチュウ剤を大きく削減することができます。10a当たりの「エバーグリーン」種子と殺センチュウ剤のコストを計算すると、「エバーグリーン」の種子代の方が安く経費削減が見込まれます。

マリーゴールドをより多くの圃場へ

花の咲かないマリーゴールド「エバーグリーン」は、三浦半島のダイコン作付け前の緑肥として、キタネグサレセンチュウ密度抑制に大きな効果が認められます。
さらに、特に問題となっている夏の休閑畑の土壌流亡防止や、有機質資材の施用不足による地力低下防止の効果も期待されています。当所では、直播栽培をより拡大するため、農協と連携して農業者に播種機を利用した直播栽培の技術支援を行ってきました。

後作のダイコンの品質も良好であることから、「エバーグリーン」の栽培面積は増加しつつあります。しかし、天候の影響で、畝間を十分覆うまでに生育しない事例や、夏季の降雨が少ない場合は、すき込みからダイコン播種までの1カ月では腐熟期間が不足する場合もあることから、注意が必要です。

「グランドコントロール」、「エバーグリーン」同様、茎が細くやわらかいためすき込みが容易である。

「グランドコントロール」、「エバーグリーン」同様、茎が細くやわらかいためすき込みが容易である。

ネグサレセンチュウの密度抑制効果があるマリーゴールドには小さい花が咲く「グランドコントロール」もあります。「グランドコントロール」は、茎が細くやわらかいためすき込みが容易であり、「エバーグリーン」に比べて初期生育がやや早いので、播種時期が遅くかつ周囲の作物にオオタバコガによる被害の懸念がない場合は「グランドコントロール」の利用をすすめています。
当所ではダイコンの安定生産のため、「マリーゴールド」の作付け拡大が図られるよう、普及活動に取り組んでいきます。

フレンチマリーゴールド「エバーグリーン」「グランドコントロール」の詳しい情報はこちら