夏秋トマトの裂果防止のために裂果の原因と対策

2019/02/20掲載

裂果は増加しているのか。

近年、トマトの夏秋栽培で裂果対策の問い合わせが増加しています。冬春のハウス栽培では温度・湿度・潅水などを管理することで、ある程度の対策が可能ですが、高温対策は、実施困難なことが多いので特に夏秋栽培での裂果は大きな問題となっているようです。
この度はトマト裂果対策についてポイントを紹介いたします。

裂果の発生と原因

裂果の発生原因には以下のことがあげられます。

・ ヘタ下のコルク層から割れる・ 高温による一種の日焼け・ 水分バランスによる裂果・ 低温による裂果(栽培終盤)

コルク層からの裂果

草勢強で果実の芯が太くなると、ヘタ下のコルクが形成されやすくなります。コルク層は弾力がないので大きいと裂果が起こりやすくなります。
コルク発生は以下の原因で誘発されます。

<コルク層発生の原因>

  • チッソ過剰
  • ヘタが貧弱になりコルクが発生しやすくなる。
コルク層からの裂果

日焼けによる裂果

特に夏秋栽培における裂果は、高温の影響が多くみられます。幼果が「日焼け」により、果皮がかたくなり、果実肥大に耐えらなくなり裂果します。
対策は以下です。

  • 日よけの葉を充実させる。
  • 初期の草勢が強すぎると中盤が弱くなるので、初期草勢を抑える。
早期早熟の果実。果実が白っぽく光沢がない。

早期早熟の果実。果実が白っぽく光沢がない。

正常な果実。

正常な果実。

吸水による裂果

急激な吸水による果実肥大に果皮が耐え切れず裂果してしまいます。着色期に発生が多くなります。
対策は以下。

  • 潅水方法の改善
    少量多潅水を基本とします。
  • 上位の葉面積を確保
    上位葉からの蒸散が活発になるようにするため、葉面積を確保(葉を茂らせる)します。
  • 根張りを上根中心にしない
    上根中心となると、水を急激に吸いやすくなり、根が土の表面に集まるため、暑さ寒さの影響を受けやすくなります。
着色期の裂果。

着色期の裂果。

裂果対策

高温障害が発生した草姿。

高温障害が発生した草姿。上位葉がかたく小さく丸まり、下位に日陰をつくれず、果実がむき出しになってしまう。

高温・乾燥対策

高温に乾燥が重なると、葉が萎れないようにする働きで葉がかたくなってしまいます。
葉が小さくなると日陰をつくることができず、幼果に日焼けが起こり裂果が発生します。
夏が暑いのは当然ですので、それに乾燥が重ならないように注意しましょう。

高温対策資材の活用

ハウス内の明るさを保ちながら涼しさを実現できます

タキイオリジナル
「タキイホワイトTW」が有効

高温が原因なら温度を下げる必要があります。「タキイホワイトTW」などの遮光・遮熱資材を使用するのもひとつの方法です。

遮光ではなく「遮熱」が重要。熱を遮断して光をとおす白い資材が主流。

乾燥対策1中盤以降の潅水

夕立などによる急激な給水が起こっても割れないように、水に慣らしておきます。
追肥開始以降は少量多潅水を心掛け、通路潅水も行うとよいでしょう。
ガクの長さが潅水量の目安で、水分不足となるとガクが短くなります。

通路潅水の実施。

通路潅水の実施。

乾燥対策2温度管理

高温への対応に限界があるのなら「乾燥への対応」を確実に実施します。
ハウス内の湿度に問題はないか?「トマトの潅水は控えめにすべき」との鉄則にとらわれすぎていないか今一度チェックする必要があるでしょう。

午前中の湿度に注意!

午後は他の管理も十分なら、70〜80%としたいが、そうでないなら下げないと病害多発のリスクが高くなる。

温度管理

午前中は、湿度70〜85%程度が理想
※徒長・病害のリスクがあるので上の理想値より低めに設定。

草勢管理の改善

葉面積は大きい方がよい

なぜ果実に直射日光が当たりやすくなるのか、その原因を考えてみましょう。 
葉で日陰がつくれないことで、高温時に果実(特に幼果)がむき出しになってしまいます。高温期に葉が大きく伸びれば、果実に直射日光が当たりにくくなります。早期白熟を防ぎ、葉からの蒸散も多く水の循環もよくなるので、生育良好で裂果も少なくなります。
高温期(生育中期)に草勢を維持するためのポイントは初期草勢を強くさせすぎないことになります。

中盤以降は、葉を大きく育てる草勢管理が重要。

中盤以降は、葉を大きく育てる草勢管理が重要。

初期草勢を強くさせすぎないための管理

ポイント1 定植

若苗定植の問題点

家庭菜園では9cmポット苗を購入後そのまま定植することが多いのですが、この場合は苗が若い分、初期草勢は強くなりがちです。
一般的な栽培の教科書は、12cm以上のポット苗での開花苗定植を基本として元肥量を設計しています。開花苗に到っていない9cmポットの若苗を植え付ける場合は、教科書どおりの元肥量だと多すぎるのです。
教科書通りでは草勢が強くなりすぎる⇒元肥の量は半分でも十分
逆に、9cmポットで開花苗の場合は、かなりの老化苗の状態ということなので、「ヨーゲンアクセル」などを使用して葉面散布を行い、草勢回復を図ります。

定植時、直後の栽培ポイント

浅植えを推奨。

浅植えを推奨。

側枝は人差し指の長さで除去。

側枝は人差し指の長さで除去。2段目開花までに実施。

定植期の注意点

根の張りをよくする。特に生育初期における根張り改善が重要になります。
草勢維持に根は重要です。できるだけ、深くしっかり根を張らせます。ただし、上根を多くしすぎないこと、上根が多いと潅水時に水を急激に吸って裂果しやすくなります。

ポイント2 初期管理

初期生育が強すぎると反動で、5段目あたりの草勢が低下してきます。すると上位葉が貧弱になり、日陰をつくれなくなってしまいます。初期草勢を抑える管理をすれば、追肥を適期に適量施せるので、中段草勢が維持でき、裂果は軽減できます。

初期草勢強のイメージ図

初期草勢強のイメージ図
三角形の草姿になってしまう。

追肥開始を早める

追肥開始を遅れないようにすること。追肥開始を通常なら3段花房開花時とするところを、2段花房開花時の開始とし1段早めます。
以後1週間にチッソ成分で10a当たり1sが基本です。これにより中盤の草勢低下を予防します。
なお、追肥開始を早くしだ分だけ元肥を少なくします
チッソ成分10a当たり3s以上減

追肥開始を早める

摘果

摘果を、房当たり1段目は3果、2段目以降は4果になるよう実施します。
過剰肥大や乱形果になることが多いため、1段目、2段目は最も茎に近い第1果を摘果対象とします。

摘果は玉が500円玉〜ゴルフボール大になった時が目安。

摘果は玉が500円玉〜ゴルフボール大になった時が目安。

整枝誘引方法の工夫

斜めに誘引する方法

斜め誘引は、直立よりも葉が重なり果実に日陰ができやすくなります。
ただし裂果は減りますが空洞果が増える危険性があるので、草勢低下には十分注意してください。

斜め誘引による夏秋トマト圃場。

斜め誘引による夏秋トマト圃場。

整枝

果房直下の側枝は人差し指の長さまで伸ばします。

  • 栽培順調なら除去
  • 芯が止まりそうなときは主枝更新に使用
  • 草勢が弱い場合は1葉摘芯を実施
花数・花質の維持は裂果防止に効果あり。

花数・花質の維持は裂果防止に効果あり。

夏秋どりには裂果しにくい「桃太郎ワンダー」がおすすめ

2017年に発表された「桃太郎ワンダー」は夏秋どり桃太郎の中でも裂果しにくい特性をもっています。
裂果しにくいポイントをご紹介します。

夏秋どりには裂果しにくい「桃太郎ワンダー」がおすすめ

「桃太郎ワンダー」が裂果に強い理由

その1栽培全般を通じて草勢を維持できるスタミナをもつ

「桃太郎セレクト」「桃太郎8」などの他の夏秋トマトと比べると、栽培の最初から最後まで安定した草勢を維持しています。
中盤以降の草勢が維持できる

栽培全般を通じて草勢を維持できるスタミナをもつ

その2葉が大きく、横に伸びる(葉の巻き込みが少ない)

「桃太郎ワンダー」は葉が長いためリーフカバーを作りやすく、高温による裂果を軽減させます。また、葉の巻き込みが少ないので大きさの割に葉が込み合いません。
果実の日焼けを防ぐことができる。
「ワンダー」は一葉ずつの小葉は小さいが、葉が長く全体としては葉面積が大きくなる。

葉が大きく、横に伸びる(葉の巻き込みが少ない)

その3ヘタ下のコルク層ができにくくコルク部分からの裂果が起きにくい

正常な果実。

正常な果実。

コルク発生と裂果の例。

コルク発生と裂果の例。