産地ルポ

産地ルポ

2025/2/20掲載

柔道家から果樹農家へ
しのふぁ〜む 篠原信一さん
寒地型下草「フルーツサポーター」を導入

岐阜県各務原市 阿部農園 阿部透宏さん 阿部さんの圃場にて。「京くれないEX」を手に。

植え付け2年目のモモの苗木は、既に篠原さんの背丈を追い越していて、周囲の人が「大きい!」と目を見張るほど。2025年から出荷を始める。

柔道100kg超級の選手として世界を舞台にオリンピックでも活躍された、篠原信一さん。現在は長野県安曇野市に移住し、「しのふぁ〜む」を設立。ブルーベリーの栽培に取り組んでいます。2023年からはさらに農地を確保して、モモ栽培にも着手しました。新しい圃場で果樹栽培に取り組むとき、地面を覆う「下草」はとても重要な存在ですが、篠原さんはどんな草を選んだのでしょう。安曇野市のモモ園を訪ねました。

取材・文・写真 三好かやの 2024年9月19日取材

「フルーツサポーター」で美しい果樹園に

モモ園にグリーンのじゅうたんを

「うちの畑は道路に面しているので、車もたくさん通ります。見る人に『篠原の畑はきれいだ』と言われたい」
2023年に植えたばかりのモモの苗木は、身長190pの篠原さんの背丈を超えるまでに。2025年の夏から収穫を始める予定です。
圃場の景観を保つには、地面をグリーンのじゅうたんのように広がる「下草」が欠かせません。篠原さんは、地元の鞄本タネセンターの矢花昌平副社長に相談し、寒地型の下草「フルーツサポーター」を採用しました。

苗木を植えた地面をグリーンの下草でカバーして、地温と雑草を抑制する。その効果を期待して「フルーツサボーター」を導入(写真は長野県伊那市のリンゴ園)。

苗木を植えた地面をグリーンの下草でカバーして、地温と雑草を抑制する。その効果を期待して「フルーツサボーター」を導入(写真は長野県伊那市のリンゴ園)。

寒地型下草「フルーツサポーター」とは?

「フルーツサポーター」は、発芽と初期生育の早い「トールフェスク スパイダーLS」と、耐寒性にすぐれる「ケンタッキーブルーグラス ムーンライトSLT」をミックスした寒地型の下草です。早期に圃場の地表面に広がり、土壌の乾燥や地温の上昇を抑えるほか、雑草の生育を抑制し、夏場の草刈りの労力を低減する効果があります。加えて篠原さんが重視する景観効果も期待できると、2023年6月「フルーツサポーター」のタネをまいた後、道路工事用のローラーを借りてきて、きっちり鎮圧も行いました。

イネ科の雑草は上部をカットすると枯れるのに対して、「フルーツサポーター」は、しっかり残って地面を覆う。

イネ科の雑草は上部をカットすると枯れるのに対して、「フルーツサポーター」は、しっかり残って地面を覆う。

ところが……
「雑草も生えてきて、なかなか下草が広がりません。なぜ?」
首をかしげる篠原さん。原因はどこにあるのでしょう?

寒地ではなく、もはや暖地?

考えられるのは、急激な温暖化の影響です。標高500mを超える安曇野市は、冷涼な気候を生かしてリンゴやワサビの栽培が盛んな地域ですが、近年夏場は33〜34℃に達する日もしばしば。さらに夜温も下がらなくなっているのです。寒冷地向けに開発された「フルーツサポーター」が、思うように広がらないのはそのためかもしれません。

「フルーツサポーター」は雑草に覆われ、このままではその勢いに負けてしまいそうな状況でした。安曇野市とは思えないような夏場の高温期にもかかわらず、篠原さんは2〜3週間に一度の草刈りを欠かしませんでしたが、凹凸の多い地面を覆う下草の草刈り作業では、どうしても刈り込みが低くなってしまいます。

「下草が生えずに空いた隙間にタネを追い蒔きして、寒地型の下草が広がるのを待つか、それとも部分的に暖地型の下草を導入するか。うーん…。もっと広がる芝がほしい」
考え込む篠原さん。今回の場合は伸びた「フルーツサポーター」へのダメージを減らすため、低く刈り込みすぎず草丈を半分くらいの高さにする方法が適していたのかもしれません。
地元で種苗の販売を手がける矢花さんの話では、「安曇野はもはや寒冷地ではなく中間地、もしくは暖地の基準で播種期を伝えています」とのこと。それは下草も同じで、状況に応じた対応が早急に求められることを、物語っています。

しのふぁ〜むのモモ園の地面を覆うフルーツサポーター。

しのふぁ〜むのモモ園の地面を覆うフルーツサポーター。

イネ科の雑草は上部をカットすると枯れるのに対して、「フルーツサポーター」は、しっかり残って地面を覆う。

猛暑の影響を受け、植えた下草が思うように広がらず、雑草と競合する状態に…。

ブルーベリー畑の雑草対策には「ティフ・ブレア」を

こだわり農法のブルーベリー

長野へ移住する前は、朝食のヨーグルトにいつも冷凍のブルーベリーを合わせて食べていた篠原さん。「生の果実を自分で作ろう!」と思い立ったのが、栽培のきっかけです。

近隣の農園のブルーベリーを片っ端から食べ比べ、最も「甘くておいしい」と感じたのは、「筑摩野ファーム」大月清治さんの果実でした。「師匠はこの人しかいない!」と、何度も足を運んで弟子入り。大量のウッドチップを投入する農法をすすめられ、畑の準備と同時進行で、土壌作りや剪定技術を学びました。
「大粒の実を完熟してから摘み取って、クール便で送っています」
そんな篠原さんの情熱とこだわりが詰まったブルーベリーは、生果も加工用も完売。就農して4年。着々と実績を積んでいます。

難しさを感じながらも「温暖化が進む中、果樹を育てるには、その土地に適した下草が必要」と感じている篠原さん。

難しさを感じながらも「温暖化が進む中、果樹を育てるには、その土地に適した下草が必要」と感じている篠原さん。

暖地型の「ティフ・ブレア」を植えてみよう

取材当日、ブルーベリーの畑は、既に収穫を終えていました。圃場の間に段差があり、その法面に生える雑草が悩みの種でした。
「ここにも雑草を抑える、下草がほしい」

ブルーベリーの圃場には段差があり、画面右手の法面の除草が課題と感じていた。

ブルーベリーの圃場には段差があり、画面右手の法面の除草が課題と感じていた。

センチピードグラス「ティフ・ブレア」は暖地型芝ながら耐寒性にも優れる品種です。タネに代わって小さなピット苗を10p間隔で植え付け、できるだけ早く地面を覆う作戦に取り組むことに。来春の苗の植え付けに向け、育苗を矢花さんが担当することになりました。

法面に「ティフ・ブレア」のピット苗を植え付け、短期間でカバーしようと画策中。ブルーベリー畑の現在の法面(写真左)を「ティフ・ブレア」で覆い雑草を抑えたい(イメージ写真右 滋賀県東近江市)

法面に「ティフ・ブレア」のピット苗を植え付け、短期間でカバーしようと画策中。
ブルーベリー畑の現在の法面(写真左)を「ティフ・ブレア」で覆い雑草を抑えたい(イメージ写真右 滋賀県東近江市)

「果樹には1本1本個性があると知りました。自分はそれに合わせていくしかない」
2025年は「ブルーベリー1t」収穫するのが目標。モモの出荷も始まります。かつて世界の強豪と闘い続けた篠原さん。舞台を柔道場から生産現場に移し、環境の変化や樹の性質を見極めながら、果敢に果樹栽培に挑んでいます。

収穫を終えたブルーベリー畑で。既に新梢が出ていて、来シーズンに向けて栽培が始まっている。

収穫を終えたブルーベリー畑で。既に新梢が出ていて、来シーズンに向けて栽培が始まっている。

タキイ最前線のバックナンバーをご覧いただけますタキイ最前線のバックナンバーをご覧いただけます