身近なところから始める環境制御 応用編 保水・排水のバランスがよい土づくりと日射比例潅水のしくみ

2020年7月20日更新

株式会社ニッポー
深田 正博

本誌「タキイ最前線2020年秋種特集号」では、既存の施設装備を使い、最低限のコストで、誰でも手が届く環境制御を基本のスタンスに、環境制御を始める事前準備について解説しました。今回は、その応用編として環境制御を行うにあたり大切な土壌の排水対策や日射比例潅水についてお話しします。

栽培の基本である土づくりはしっかりと

団粒構造をもった土

土づくり(有機物+元肥の施用)は、微生物の活性維持、土壌の団粒構造の維持、保水性・排水性の両立、根圏の酸素供給維持、細根伸長の促進、根の呼吸維持、吸肥・吸水を維持することが可能となり、野菜作りには欠かせません。最近、土づくりと元肥は必要ないという技術者が増えることを心配しています。最初の土づくりを怠ると、土の基本構造である団粒が崩壊していき、土壌乾燥後は水が浸透しにくい反面、湿りすぎると極度の酸欠状態になるなど、根の呼吸や活動を維持することが難しくなってしまいます。併せて徐々に土壌中の微生物相が偏り、青枯病、萎凋病、立枯病などの致命的な土壌病害に侵されることになります。

最近の土耕産地での事例に、C/N比(炭素量とチッ素量の比率)の整った有機物投入が労力的な理由で割愛された結果、根圏への酸素供給剤を頻繁に施用して効果がみられる例が散見されます。これは、土壌の団粒がすでに崩壊し慢性的に酸素不足に陥っていると考えて無理はありません。この場合、酸素供給剤の施用はある意味対処療法(尻ぬぐい)であり前向きな管理ではありません。

第1図 団粒構造

土の粒の間に隙間があるので、空気や水がよく吸収され、根の環境に好影響を与える。

耕盤破砕

ピーマンは一般的に浅根の作物と言われていますが、第2図のようなプラソイラを施工し耕盤破砕を行った部分においては排水性が高く、水分、酸素が深層まで届く状態となり局所的に60cm以上の深さまで細根が密生することが確認されました(写真1)。このことから、従来の浅根作物は排水不良で滞水していたり、深層に気相(酸素)が少なかったりしたことが原因で、酸素要求量が多い細根が上層に逃げていったと考えらます。

深層まで細根が確保されていると地表面の高温、低温、乾燥などのストレスを避けることができ、広い範囲の根圏から水分、養分を吸収できること、根傷みも少なく根を再生する必要も少なくなるため無駄な消耗も少ないなどさまざまなメリットがあげられます。曇天が続いた後の晴天時のしおれも少ないなど、地上部ストレスにも耐性が高いことが現場では確認されます。

正確な潅水を行うには、シーズンオフの排水対策の作業がなくては栽培中の環境制御が成り立ちません。

※プラソイラは破砕幅が広いので排水能が長期間維持されますが下層土を持ち上げるので、下層土が不良の場合はサブソイラなどに変更します。

写真1

写真右側はプラソイラを施工した部分。ピーマンの細根が深くまで密生しているのが分かる。

第2図 畝を耕盤破砕する時の方向

ハウス内の畝方向だけでなく横方向の耕盤破砕が重要。

第3図 破砕の深さ

畝方向破砕の排水を横方向破砕で暗渠の上端に繋げる。

畝方向破砕は耕盤位置の下、横方向の破砕は暗渠の上端の深さとしますが、耕盤の深さ、厚さ、破砕の爪を入れる深さは「イボ竹」や「貫入硬度計」があれば容易に確認できます。暗渠の位置は圃場端の立ち上げパイプの位置で確認します。暗渠の深さは勾配をつけてあるため手前と奥の深さは異なることに注意が必要です。

爪を入れる位置は畝下部分に集中してください。優良事例では、一つの畝に3本のプラソイラ施工の例があります。ハウスの両妻サイドに畝位置の目印をつけて慎重に作業してください。

1日の積算日射量を確認

日射比例潅水を始めるにあたって、まずみなさんの各地域で1日の積算日射量がいったいどれくらいあるかということをご確認ください(第4図)。
日射量が多い5月末から梅雨入りまでは1日・1m2あたり18MJ(メガジュール)前後ある一方で、日射量が少ない12月は7〜9MJ前後と時期により2倍程度の差が見られます。

ちなみに施設園芸先進地とされるオランダの冬季日射量は日本国内の越冬産地より大変少ないことがわかります。これは産地によって栽培上の課題と解決の優先順位が異なるであろうことを示しています。

第4図 各地域の全天日射量の推移(平年値半旬)

第5図 時期ごと時刻ごとの太陽光入射角度

第6図 11月〜4月の日照時間(h)

冬季の日照時間は太平洋側>日本海側の傾向にある。

冬季の日射量の減少(第4図)は、主に太陽光の入射角度(第5図)と日照時間(第6図)の影響を受けています。冬至前後の太陽光の入射角度は昼の南中でも30度未満で、その前後はさらに低い角度になるのでハウスの設置方向、棟数、フィルムの汚れ、結露、カーテン開閉の影響でさらに大きな日射量の損失があります。

従来は、日射センサーの設置を屋外として、カタログなどに記載されているフィルム透過率から作物の受光量を計算することが必須とされていましたが、前述のさまざまな混乱要因の下では正確な数値が取れていませんでした。骨材の影、遮光、結露、入射角の影響も作物は直接受けているので、最近は日射計を屋内に設置して植物の葉まで直接届いた日射量で管理するようになってきました。さらに、少ない日照時間、日射量を最大限取り込むため、散乱光フィルムの導入が有効な手段となっています。

日射比例潅水の仕組み

ここからは、日射比例潅水制御盤の使用を前提とした話になります。最近は、手頃な価格で機能的な環境制御機器が販売されています。

第7図のように、晴天日の日中の日射量は山なりに増減します。朝から日射計で測定した瞬間日射量(W)を秒数(S)ごとに積算(W×S=J)していき、1〜3MJごとに潅水するなど、圃場によりさまざまですが設定した基準に届くたびに潅水を行うというのが大まかな仕組みです。

例えば、春先の1日15MJの積算日射量がある日に、仮に日射量が2MJ溜まるごとに潅水を行う設定とすると、単純計算で1日7回程度の潅水が行われます(実際は日没前の調整で1〜2回減ります)。冬至前後の1日8MJなど積算日射が少ない時期は、日没前調整を含めると1日2〜3回の潅水となります。さらに曇天日など極端な場合は朝潅水1回のみで終わるケースも見られます。

土耕では暮れ近くまで潅水を行うと病害の発生や徒長、裂果などにつながるので一般的には土壌水分の残量を確認しながら日没前2〜5時間前に、ある程度の日射量を残して潅水を切り上げます。

第7図 日射比例潅水のイメージ

日射比例潅水を実施する場合、優良生産者の日射比例潅水設定値をコピーしても大部分はうまくいっていません。これは前述した土壌の保水性、排水性、ポンプの水圧、畝の長さ、チューブの種類、草勢、さらには土壌養液の浸透圧などの条件が異なるためです。自らの圃場にあった潅水量、その間隔、施肥量を見極めることが大切です。

試行運転を開始するには、何らかの目安がないと何も始まりません。そこで、積算日射量1MJごとに10a当たり250ℓ(250ml/m2)を潅水するとされている試算値を使って、目安となる仮の設定値を計算します。

潅水量250ℓ/10a(250ml/m2)の試算
①ロックウールの隔離培地耕栽培で3割の排液が前提の水量
②葉面積指数(葉面積と地面との比、LAI)は葉が3倍程度
③空気は適度な乾燥状態(飽差値は示されていないが)
上記条件下での蒸散量から逆算した必要潅水量の理論値

仮の設定値で試行した潅水の修正

この仮設定で、とりあえず開始した日射比例潅水を「土壌の水はけ具合」「作物の大きさ」「空気の乾燥程度」で潅水量と吸水量のバランスを修正していきます。

実際は、晴天日の朝から試行運転を行い、日中の潅水直前や特に夕方に乾きやすい複数箇所の土壌を手でつかんで土壌水分含量を確認し、その周辺の葉面温度のチェック(蒸散確認)で設定の過不足調整を繰り返し、みなさんの圃場にあった潅水設定値を絞り込んでいくという手順です(第8図)。

このとき、下層土が砂土、砂壌土、畑地など排水性が高い場合は、潅水と潅水の間隔が長いと土壌水分不足が起こり、気孔が閉じることとなって葉温が上昇し、光合成も停滞してしまいます。「土壌乾燥」「葉温上昇」が確認された場合は、潅水の間隔を縮めるために日射積算の設定値を小さくし、併せて潅水時間を少し長く修正することもあります。

第8図 潅水設定の調整

潅水チューブの確認

潅水チューブの吐出量のムラは製品によりさまざまです。チューブの手前、中央、先端に計量カップを埋めて水圧調整の上5分間の吐出量確認を行ってください(写真2)。電卓ではじく通りに潅水が実践できる資材の選定はうまく潅水をするための前提条件となります。

また、栽培終了後にもマルチを取った後に潅水チューブのつまりの確認を行い、更新、繰越の判断をしてください。鉄分、肥料分、砂などの詰まりが少しでもみられる場合は、毎年交換が必須と考えてください。潅水ムラは生育に大きく影響するので大切なところには確認の手間とコストを惜しまないでください。

写真2 点滴チューブの吐出量の確認

土壌水分センサー

どのような圃場でも、広いハウス内では土壌の状態がバラつくことが一般的です。乾燥しやすい箇所、排水が悪い、水量が多い少ないなど、さまざまな異なる条件が同じ圃場内に散在しています。また、ロックウールやココピートなど工業的につくられた培地栽培では条件(性状)が均一で、土耕とは大きく異なります。

第9図のなかで、ポンプから遠く水量が少なくなりやすい部分の作物は蒸散を維持できずに気孔を閉じ、光合成ができず生育が停滞します。その部分が不足しない水量に調節すると、今度は排水不良箇所や、吐出量が多くなりやすい部分では過剰潅水により根が酸欠となり、根腐れを起こして生育不良につながります。

土壌の状態がバラついているという条件下で土壌水分・ECセンサーを1〜2カ所に設置し、その数値をもとに潅水・施肥を制御してしまうと適正潅水量・施肥量から大きく外れてしまうことになります。センサーに頼る前に、冒頭で紹介した排水対策をしっかり行うことが重要です。

第9図 ハウス内の土壌水分条件のバラつき

では、水分センサーが土耕では一切役に立たないかというとそうではありません。必ず複数箇所に設置して水分率(%)、pF値などの1日の変動幅を把握し、朝、昼、夕の目安範囲にあることを「参考に横目に見る」ことで天候・時期による不具合を見つけてください。

※pF値…土壌水分が土の毛管力によって引き付けられている強さの程度を表す数値で、土壌の湿り具合を表す。

日射比例潅水に必要なもの

日射比例潅水を実践するにあたって最低限必要なものを列記します。

  • 電動ポンプ(エンジンポンプは電気的に制御できません)
  • 減壓弁(できれば圧力計も)
  • 電磁弁(潅水の系統ごとに1基ずつ)
    日射比例潅水を行うにはタイミングが大事なので多系統はおすすめしません。散水チューブの場合、点滴チューブに変更することで系統数を減らすことができます。
  • 液肥混入器
    無動力型、電動タイプ、2液、3液タイプなどさまざまです。既存の機器を生かしてコストを抑えるのもよい手段と言えます。
    基本は「常に薄く肥料分を含ませた水を日射と飽差により過不足なく」です。
  • 点滴チューブ一式(散水タイプは不向き)
    点滴チューブを使用することから、特に水質に注意してください。基本的な高pH対策はもちろんですが、鉄、カルシウム、不純物、微生物などにより点滴チューブが途中から詰まって繋ぎなおす作業に追われないように。
  • 日射比例潅水制御機器

第10図 日射比例潅水に必要な機器の構成例
(赤点線内は初期必須)

国内の低軒高のハウスでは日射による蒸散への影響のほか、空気中の飽差の影響も大きく受けています。体育館のようなオランダのハウスとは異なる部分です。手前味噌ですがニッポーの潅水ナビでは日射比例潅水の潅水判断に飽差で補正を加えています。飽差が低ければ積算日射量での潅水判断を遅らせる、積算日射量や蒸散が始まる飽差値近辺のタイミングで朝の初回潅水を開始するなど低コストに潅水を抑める機能が搭載されています。

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