誕生から55年! ナスの代名詞となったタキイ交配「千両」「千両二号」誕生から55年! ナスの代名詞となったタキイ交配「千両」「千両二号」

夏の京都の旬野菜
西山のすそ野大原野で育まれる伝統の「京都茄子」
〜京都市西京区大原野「千両二号」栽培の職人 村上薫さんに聞く〜

編集部

京都市西京区の桂川以西と乙訓郡(向日市・長岡京市を含む)は古くから「西ケ岡」あるいは「西山」と呼ばれる地域です。この西山のすそ野一帯は粘土質の豊かな土壌に恵まれ、京都でも有数の「千両二号」の産地。この西山の地でとれた「千両二号」は「京都茄子」のブランドで夏秋のシーズンには、京都、大阪、神戸の三市場に出荷されています。
この度は、京都市西京区大原野の地で、タケノコとナスの名人と呼ばれる生産者村上薫さんにこの地のナス栽培についてお聞きしました。

大原野の地で「千両二号」の栽培に35年以上取り組まれるナス栽培の名人村上薫さんご夫妻。

大原野の地で「千両二号」の栽培に35年以上取り組まれる
ナス栽培の名人村上薫さんご夫妻。

京都市西京区大原野
夏〜秋に栽培される西山の「千両二号」は「京都茄子」のブランド名で出荷される。

夏〜秋に栽培される西山の「千両二号」は「京都茄子」のブランド名で出荷される。

京の漬物屋さんに愛されるつやのある美しいナス

西山のすそ野、大原野はナス栽培に向く土地で、粘りのある粘土質の多い土壌で育つ「千両二号」は色つやがよく、古くから京都の漬物屋さんで「一本漬にするなら西山のすそ野の千両ナス(千両二号)」と愛され続けてきた伝統の一品です。
「西山のこの一帯のナスは、『箱に色が付くから染めてんのとちゃうか』というような話が出るぐらい色の濃いナスができます。もちろんそんなことはしていませんが、確かに収穫して箱詰めすると箱に紺色がつきます。それぐらい色の濃い、つやのいいナスができるんです」
と村上さん。大原野のナスの品質に自信と誇りをもっておられます。

村上薫さんの「千両二号」圃場。

村上薫さんの「千両二号」圃場。

京都の漬物屋さんで絶大な人気を誇る西山のナスは「千両二号」が使われている。

京都の漬物屋さんで絶大な人気を誇る西山のナスは「千両二号」が使われている。

地元、京都中央市場では、旬の時期に一番買いが入るのが西山の「千両二号」です。特に漬物屋さんの評価が高く、一本漬のほかには大原の名産しば漬の原料にもなっています。
台風後の傷がついたものや、変形果などはきざみのお漬物に、A品ランクのものは一本漬けとして、京都の料理屋さんにも漬物ナスとして絶大な人気を誇っているのです。
同シーズンには「賀茂なす」や「山科なす」などの「京の伝統野菜」のブランドナスがあり、近頃では泉州の「水なす」に押され気味の現状があるとしながらも、「でもやはり京都の漬物屋さんがそんだけ選んで買ってくれてはるというのは、この産地がずっと続いている理由やと思いますね」と村上さんは言われます。

三代続く地元の農家、父の代よりナスを栽培

「小さいときから手伝ってますから、当時のこともよく覚えていますね。まだ、リンゴやミカンの箱にナスを詰めてた時代ですわ。1961、2年ごろかな。JA大原野(現JA京都中央)にもナスの部会ができて「千両二号」が発売されてからですね」
村上家は祖父、父、薫さんと三代続く篤農家です。ナスの栽培を始めたのは1960年代父の孝清さんの代から。当時、米とタケノコに加えて夏場の野菜生産で収入を安定させようとの試みがあったといいます。
「千両二号」以前は「水なす」のような皮のやわらかい品種を栽培していました。

抜群の美しさを誇る「千両二号」大原野での選別作業の様子(1981年9月京都市西京区大原野)。

抜群の美しさを誇る「千両二号」大原野での選別作業の様子
(1981年9月京都市西京区大原野)。

1980年代の大原野での栽培の様子。

1980年代の大原野での栽培の様子。

「実を直接触ると悪うなると怒られました。傷がついてもあかんので、必ずガクのところを持てと言われてましたね。『千両二号』でやったら手がトゲだらけになってしまう(笑)。昔は量を出せばお金になる時代でしたが、それでも流通に乗せるには『千両二号』の方が有利だったんでしょうね」
産地には秀品率の高い「千両二号」が導入され、村上さんが就農してから35年以上、現在に至るまで一年も切らさずに「千両二号」を栽培されています。

JAは大原野と隣の長岡京市が合併されていますが、ナス部会はそれぞれの歴史を引き継いで別の部会として活動が続いています。大原野ナス部会では他の部会に先駆けて「ソルゴー障壁栽培」を導入され、耕種的防除を取り入れることで農薬の使用を減らし、安全安心な品質を保つことで市場の信頼を得ています。この産地で収穫された「千両二号」は「京都茄子」のブランド名で、近隣の京都、大阪、神戸の三市場に出荷されています。

京都市場に出荷された「京都茄子」(千両二号)。

京都市場に出荷された「京都茄子」(千両二号)。

ソルゴー障壁栽培。天敵を利用し害虫を防ぐことにより減農薬を可能としている。

ソルゴー障壁栽培。天敵を利用し害虫を防ぐことにより減農薬を可能としている。

恵まれた土壌を生かし旬の時期にいちばんおいしいものを

村上さんがご自身の栽培の中で一番のポイントと考えているのは、減農薬です。障壁栽培より前に枝の剪定をこまめに行う、輪作することで連作障害を防いでいます。

連作障害を避けるため稲作との輪作を行う村上さんの圃場。

連作障害を避けるため稲作との輪作を行う村上さんの圃場。

大原野地区では他の産地に先駆けてソルゴー障壁栽培を導入。安全・安心なナス作りに取り組む。

大原野地区では他の産地に先駆けてソルゴー障壁栽培を導入。
安全・安心なナス作りに取り組む。

やはり大きな問題は連作で、同じ畑で続けて栽培していくと、その分、生理障害や病害のリスクは高まります。そこで、稲作を3〜4年した後にナスを植えるなどの輪作体系をとられています。
そして、何よりも大切な西山のすそ野の土を生かしながら栽培することが重要なのです。

奥さんのえり子さん。伝統の「緑色」の出荷箱を手に。

奥さんのえり子さん。伝統の「緑色」の出荷箱を手に。

京都の料理人に愛される「千両ナス」

村上さんは市場出荷のほかにも、タケノコとナスなどを京都の料亭やレストランにも卸しておられます。
京都の老舗料亭さんの朝粥メニューの一部になるなど、名だたる料亭、レストランとのお付き合いがあります。料理人たちのこだわりは「朝採り」ということで、村上さんはそれらのお店にシーズン中は毎朝、その日の朝収穫したナスを卸しています。午前10時ごろ収穫・選別仕分作業が終わったころに料理人たちがナスを引き取りに訪ねてくるというのです。

祗園祭から大文字の送り火にかけて、最も色つやよく皮がやわらかく味の濃いナスができる。

祗園祭から大文字の送り火にかけて、最も色つやよく皮がやわらかく味の濃いナスができる。

漬物以外にも焼きナスや揚げびたしなど和食に欠かせない。

漬物以外にも焼きナスや揚げびたしなど和食に欠かせない。

料亭に愛されるナスの魅力はやはり大原野の「千両二号」の「色とつや」にあるのではと村上さんは言われます。
「そりゃ一流の料理屋さんですから、どんな素材を使われてもおいしいのは決まっているでしょうけれど、生産者としてはやっぱり色、つやを生かしてもらいたいというのはありますね」
漬物以外にも焼きナスや揚げびたしといった和食に欠かせないメニューに使われています。
「祇園祭から大文字の送り火にかけての千両ナスは、まさしく『夏なすび』といった感じで色つやがよく皮もやわらかく味が濃いんです」
と村上さん。「収穫していても、やわらかくて手に吸い付いてくるよう」なナス……。京都の盆地の暑さと湿度がよいナスを作るというのです。そして、秋には実が締り皮がかたくなってきます。まさしく夏から秋まで「旬」を最大に生かしたナスができるのです。村上さんは「朝採り」の鮮度とともに、味のしっかりとした濃いナスを作っていきたいと心掛けておられます。

そして、料亭や料理人との関わりも大切にしていきたいと考えられています。
「まだ私が青年研究会、若手生産者の研究会にいたころのことです。京料理芽生(めばえ)会という京料理の若手料理人の集まりがあるのですが、『おいしい地場野菜を生産してほしい』との想いから、この会の年2回の総会に呼んでくださったりしましたね」
各料亭の持ち回りで行われるという総会。若い時に、一流の料亭の味を知ることができたことは、自身の野菜作りにも大きな影響を受けたといいます。京料理の料理人には地場野菜の生産者を育てたいとの熱い想いがあり、生産者にはよい素材を最大限に生かしてほしいとの想いがあるのです。

煮炊き料理でもおいしく食べられる「千両二号」。

煮炊き料理でもおいしく食べられる「千両二号」。

和食以外にもナスを使ってほしい

もちろん、京料理だけでなく「京都茄子」をいろんな料理で使ってほしいとの想いがあります。
「ナスはやっぱりイタリアンですごい人気ですね。トマトは当然使われるでしょうけど、イタリアンの人がナスを使われる量も年々増えていますね。我々は夏の間しか作らないので、もう季節が終わってますと言っているのに注文が入ってくることもありますね」
素材を生かしたシンプルな料理に合う「千両ナス」は同じく素材の味を大切にするイタリアンとの相性もよいようです。

近頃、イタリアンやフレンチでもナスが使われる場面が増えてきた。「肉料理やサラダにどんどんナスを使ってほしい」と村上さん。

近頃、イタリアンやフレンチでもナスが使われる場面が増えてきた。 「肉料理やサラダにどんどんナスを使ってほしい」と村上さん。

「焼きナス(千両二号)と魚介・トマトスープ仕立て」

「焼きナス(千両二号)と魚介・トマトスープ仕立て」

京都も昔のように和食のお店だけではなく、フレンチ、イタリアンを始めとして、さまざまな国やジャンルの料理店が増えています。そこに生産者としていかに向き合っていくのがよいのかそれを常に模索されています。
「イタリアンの料理人に知り合ったら、イタリアンに、フレンチの人ならフレンチにお薦めしてね。やはりタケノコもですけど、ナスもいろんな料理で使ってほしい。食材にしてもチコリやアンディーブなど海外の野菜も入ってきて、そうしたことと我々生産者はどう向き合っていったらおもしろいのかなあと、その中で新しいスタイルができれば」

昨今ではイタリアンだけでなく、フレンチの料理店からの注文も増えてきています。
「ナスはオリーブオイルと合わせる料理でも使ってもらってますね。タケノコだと食感を生かしてステーキとか、フォアグラと一緒にとか、ゆがいてスライスしてサラダにとか。ナスもそういう感じでどんどん使ってもらいたいんですよ」
と、村上さんは新しい食べ方の提案や使い方までも模索されています。

これからの大原野の「千両ナス」

これからの課題や目標についてお聞きしてみました。
「やっぱり泉州の水なすに負けている状況をなんとかしたいですね」
「京都茄子」の出荷時期には、「賀茂なす」「山科なす」などの京のブランドナスとともに、大阪泉州の「水なす」なども出荷されます。現状、漬物屋さんの店頭の一番前に並んでいるのはこの「泉州水なす」です。
先ほどあがった「京都茄子」(千両二号)以外のナスの特徴は「アクがないこと」。「水なす」は生のまま食せることが人気の理由でもあります。しかし、これらの品種にはない「アク」を「千両二号」の魅力ととらえ、村上さんはこの「アク」を生かした料理提案や食べ方ができないかと考えておられます。

ほかのナスにはない「アク」をもつ「千両二号」。

ほかのナスにはない「アク」をもつ「千両二号」。

「アクを生かし切ってくれはったら……。よく言われるのは発色がいいのはアクがあるからとか言われますよね。このアクを生かした料理や、機能性成分をアピールできれば、泉州の「水なす」にも勝てるかなと。京都で「賀茂なす」に勝とうというのはもう無理ですわ。だから全国に向けて、「泉州水なす」に対抗できれば、できたら、「水なす」の上をいきたいという野望みたいのはありますね」
と笑顔で話されていました。

「賀茂なす」
「山科なす」

「賀茂なす」(左)と「山科なす」(右)。「京都茄子」と同時期に市場に出回る「京の伝統野菜」。

最後に大原野の「千両二号」の魅力とは?

村上さんは大原野で作られる「千両二号」の一番の魅力は「旬の時期に作られるナス」ということだと感じられています。「これは市場の人の間でも出てくる話で、京都市場にこの産地のものがある時にはよそのものは入ってきません」と品質への自信を見せられます。
「ナスは体をクールダウンさせる効果もあるし、旬の食材として夏が暑い京都に住む人の健康に昔から役立っている、これはやはりすごいことだと思いますね」
そして、嗜好性の高い「料理」としてだけでなく、「薬膳」のような体によい効果を期待して食べる。野菜は特にその側面が強いのではないかと考えておられます。
「2020年の東京オリンピックには、旬のナスを選手の皆さんにもどんどん食べてもらいたいですね」
京都大原野の地の土壌を生かし、京都の盆地の気候を生かして栽培される「京都茄子」。    
伝統のブランド野菜は新しい潮流を取り入れ、ますます京の都に欠かせない野菜になっていくことでしょう。

「千両二号」