Web連載

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2022/2/21掲載

マンガ de わかる これからの農業 スマート農業基本のキ 第5話 ECサイトで販路を広げる!

ロボット技術やICTを活用して省力・高品質化などを実現する新たな農業「スマート農業」。
名前は聞いたことがあるけど、どんなものか分からない…。そんな農家の方々に向けて、
マンガで分かりやすく「スマート農業」をお伝えする連載企画です。

登場人物
  • 息子:里山 未来(30歳)

    息子:里山 未来(30歳)
    里山家の次男。大学の農学部を卒業し、都内のIT関連企業に勤めていたが、26歳のとき父の後を継ぎ、就農。せっかくなら新しい農業にチャレンジしたいと思っている。

  • 指導員:橋本 哲弥

    指導員:橋本 哲弥
    農業技術の指導や経営の相談に応じ、農業の楽しさを広めている。

前回までのあらすじ

環境制御機器のクラウドサービスなど、スマート農業を積極的に取り入れながら、里山農園を営む未来。ある日、指導員の橋本さんから助言を受け、今度はトマトの養液栽培を目指すことに…。数年後、ついに養液栽培をスタートさせた未来は、ひさしぶりに橋本さんを農園に招待しました。

EC販売で販路を広げるメリットって?

1つの販路に依存するのは危険!

販路の集中は作業の合理化につながりますが、売り先の選択肢がない危険な状態とも言えます。インターネットが普及した現在、農作物の販路は大きく広がりました。先の読みづらい今のご時世、リスク分散のためEC(Electronic Commerce)という選択も検討の余地があります。

メリット① 鮮度の高い野菜、余剰分や訳あり品も販売できる

消費者から直接注文を受け、中間業者を介さずに、自身の農作物を直接販売することができます。消費者は旬の時期に新鮮な農作物を手に入れることができるというわけです。生産者が独自の裁量を持てるのが大きな利点。市場では規格外となる野菜や、規定のロットにまとまらない果実も、収穫当日に宅配便などで出荷できます。

鮮度の高い野菜、余剰分や訳あり品も販売できる

メリット② 利益率が上がる

市場と異なり自身で価格設定ができるため、原価に基づいた価格での販売が可能です。また、卸や量販店などの中間業者を介さないため、途中で発生する販売手数料や運賃などの諸経費を抑えられます。一方で注文受付や発送業務などを行う手間や、宅配用の梱包資材など新たなコストが発生するので注意してください。

環境制御機器の機能 2 異常の検知や通報

メリット③ 定期便を提供できる

「旬の野菜おまかせ便」のような、数種類の野菜を詰め合わせたセット販売が可能です。「週に1回」など配達の頻度を決めれば、定期便として安定した売り上げが期待できるでしょう。ある程度生産側の都合で中身や発送時期を調整できるので、廃棄ロス軽減にもつながります。今後注力したい新商品などの販促にも有効です。

定期便を提供できる

野菜が販売できるECサイトいろいろ

農作物のECサイトは現在3種類に大別できます。各サービス一長一短ありますので、自身の目的や農作物の特徴に合わせ選択してください。人によっては市場出荷のほうがベターという場合もあります。導入前に比較検討し、取り組みやすいものから始めましょう。

品質の均一化

①モール型EC
(Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングモール など)

ネット上の大きなショッピングモールです。既定のデザインがあり、モール内で簡単にショップを作成でき、集客力があって多くの人がアクセスします。一方で毎月の出店料と販売手数料がかかり、モール自体の印象が強く生産者の個性を出しづらい一面もあります。

  • メリット:モールの知名度があり集客力がある。短時間で登録・出品ができる。
  • デメリット:出店料・販売手数料がかかる。個性が打ち出しにくい。 

②産直EC(食べチョク、ポケットマルシェ など)

産直の専門店街のようなイメージです。出店に基準があり一定品質が担保されているほか、情報発信に熱心な生産者が多く、消費者からの信頼性が高いといえます。メディア露出が増え注目を集めていますが、出品者が増えたことで埋もれてしまう懸念があります。

  • メリット:出店者のレベルが高い。忠誠度の高い顧客が多い。運営のサポートが充実。
  • デメリット:販売手数料がかかる。出品者増による埋没。

③自社EC(自ら運営)

ネット上の個人販売店です。自分でショッピングカートシステムを契約して、商品を販売します。レイアウトなどは自由に変更でき、ECサイト自体で個性を打ち出せます。固定費・手数料を抑えられますが、集客やトラブル対応など全て自前で行う必要があります。

  • メリット:自由度が高い。個性を出しやすい。固定費や手数料が格安。
  • デメリット:設定に手間がかかる。コミュニケーションコストが大きい。

番外編 フリマアプリ(メルカリ、ラクマなど)

ネット上のフリーマーケットで販売することも可能です。細かい初期設定が不要で、固定費も掛からないため、気軽に出品ができます。一方で価格重視のユーザーが多く安値合戦になったり、デザイン的に個性を打ち出しにくく、固定客との関係性が作りづらい傾向があります。

  • メリット:簡単に始められる。細かい設定が不要。販売手数料のみでOK。
  • デメリット:薄利になりやすい。個性が出せない。固定客が育ちにくい。

ECサイトで販売を始める前に
チェックしておきたい3つのポイント

ポイント① 価格設定

ECでは自分の裁量で価格を決められます。市場価格に合わせるのではなく、生産コストから導いた原価を基準に「再生産価格」での販売を行いましょう。まずはECサイト上の同業者や近隣直売所の価格を参考にするのがおすすめです。高単価で沢山販売できるのが理想ですが、状況に応じて価格変更をする工夫も必要です。

価格設定

ポイント② 梱包

見た目のよいパッケージも大事ですが、第一は農作物の品質です。宅配便での輸送を念頭に入れた梱包にしましょう。段ボール箱や緩衝材の使い方を工夫し、長距離移動にも耐えられる状態にします。新鮮さを重視して購入される消費者も多いです。鮮度維持効果が期待できる資材などを使い、市場出荷との差別化を図りましょう。

梱包

ポイント③ 顧客とのコミュニケーション

ECでは商品とお金のやり取りを、顧客と直接することになります。畑の風景や農園のストーリーなどの情報発信も大切ですが、まずは取り引きに伴う連絡や問い合わせへの回答を、ていねいかつ迅速に行うよう意識してください。収穫や出荷作業に追われ対応を怠ると、ECサイト上でマイナス評価を公開されてしまうこともあります。

顧客とのコミュニケーション

監修:橋本 哲弥さん
農家、農業・園芸分野のライター。東京農業大学、茨城大学卒業後、園芸店勤務を経て農家に。農業の傍ら農業・園芸関連の実用書などで執筆活動を行う。