品種ピックアップ

品種ピックアップ

2023/7/20掲載

異常気象に強い品種選定と栽培技術
ダイコン・ニンジン編
〜高温・乾燥・多湿で発生するトラブル対策、
緑肥の活用や耐病性品種の選定〜

近年、地球温暖化による猛暑や豪雨といった気象変動の影響によってダイコンやニンジンなど露地野菜の作柄は一層不安定になっています。このような状況下でも品種や資材をうまく活用し、栽培のポイントを押さえて高収量、高品質な栽培を目指しましょう。今回は高温下で問題となる生理障害や病害虫の症状とその対策に加えて、それらの障害に強い品種の選定と効果的な資材や緑肥の活用を合わせた良作のポイントをご紹介します。

タキイ研究農場 田中 寛

根菜類に適した土づくりと生育初期の栽培管理

根菜類は伸びた根が水、空気、養分を吸収しやすい土で栽培することが大切です。これは水はけ、水もちのよい土ということでもあり、土の構造が大きく影響します。いわゆる団粒構造があることで作物が健全に生育できる環境になります。特に水はけや水もちが悪い畑では生育や品質が悪くなりやすいので、排水性改善のために明渠の整備やサブソイラによる耕盤破砕、高畝栽培が必要です。また土壌環境の改善が期待できる資材「森のめぐみ」の投入や酸素供給剤「オキソパワー5」の使用で湿害の回避が期待できます。また肥料抜けが早いやせ地においては堆肥や保肥力を高める資材「腐植チャージ」の投入も栽培を安定させるうえで効果的です。

オキソパワー5

森のめぐみ

腐植チャージ

さらに直播で栽培するダイコンやニンジンは発芽をそろえることが良作への第一歩です。ポイントは圃場の準備をする際に適切な水分状態であること、またタネまき後の適切な覆土と潅水量です。高温期の播種においては特に乾きやすいので覆土後しっかりと鎮圧を行い、発芽までは十分な潅水管理を行いましょう。発芽がそろったら次に大切なのは「スムーズな初期生育」です。果菜類では「苗半作」ともいわれますが、根菜類も最終間引きのステージにあたる本葉5〜6枚までの初期生育が特に重要です。こまめな「中耕」管理で土壌中に空気を送ることで根の生育がよくなります。また適切な間引きを行い、最終間引きまでの根づくり(=根部伸長)が後の葉づくり(=葉数展開)、最終的な根づくり(=収穫物)につながりますので、生育初期のこまめな観察と管理を心掛けて不良環境に耐えられるダイコン、ニンジンを育てましょう。

ダイコンの栽培上の問題点と対策

内部褐変症(黒芯症赤芯症

肥大根中心部全体が黒褐色または赤褐色に変色し、外観的には判別が難しい生理障害です。根肥大期に、高地温などの環境要因、リン酸やホウ素の欠乏が関与し、根にポリフェノールが蓄積して褐色になると考えられています。対策としては白マルチやシルバーマルチを利用し地温の上昇を抑えること、また品種間差が大きい生理障害なので、「夏あおい」などの品種を選択しましょう。

軟腐病

細菌が原因で起きる病気で、アブラナ科ほか、多くの作物で病気を引き起こします。また、一度発生すると防除が極めて困難な土壌伝染性の病気です。根頭部での発病が多く、その症状は水浸状で腐敗が激しく悪臭を放ちます。対策はチッソ過多を避けること、風通しをよくするために過度の密植栽培にしないことです。本病害も品種間差が大きい病害なので、「夏あおい」などの品種を選択しましょう。

キスジノミハムシ

成虫(体長は2mmほど)は主に葉を食べ、1mm程度の穴をたくさんあけます。幼虫は白色のウジムシで、根を食べて傷をつけるため、商品価値が著しく下がります。成虫で越冬し、春〜秋に2〜3回発生します。アブラナ科野菜の連作やアブラナ科の雑草でも増殖しますので圃場周辺の整備も被害拡大防止に効果があります。また、エンバク(ネグサレタイジなど)を緑肥として作付けすることにより被害軽減が期待されます。

ダイコンなどの前作として栽培することで、キスジノミハムシの密度を抑制する「ネグサレタイジ」。

ダイコンなどの前作として栽培することで、キスジノミハムシの密度を抑制する「ネグサレタイジ」。

異常気象に強いダイコンの品種選定

夏あおい

高温期に問題となる軟腐病、萎黄病、バーティシリウム黒点病に耐病性をもつほか、黒芯症や赤芯症などの生理障害にも強い品種です。また夏ダイコンとしては晩抽性にもすぐれ、中間地・暖地6月どり、冷涼地8月どり作型においても特性を発揮する品種です。一方で極端な乾燥や過湿条件では横縞症などの発生が心配されるため、保水性、排水性のよい圃場での栽培が適します。

耐病性にすぐれ、生理障害の発生も少ない「夏あおい」。

耐病性にすぐれ、生理障害の発生も少ない「夏あおい」。

ニンジンの栽培上の問題点と対策

発芽不良

夏まき栽培の播種時期は、生育環境が厳しいため発芽不良や立ち枯れが発生しやすく、収量や秀品率に大きく影響します。特に発芽するまでの7〜10日は土壌が乾燥すると極端に発芽率が低下しますので十分注意しましょう。発芽後も極端な乾燥は又根や裂根が増加するため、土壌水分に注意して適宜潅水を行います。

ニンジンの発芽〜生育初期は土壌が乾燥しないように注意する。

ニンジンの発芽〜生育初期は土壌が乾燥しないように注意する。

肩部障害

生育初期の高温と過乾燥・過湿により発生する障害で、胚軸の裂開の痕跡、裂開程度によって症状が異なります。特に播種後1カ月の気温が高いと発生割合が高くなります。当障害への対策は、本葉2〜3枚ごろの土寄せにより胚軸を保護することで軽減されます(本葉3枚以降に裂開するため)。また株元への土寄せは青首防止のため本葉6〜7枚ごろにも行いましょう。

肩部の障害の一つエクボ症。首や肩部に凹凸を生じる。その症状がブタの鼻の形状に似ていることから「ブタ鼻」とも呼ばれる。

肩部の障害の一つエクボ症。首や肩部に凹凸を生じる。その症状がブタの鼻の形状に似ていることから「ブタ鼻」とも呼ばれる。

しみ症

根部表面に3〜5o程度の黒〜褐変病斑が発生します(主な病原菌はピシウム菌とフザリウム菌)。病斑部に亀裂が生じることで裂根の原因にもなります。地下水位が高く水はけの悪い畑では特に発生しやすい環境となるため、明渠の設置や高畝にするなど圃場の排水性向上に努めましょう。当病害も品種間差が大きい病害なので、「向陽二号」「恋むすめ」などの品種を選択しましょう。

安定したしみ症耐病性をもつ「向陽二号」。

安定したしみ症耐病性をもつ「向陽二号」。

異常気象に強いニンジンの品種選定

「翔馬」

高温条件下において発芽ぞろいがよく、初期生育が旺盛で欠株になりにくく栽培安定性にすぐれます。また、肩部障害に比較的強く、夏まき年内どり栽培に最適な品種です。草姿は立性で葉が伸び過ぎず、葉軸がしっかりしています。そのため、中耕や土寄せ、薬剤散布など栽培管理が行いやすい品種です。一方、収穫遅れによる老化はしみ症の発生増加につながるため適期収穫を心掛けましょう。

夏まき栽培において発芽ぞろいがよく初期生育がスムーズな「翔馬」。

夏まき栽培において発芽ぞろいがよく初期生育がスムーズな「翔馬」。

「恋むすめ」

夏まき可能な春どり早生品種です。本種は早太り性と低温肥大性にすぐれることから、8月下旬まき栽培ができるのが特長です。無理な早まきは発芽不良や短根の原因になりますので、本種の低温肥大性、早生性を生かした遅まき早どりで栽培の安定化をねらいます。

土質を選ばず幅広い作型に適する「恋むすめ」。

土質を選ばず幅広い作型に適する「恋むすめ」。

不良環境に耐えて良作に導く栽培ポイント

ニンジンはリン酸の肥効が生育に重要といわれています。リン酸成分主体の「ホスベジ10」などの葉面散布剤を、生育中後期に数回散布すると発根が促され地上部が健全となり、安定生産・良品多収へとつながります。また、害虫や葉枯れ病害(黒葉枯病、斑点病、斑点細菌病など)は発生すると蔓延しやすく収量に大きく影響しますので予防的防除を基本として、播種後1カ月あたりから定期的に薬剤散布を行うと効果的です。

亜リン酸にグリシンベタインを配合した液肥「ホスベジ10」。

亜リン酸にグリシンベタインを配合した液肥「ホスベジ10」。