最終回

2019/07/22掲載

4.新規就農の現実、そして学校の責任

非農家出身で新規就農希望者はここ10年間で毎年数名いますが、いざ就農するとなると農業に最低限必要な土地、機械、住居、販売先、軌道に乗るまでの生活費などを確保する必要があります。ゼロベースでこれらをそろえると最低でも数千万円の資金(借金)が必要です。これでは新規就農は不可能です。

全国各県で新規就農者の受け入れを実施しており、以前よりハードルは下がり、新規就農のチャンスは格段に増えています。
しかし、自営開始にはその準備期間が最低でも数年必要で、まずは自分が具体的に何の作物をやりたいのか、最低限の年間計画、売上目標、強い就農意思がないと話になりません。漠然と花や野菜の栽培が好きとか、田舎で農業をやりたい、お金を儲けたいでは就農先の紹介はできません。 少なくとも専攻科へ進学し、野菜・花卉の栽培基礎技術を持ち、団体生活で体得した挨拶、規則遵守、コミュニケーション能力など人間力が必要です。山奥に籠もり一人で他人と関わらず農業をやりたいなど(大人しい生徒はこのタイプが多くいました)論外です。

このあたりをよく話し、目的、計画、やる気を見極めたうえで就農先を紹介します。 現実問題として校長の10年間、非農家出身の新規就農者はたった一人だけです。

私が一番心配するのはやはり20歳の若者が安心して農業の研修に打ち込むことができる経済的な裏付けです。これまで新規就農を目指す卒業生が挫折した一番の原因は、この経済的基盤が揺らぐことが多かったことにあります。インターネットの情報だけをうのみにし学校の助言はなおざりにして、実際働くと、聞いていたほどの収入はなく喧嘩別れ、挫折のパターンです。今後とも新規就農希望者は増えると思いますが、本人のかたい就農意思は言うに及ばず、紹介する学校側が確かな情報とその受け皿を十分確認するという義務を果たし、同時に本人が自立できるまでのプロセスを確実に保証する責任を持つ覚悟も求められます。

平成27年 3月、かたく手を握り最後の教え子たちを送り出す。
平成27年 3月、かたく手を握り最後の教え子たちを送り出す。
「タキイ園芸専門学校 元校長回顧録」は今回が最終回となります。
長い間ご愛読いただき、ありがとうございました(編集部)。
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