作りやすくおいしい 黄芯品種の礎! 「黄ごころ」シリーズとタキイの黄芯系ハクサイ

2018/07/20掲載

高品質と栽培性を兼ね備えた
黄芯系ハクサイ「黄ごころ」の誕生

日本人の食生活に欠かせない野菜としてハクサイの栽培が増加

日本でのハクサイ栽培の歴史の始まりは明治時代以降。短期間に大きな収量を得ることができ、米食との相性のよさから、その後栽培・消費は急激に増加、1968年には全国で5万800haの栽培面積と186万7000tの生産量で、史上最高の数値となりました。

1950年に発表の世界初のF1ハクサイ長岡交配「一号」。
1950年に発表の世界初のFハクサイ長岡交配「一号」。
1968年のハクサイの栽培面積は5万800ha、生産量は186万7,000tと史上最高となった。圃場の品種は「王将」(撮影:1967年11月、茨城県)
1968年のハクサイの栽培面積は5万800ha、生産量は186万7000tと史上最高となった。圃場の品種は「王将」(撮影:1967年11月、茨城県)

タキイでは1950年に自家不和合性による世界発のF品種「長岡交配一号」を生み出しています。その後、他社でもF化が進み、味のよさを追求して多種多様な品種が生み出されていきます。そのなかで、黄芯系ハクサイ自体は、1960年代に品種としては育成されていましたが、当時のハクサイはカットせず一家に1玉での販売が普通だったので、味はよくても差別化できず、市場には出回っていませんでした。当時の主流は球内色の白いハクサイだったのです。

昭和30年代後半から50代の秋冬ハクサイ市場をリードしたF1ハクサイ「王将」(撮影:1967年11月、東京築地市場)。
昭和30年代後半から50年代の秋冬ハクサイ市場をリードしたFハクサイ「王将」(撮影:1967年11月、東京築地市場)。
昭和40年に発表したF1ハクサイ「耐病六十日」は高原地帯を中心に一気に人気が高まっていった(撮影:1975年9月、長野県小諸市)。
昭和40年に発表したFハクサイ「耐病六十日」は高原地帯を中心に一気に人気が高まっていった(撮影:1975年9月、長野県小諸市)。
春作と秋どりでロングセラーを続けてきた人気のF1ハクサイ「無双」(撮影:1978年5月、和歌山県、暖地の5月どり)。
春作と秋どりでロングセラーを続けてきた人気のFハクサイ「無双」(撮影:1978年5月、和歌山県、暖地の5月どり)。

緑黄色野菜ブームから一躍脚光を浴びた黄芯系ハクサイ

ところが、1980年代後半に起こった緑黄色野菜ブームの影響で、黄芯系ハクサイが一躍注目を集めるようになります。さらに、生活様式や食生活の欧米化によりハクサイの栽培・消費に減少がみられ、これまで1玉だったのが1/2、1/4などのカット販売が普通となり、売り場で見ばえする黄芯系品種がますます好まれるようになります。一方、食卓では漬物の主流が糠漬(ぬかづけ)から浅漬となり、食味のよいことと見た目がよい黄芯であることの両方が求められるようになっていきました。その販売価格は、従来品種に比べて1ケース当たり300円の差がついたこともありました。

左:黄芯系ハクサイ(黄ごころ)、右:普通ハクサイ(王将)。80年代後半より市場からはカット面の美しい黄芯系が求められるように。
左:黄芯系ハクサイ(黄ごころ)、右:普通ハクサイ(王将)。80年代後半より市場からはカット面の美しい黄芯系が求められるように。

主要産地での試作を重ね病害や生理障害に強い黄芯系ハクサイを開発

しかし、当時の黄芯系品種は、根こぶ病、軟腐病などへの耐病性や、芯腐れ、縁腐れ、ゴマ症などに対する耐生理障害の特性が不足していました。特に12月から厳寒期にかけての作型は、作付面積も多いため、産地からはより作りやすく、良品が安定生産できる品種の育成が強く望まれてきました。

このような要望に応えるべくタキイでは、生理障害の発生が少なく、年内〜冬どりまで幅広い適応性をもった中生の黄芯系品種F「黄ごころ」の育成を進めていきます。開発にあたっては、自社農場だけでなく、「T-666」の試行番号で岡山県や愛知県、和歌山県などの主要産地で試作試験を行い、芯腐れ症発生の少ない系統を選抜し育成を進めていきました。

開発にあたっては試作番号「T‐666」として西日本の主要産地でも試作試験が行われた「黄ごころ」。産地の救世主となるべく産み出された(撮影:1996年2月、岡山県)。
開発にあたっては試作番号「T‐666」として西日本の主要産地でも試作試験が行われた「黄ごころ」。産地の救世主となるべく産み出された(撮影:1996年2月、岡山県)。

ある産地では、「T-666」を初めて試作した際、ハクサイの担当ブリーダーが直接圃場へ赴き、球内部の芯腐れ症(アンコ)を、チェックするためハクサイを切って廻るなど、現地に度々訪れて開発に取り組んだというエピソードも残っています。 

栽培のしやすさとおいしさを兼ね備えた黄芯系ハクサイ「黄ごころ」

「黄ごころ」は中間地の年内どり、暖地の冬どり栽培に力を発揮する品種として開発されました。つまり12月〜1月の厳寒期に収穫するハクサイです。その特長を以下にご紹介します。

@生理障害に強く栽培しやすい秋冬どり(中生)種
秋冬どりに用いられる中生品種は、生育期間が長く、気候の変化に大きく影響されるため、石灰欠乏症やゴマ症などの生理障害がもっとも発生しやすくなります。一般にこれまでの黄芯系品種は、生理障害に弱かったのですが、「黄ごころ」は生理障害の発生が少ないうえ、草勢旺盛で根こぶ病などの病害にも強く栽培しやすいことが特長です
A寒さの中でもよく肥大し、播種期の幅が広い
低温期でもよく肥大し耐寒性にもすぐれるため、一般平暖地の8月下旬〜9月中旬まき→年内〜冬どり栽培までと幅広い適応性をもっています。直売所出荷や家庭菜園でも使いやすい理由です。 
富士山と「黄ごころ」(現85)(撮影:2000年2月、静岡県)。
富士山と「黄ごころ」(現 黄ごころ85)(撮影:2000年2月、静岡県)。
B作業がやりやすい省力品種で収量も上がる
「黄ごころ」は外葉が丈夫で草姿が立性なので、追肥・薬散・結束などの管理作業が容易です。また、球姿は尻張り・胴張りのよい濃緑の円筒形で、球の形状、球そろいが抜群によく、秀品率が高いという特長をもちます。
C球内鮮黄色で、品質が極めて良好
ハクサイをカットしたときの球断面の、黄・緑・白色の色調バランスがよく、特に結球内部は鮮やかな黄色みの黄芯ハクサイです。しかも、葉がやわらかで歯切れがよく、甘みもあり、漬物用として味がよいので市場でも高い評価を受けました。この品質の高さが「黄ごころ」シリーズヒットの理由です。

当時の産地の声をご紹介します。

生産農家からは「黄ごころは、アンコ(芯腐れ症)になりにくく、作りやすい。非常に玉ぞろいがよく、尻も柔らかいので収穫時にカマが入れやすいと栽培性・作業性ともに高評価。品質においても、非常にボリューム感があり、球内色も非常に鮮やかな黄芯で、黄・緑・白色のバランスもよく葉が柔らかく食味もよい」との声です』市場からは『漬物屋さんの反応を聞くため、「浅漬研究会」にサンプルを送付。評価は「非常にやわらかいし、黄色も鮮やかだ」とよい結果でした。市場への試験出荷でもボリュームがあり、品質はよいと評判上々でした』

(JAわかやま 営農指導部 吉村浩典さん『園芸新知識・野菜号』1996年6月号より)

和歌山県JAわかやま(撮影:1996年、2月)。

『大阪市場を中心に販売した結果、ほかの黄芯ハクサイより200円、一般ハクサイより400円高い値で常時販売できました。カット面のすばらしさ「緑と白と黄のバランスのよさ」と漬物にした場合の漬けやすさ、漬け上がりのよさが高い評価を受け、一度出荷した市場からはすべて連日出荷の要請がありました』

(岡山県JA牛窓町 出射 茂さん『園芸新知識・野菜号』1996年6月号より)

岡山県JA牛窓町(撮影:1996年2月)。

生理障害の発生が少なく栽培容易で、低温肥大性にすぐれ、色鮮やかで品質は極めて良好。播種期の幅も広い中生種で、作業性と収量性を兼ね備えた省力品種となり、特にこれまで、生理障害、中でも芯腐れ症(アンコ)に悩まされてきた西日本の産地で導入されました。

産地では“救世主“のように受け入れられ、「黄ごころでアンコ(芯腐れ症)が出るような畑ではハクサイは作れない」とまで言われたほどでした。

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