Web連載

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2021/7/20掲載

マンガ de わかる これからの農業 スマート農業基本のキ 第4話 環境制御機器と養液栽培

ロボット技術やICTを活用して省力・高品質化などを実現する新たな農業「スマート農業」。
名前は聞いたことがあるけど、どんなものか分からない…。そんな農家の方々に向けて、
マンガで分かりやすく「スマート農業」をお伝えする連載企画です。

登場人物
  • 父:里山 匠(63歳)

    父:里山 匠(63歳)
    就農30年のベテラン農家。ハウストマトと稲作を営む。トマト栽培の高い技術をもつ。本心は農学部を出た次男未来に農業を継いでほしいと思っている。

  • 母:里山 菜々美(57歳)

    母:里山 菜々美(57歳)
    匠と結婚して30年。実家は農家ではなかったが、匠と二人三脚で頑張ってきた。息子たちには好きな仕事をさせてもいいと思っている。

  • 息子:里山 未来(26歳)

    息子:里山 未来(26歳)
    里山家の次男。大学の農学部を卒業したが現在は都内のIT関連企業に勤めている。いずれは就農に興味をもっているが、やるならば新しい農業にチャレンジしたいと思っている。

  • 指導員:橋本 哲弥

    指導員:橋本 哲弥
    農業家族にいろいろな知識を教え、農業の楽しさを広めている。

前回までのあらすじ

スマート農業について勉強し、晴れて農業の道に進むことになった未来。父と母とともに、里山農園のスマート化を目指します。ところが山中農園訪問後、職場の人事異動で指導員の橋本さんが里山家の担当から外れてしまうことに…。数年の月日が流れ、里山家のようすが気になった橋本さんは、久しぶりに里山農園を訪問することに決めました。

前回までのお話はこちら

  • 第1回 IoTとは
  • 第2回 IoTの導入事例
  • 第3回 事務作業もスマート化の時代

環境制御機器ってナニ?

園芸施設内の環境データ(光、温湿度、CO2濃度など)をより細かく管理できるようにする機器のことです。従来のハウスの開閉や遮光は、圃場を訪れて温湿度計などを確認し、人の手で行う必要がありました。今ではインターネットにつながった各機器に環境データを収集させて、パソコンやネット上にある環境制御システムから簡単に確認・操作ができます。近年では同システムの進化にともない、人の手を介さない自動制御も可能になっています。

環境制御機器の機能 ①温室・圃場の環境観察

圃場各所にセンサーを設置することで、環境データを数分ごとに計測し、自動的に記録を取ってくれます。さらに数値化・グラフ化された状態で、パソコンやスマートフォンからいつでも閲覧できます。詳細な数値やその変化がわかり、細やかな管理ができます。カメラ機能を装備している機器であれば、目視で施設内の確認も可能です。

環境制御機器の機能 1 温室・圃場の環境観察

環境制御機器の機能 ②異常の検知や通報

センサーが計測する温湿度などに異常があった場合、スマートフォンなどの情報端末に警報を通知します。事前に「◯℃以上(以下)になったら通知」と設定しておくだけでOK。天候の急変やハウスの開閉忘れなど施設内の異常にすぐ対応できます。数分ごとにデータを収集しているため、通知はほぼリアルタイムです。

環境制御機器の機能 2 異常の検知や通報

環境制御機器の機能 ③水と肥料の効率的利用

細かな数値の把握により、農作物が水と肥料を効率的に吸収できる環境を作り出せます。例えば湿度の変化が時系列でわかれば、ハウスを開閉して湿度を下げるベストタイミングが掴め、根からの養水分の吸収効率を上げられます。植物の生態に合った条件を設定し、品質の向上と収量アップを可能にします。

環境制御機器の機能 4 水と肥料の効率的利用

養液栽培ってナニ?

肥料を水に溶かした培養液で農作物を育てる栽培法です。一般の栽培法(土耕)と異なり、土を使用しないのが最大の特徴です。土の代わりに人工培地を用いる「固形培地耕」と、培地もまったく用いない「水耕」に分けられます。人の手で農作物の栽培環境を大幅に制御できる一方で、人工培土や専用の設備などの初期投資や電気代・液肥代などの維持費用がかかるほか、機械トラブルが全体の生育に悪影響を及ぼす側面もあります。

養液栽培にはこれからの農業を助けてくれる
メリットがたくさん!

コスト面に目が行きがちですが、養液栽培にはすぐれた点が多く、先述した環境制御と相性がよいです。養液栽培は土耕と異なり、自然と切り離された環境で栽培を行うため、養水分などの自然の恩恵を人為的に供給しなければいけません。環境制御装置があれば、施設内の環境データに応じて細やかな管理ができ、生産性の高い栽培が実現可能です。以下では、養液栽培のさまざまなメリットをご紹介します。

①品質の均一化

土壌では、同一圃場内でも物理性(保水性・排水性)や化学性(pH・EC)にむらが生じます。養液栽培では、ロックウールなどの人工培地やココピートなどの有機質培地を用いるほか、水耕であれば培地すら不要なので、根に均一な物理環境を与えることができます。養液の供給も均質に行われるため、同一圃場内で顕著な生育差が現れません。

品質の均一化

②見える化・マニュアル化しやすい

養液栽培では潅水量と廃液量が算出でき、培地のpH・EC・水分率などを計測できるので、潅水と施肥の量がデータとして「見える化」され、明確に分かります。この数値を参考にして、農作物の生育に応じて必要な時期に必要な分の養水分を与えられます。さらに、年ごとのデータが蓄積されれば、潅水・施肥量のマニュアル化も容易に行えます。

見える化・マニュアル化しやすい

③土壌病害を回避できる

土を使用しないため、土壌病害虫由来の被害を回避することができます。連作障害も起きないので土壌消毒の手間もかかりません。培土への施肥や土壌消毒が不要なので、地面への防草シートの常時敷設も可能です。掃除がしやすく衛生面にすぐれ、作業台車やレールなども導入しやすくなり、作業性向上につながります。

土壌病害を回避できる

監修:橋本 哲弥さん
農家、農業・園芸分野のライター。東京農業大学、茨城大学卒業後、園芸店勤務を経て農家に。農業の傍ら農業・園芸関連の実用書などで執筆活動を行う。