2020/02/20掲載
従来、日本では粘質の日本種カボチャの栽培が主流でしたが、1960年代に入り、甘みが強くホクホクした西洋種カボチャの食味が好まれるようになり、徐々に普及、消費量も増加しました。
当時のカボチャの消費は1〜4月は料理業務用としての扱いが主で少ないのですが、初夏の5月以後は古くからの大衆的嗜好に支えられてその需要は根強いものがありました。夏場の最盛期には特に、緑黄色野菜(当時は有色栄養野菜)として学校、会社などの給食用に消費が極めて多くなっていました。
世間では斜陽作物などといわれながらも作付けは着実に伸び、なかでも1〜5月の生産増加は著しいものがありました。当時の市場統計(第1表)からもそれがよくわかります。
従来、この早春出荷は暖地栽培での日本種に限られていましたが、当時中間地での洋種カボチャのトンネル栽培5月出しが増加し、今後もますます伸びる勢いでした。
第1表 カボチャの入荷と単価の動き
月 別 |
入荷量(t) | 単価(円) | |||
---|---|---|---|---|---|
昭和32年 | 38年 | 増加比% | 32年 | 38年 | |
1 | 10 | 45 | 413 | 32 | 93 |
2 | 7 | 37 | 507 | 92 | 94 |
3 | 10 | 38 | 373 | 157 | 194 |
4 | 33 | 129 | 391 | 128 | 156 |
5 | 235 | 911 | 388 | 72 | 90 |
6 | 2398 | 2423 | 101 | 20 | 38 |
7 | 1511 | 1674 | 111 | 17 | 22 |
8 | 949 | 1419 | 149 | 14 | 20 |
9 | 400 | 890 | 222 | 14 | 16 |
10 | 82 | 141 | 171 | 13 | 18 |
11 | 20 | 130 | 650 | 38 | 49 |
12 | 31 |
85 | 268 | 32 | 70 |
1 ↓ 12 |
5691 | 7922 | 139 | 21 | 43 |
洋種の早出し用品種は、一部に「打木赤栗」もありましたが、主流は「芳香青皮南瓜」(以下「芳香」)のみでした。
しかし「芳香」は元々、早出し用品種ではないので、低温化のつる伸びが不十分で早期着果数が少なく、ごく早く低節位に着果した果実に歪みが多いなど大きな欠点がありました。
産地では、着果が安定する早生の西洋種が望まれていたのです。
タキイでは新しい作型への適応性や収量性の向上のために現状を打破すべく、F1化に取り組みました。全国に数多く存在する在来西洋種を収集し、優良な組み合わせを見つけ出していったのです。その結果、1962年に早出しにも十分適応する洋種カボチャの優良交配種の育成に成功します。以来3年間にわたり試作した結果、「芳香」より遥かに優秀な早生経済品種として、1964年(昭和39年)に発表されたのが現在のタキイ交配(当時は長岡交配)「えびす」です。
発表された年に関東地方で行われた早熟栽培での試作結果は良好で、次年には本格導入の運びとなるなど栽培性の高さで注目を浴びました。
食味がよく外観が新鮮なこと。「えびす」は肉質がやや粘質でとてもおいしい品種です。肉色は濃い黄色で、厚みはかなり厚い方になります。1果平均重は「芳香」より100〜200g重いですが(第2表)、肉が厚いので、小さく見えます。果形は「芳香」に比べてやや撫で肩でやさしい姿です。果皮の色形は、黒味を帯びた新鮮な濃緑色の地色に美しい淡緑のちらし斑を現し、一目で他品種と区別できます。これは後に、普及上大きな利点となりました。いかによい品質のものでも、外見上の区別があいまいな品種では他品種と差別化ができません。特徴的な外観をもった「えびす」は産地でもアピールがしやすかったのです。
第2表 収穫果の果重別割合
果重(g) | えびす(%) | 芳香(%) |
---|---|---|
550〜650 | 14 | |
650〜750 | 6 | 14 |
750〜850 | 6 | 7 |
850〜950 | 7 | |
950〜1050 | ||
1050〜1150 | 16 | 14 |
1150〜1250 | 22 | 14 |
1250〜1350 | 28 | 7 |
1350〜1450 | 11 | |
1450〜1550 | 6 | 14 |
1550〜1650 | 6 | 7 |
第二に強勢・多花で作りやすいことがあげられます。低温下でもつる伸びがすばらしくよく、一番花の開花は3日くらい早くなります。さらに早植えできます。雌花間節数は育苗条件にもよりますが、およそ4〜6節で従来種である「芳香」の7〜8節に対して明らかに多花性です。
親づる摘芯の普通栽培で、各子づるの1番果がよく太りよく育ちます。「芳香」の場合、親づるは10節、子づるは5節以内に着果しても太りが悪く、かつ歪形になる傾向があります。「えびす」は強勢であるから、このような低節位の1番果でも全部800gの立派な果実に太りきることができたのです。
開花が早く、一番花果実から良果が期待できるので収穫始めが「芳香」より少なくとも5日は早く、しかも初期収量が多くなります(第3表)。
第3表 初期収穫の比較
年度 | 昭和37年 | 昭和38年 | 昭和39年 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
品種名 | えびす | 芳香 | えびす | 芳香 | えびす | 芳香 | |
株当たり収穫果数(果) | 2,200 | 2,110 | 1,300 | 1,280 | 2,250 | 2,000 | |
株当たり収穫果重(g) | 3,158 | 2,636 | 1,456 | 962 | 2,598 | 1,417 | |
1果平均重 | 1,435 | 1,248 | 1,120 | 752 | 1,155 | 908 | |
同上比較 (芳香=100) |
果数 | 104 | 100 | 101 | 100 | 112 | 100 |
果重 | 119 | 100 | 151 | 100 | 183 | 100 | |
収穫調査 | 6月22日まで | 6月22日まで | 6月15日まで | ||||
播種 | 3月1日 | 3月1日 | 2月25日 | ||||
定植 | 4月13日 | 4月13日 | 4月11日 | ||||
10a当たり株数 | 450株 | 450株 | 450株 | ||||
仕立方 |
親づる1+子づる2 | 親づる1+子づる2 | 親づる0+子づる3 |
新発表当時以降の市場や産地の声をご紹介します。
「えびす」は、「芳香」より若干粘質で、特に果皮までやわらかく食べられ、ホクホクとした食感の「芳香」と比べると煮物やお菓子にも向いています。昭和41年の一般市販の初年度は市場人気も極めて高く、市況も常に「芳香」をはるかに抜いて販売され、消費者の好評をえて42年度は栽培が一挙に増大しました。市場人気を集めている「えびす」を、市場人の側から双手をあげて推奨し「えびす作り」を喚起する次第です。
東京千住青果株式会社 山田耕次郎さん
(昭和43年『園芸新知識』11月号より抜粋)
「えびす」は、粗放向き品種として誰でも容易に手掛けられるので、早出しの穴をねらうには「えびす」となるでしょう。「えびす」はなんといってもうまい。そして外観は濃緑地に美しい緑のちらし斑があり、一度味をしめれば、この特色ある外観から即座に「えびす」を買おうということになります。新品種「えびす」は見事に市場で認識されて「芳香」以上の高値で扱われ、収量の多いことと相まって成功を収めたようです。
(「関西のえびす南瓜特産地三木を訪ねて」
昭和40年「園芸新知識」12月号より抜粋)
「えびす」はその気候適応性の広さから栽培が倍加しています。しかも 味のりが早く、品質のよいものが多収でき、 県外の大都市中央市場でも好評で有利販売されています。
また、多収性で、直まきの粗植栽培でも10a当たり1.5tの収量は確保できます。
青森県専門技術員 佐藤忠弘さん
(昭和49年 『園芸新知識』4月号より抜粋)
発売当初、これまでにない濃緑色の皮のためか敬遠されがちでしたが、従来品種よりも食味にすぐれ、うまみ成分のグルタミン酸を多く含み、煮物にぴったりとの人気を得ていきました。産地においても、高い環境適応性と肥大力、多収性を併せもつ「えびす」は、高収益の早出しの作型で好評を獲得し、やがて作型を問わず全国に広がっていったのです。
2024年
秋種特集号 vol.58
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春種特集号 vol.57