2018/02/20掲載
こうして形質のよさと栽培性の高さから、関西近郊の市場を中心に高い評価を受け全国の産地へと広がった「千両」。発売以来、関西および中京市場では、少なくとも全入荷量の8割を占め、関東にもその多収性と良質性が認められて、集団産地が増加しつつありました。
しかし「千両」といえども万能なわけではありませんでした。特にスタミナ不足からくる収穫中期に入っての成り休みが問題であり、タキイではこの点を特に留意し、夏季に成り休みしない「千両」よりも強い草勢をもつ品種を目指して改良を進めました。これが1964年(昭和39年)に発売された「千両二号」です。
「千両二号」の育成にあたって、特に考慮した点は八頭身美人のナスを作り上げることでした。つまり、栽培面からは早生・多収・耐病性(特に萎凋(いちょう)病)・高温・乾燥などに強いこと(夏ボケと成り休みの少ないこと)を目標としました。流通と消費面からは首がつまった長卵形(荷詰めが楽で荷傷みが少ない)、ヘタ被りが深く美しいこと、皮がやわらかくツヤに富み、黒紫色で、夏季にも色あせと電球ナス(電球のように、首が細く尻だけが太い果実)になりにくいこと、などが育成の狙いでした(第4図)。
(第4図)
ナス「千両」と「千両二号」の特性比較
これらの目標はほぼ完全に満たされ、市場に現れた荷姿は抜群の美しさを誇り、人気は年とともに高まりました。ナスの出荷規格は4〜5段階に分けられますが、収穫を毎日する場合の上物収穫率はきわめて高く、楽々と90%を超える成果をあげ、産地からは、栽培性について高い評価を受けています。
『(千両二号は)果形は長卵形で首細とならないため、市場の人気も非常によい。初期収量はもちろん、盛夏の八月でも休むことを知らずになりつづける。付近の圃場の他品種に比較しても段ちがいの成績を示している。本年は苦土欠乏症が多かったが、この「千両二号」だけは強い草勢からか、わずかに認められる程度であった』
茨城県堺地区農業普及所 技師 張替誠一郎さん 『園芸新知識』1964年10月号より抜粋
「千両」よりも草勢が強くてスタミナにすぐれた「千両二号」の登場により、小型トンネルに始まる長期栽培は「千両二号」、ハウスや大型トンネル向き促成栽培としては「千両」と栽培上の使い分けが可能となり、それぞれの特徴を生かしながら、長卵形を好む地帯に普及し、関西・中部・関東・北陸・東北・北海道の産地において中心を占めるようになりました。
〜全国の産地に広まる「千両二号」〜
こうして生み出された「千両」シリーズは、生産者からは「秀品率が高くてたくさんとれる」、流通からは「商品性が高くてよく売れる」、消費者からは「調理幅が広く、何にでも使えておいしい」と、50年以上経た今でも生産、流通、消費の場から大きな支持を得ています。
『京田辺市でのナス栽培は、昭和34年より開始。昭和44年より品種を現在の「千両二号」に統一しました。「千両二号」は当時も今もF1として画期的な高品質を有しており、果皮はやわらかくて市場性にすぐれていること、また、果色は濃黒紫色でツヤが特によく、果そろいもよいということで選ばれ、現在に至っています』
京都府 JAやましろ田辺総合支店 西村和男さん 『園芸新知識 野菜号』1999年1月号
「千両二号ナス発売35周年特集記事」より抜粋
『甲府盆地でのナス栽培の歴史はふるく、一説には大正初期からともいわれている。品種は、秀品率が高いと評判の「千両二号」を発表当初より導入し、比較試験を行った結果、生育旺盛で果実の色つや、形状、果ぞろいともによく品質良好で、しかも土壌病害にも比較的強く、高い生産性を維持できると好評価を得た』
JA甲府市経済部営農生活課 課長 長沼和之さん 『園芸新知識 野菜号』1999年1月号
「千両二号ナス発売35周年特集記事」より抜粋
このように発売当初より「千両二号」を使い続けておられる産地も多数あり、今でも夏秋ナスの市場に流通する主力品種として活躍しています。
2024年
秋種特集号 vol.58
2024年
春種特集号 vol.57