第1回

2016/02/22掲載

3.農場生活と生徒との関係

生徒の指導は研究職の場員が行うわけですが、新入社員であっても建前上それは同じです。しかしこのころは、生徒が社員を「先生」と呼ぶ習慣はまだなく、新社員と専攻生は常に実習で競いあうライバル関係でありました。「如何に早く正確に実習を仕上げるか」が重要で、競い合う内にこちらも技術が身についてきます。
私たち新社員6名は当時の専攻生に鍛えてもらったといってもいいぐらいです。

前列一番右が入社2年目の筆者

こうして競い合った専攻生たちですが、彼らは厳しいだけではありません。本科生が高熱を出せば、一晩中寝ずに濡れタオルを変えて付きっきりで看病するなど、いざというときは頼りになる存在でした。当時タキイ園芸専門学校に入学してくる生徒たちは、バンカラでヤンチャたちが多く、元来気のいい奴らでした。そんな彼らが自分に自信を持つに従って、益々仲間思いで面倒見のいい先輩になってくるから不思議です。

ところで新社員の私は、植物病理専攻でしたから自家不和合性、雄性不稔、兎長春のトライアングルなどを治田場長の夜間講義で教わり、農場図書で必死に育種の基礎知識を勉強しました。 春季の交配、初夏の種子とり、盛夏の整地、初秋の定植、冬の選抜・母本鉢上げの繰り返しが育種の基本で、学べば学ぶほど自分の浅学を痛感しました。実習では必ず先輩社員が来て、短い言葉で指示して行きます。作業中の無駄口はまったくありません。指示と言っても「どや!(訳:上手くはかどっているか)」、「あほ!(進捗状況が遅い)」、「急げ!(時間内に仕上げろ)」くらいのことです。そこで細かい指示を仰いでも「10年早い!(理屈は後で!言われたとおり早くやれ)」の一言で終わりです。全ての圃場作業はこの3ワードで完了です。「シンプルイズベスト」と身をもって体得させられました。

私の場合、身体だけは元気で生徒と張り合えましたが、栽培は全くの素人でよく生徒を指導出来たものだと思います。当時はまさか自分がこの学校の校長を務めることになるなどと夢にも思いませんでした。新人時代を改めて思い出しても、生徒の皆さんが我慢してよくついてきてくれたと心から感謝しています。

回顧録TOPへ戻る