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2010.03.31
タキイ種苗×農研機構東北農業研究センター 共同研究
オレンジハクサイ 『オレンジクイン』球内色部に抗酸化物質「シスリコペン」含有を解明
オレンジハクサイの色素組成と抗酸化物質の含有に関する共同研究で、トマト・スイカに含まれる抗酸化成分「リコペン」の一種で体内吸収性が高い「シスリコペン」含有を解明

タキイ種苗は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下:農研機構) 東北農業研究センターと共同研究で、オレンジ色のハクサイ『オレンジクイン』内にトマトやスイカなどに含まれる抗酸化成分である「リコペン」の一種で体内への吸収がよいとされる「シスリコペン」が含有されていることを解明しました。

通常のハクサイはβカロテンを主要色素とするのに対し、オレンジハクサイの『オレンジクイン』はβカロテンに加え、「シスリコペン」を含むこと、そして通常ハクサイと比較して「カロテノイド」や「ポリフェノール量」も多いことが明らかになりました。
タキイ種苗では、本研究の成果を受け、『オレンジクイン』の栽培普及とともに、料理や利用方法の開発、さらなる新品種の育成に向けて研究開発を今後も進めていきます。

なお、本研究内容は園芸学会平成22年度春季大会(2010年3月21日〜22日/於:日本大学)において発表いたしました。

「シスリコペン」の含有が解明された、
タキイ種苗のオレンジハクサイ『オレンジクイン』
オレンジクイン オレンジクイン
◆研究の背景
1990年より発売開始した『オレンジクイン』は、当時のバイオテクノロジー技術と育種技術の融合で生み出された画期的なハクサイ品種として、漬物や煮物などで料理を引き立て食欲を 促進するだけでなく、ハクサイ特有の青臭さを減少し、甘みが強く歯切れがいいことで、生食サラダとしても多く利用されてきました。
『オレンジクイン』を開発したタキイ種苗研究農場では、社会や家庭における健康への関心の 高まりとともに、野菜が持つ健康機能性の研究を進めてきました。その中で、『オレンジクイン』が他のハクサイ品種と色合いが異なることから、色素組成そのものが異なることが推定されました。
そこで今回、食品の成分研究では最先端分析技術を持つ農研機構の東北農業研究センター・渡辺上席研究員との共同研究により、『オレンジクイン』および通常ハクサイに含まれるカロテノイドなどの色素組成の差異を明らかにし、色素抽出物の抗酸化性を調査しました。
◆研究概要
(1) オレンジハクサイ『オレンジクイン』×通常ハクサイカロテノイド色素組成を分析
オレンジハクサイ『オレンジクイン』と通常ハクサイのカロテノイド色素の凍結乾燥物を粉砕し、カロテノイドはジクロロメタン+メタノール溶液などで抽出後、常法に従いケン化処理などを実施し、カロテノイド色素混合物を調製。カロテノイド色素はダイオードアレイ検出器を接続したHPLC、およびLC-MS(APCI、ポジティブイオンモード)分析により同定しました。
   
(2) オレンジハクサイ『オレンジクイン』×通常ハクサイポリフェノール含有量を調査
ポリフェノールはメタノールで抽出し、総ポリフェノール量をFolin-Denis法で測定しました。
   
(3) オレンジハクサイ『オレンジクイン』×通常ハクサイ抗酸化性の調査
カロテノイド抽出物の抗酸化性はABTS(2.2'-アジノービス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)ニアンモニウム)ラジカル消去活性、ポリフェノール溶液の抗酸化性はWST法によりSOD(Super-Oxide Dismutase)様活性を測定しました。
◆研究結果
通常のハクサイはβ(ベータ)カロテンを主要色素とするのに対し、オレンジハクサイ『オレンジクイン』はβ(ベータ)カロテンに加え、「シスリコペン」及び「フィトエン」を含むことが明らかになりました。また、『オレンジクイン』は通常のハクサイと比較してカロテノイド含有量が多く、抽出物のラジカル消去活性も高いことを確認しました。さらに総ポリフェノール量も通常ハクサイと比較して『オレンジクイン』は 高含量であり、SOD様活性も高いことがわかりました。
 
○オレンジハクサイと通常ハクサイの比較データ

 
○ハクサイ カロテノイドのHPLCクロマトグラム
ハクサイ カロテノイドのHPLCクロマトグラム
 
○オレンジハクサイ『オレンジクイン』 カロテノイドのHPLCクロマトグラム
オレンジハクサイ『オレンジクイン』 カロテノイドのHPLCクロマトグラム
 
○オレンジハクサイ『オレンジクイン』と通常ハクサイの含有栄養素比較
オレンジハクサイ『オレンジクイン』と通常ハクサイの含有栄養素比較
◆共同研究者:独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構・東北農業研究センター
岩手県盛岡市下厨川にある東北農業研究センターは、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構に所属する研究機関であり、農産物の生体調節機能(機能性)解明に関する共同研究の実施施設(オープンラボ)である機能性評価実験棟が設置されています。本施設には農畜産物の生体調節機能成分及び品質関連成分の解明、これら物質の体内での動態を解析するための高分解能液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS/MS)、および小動物を用いた機能性解明研究のための飼育装置等設備が設置されています。
◆用語解説
シスリコペン(通称としてリコピンともいう):
トマト、スイカなどに含まれる赤い色素であるリコペンには、構造が異なる2つのタイプがあります。1つはオールトランス型(体)、もう1つはシス型(体)です。桃〜赤系のトマトに含まれるリコペンのほとんどは、オールトランス型(体)です。シス型(体)のリコペンは橙黄色を示し、オールトランス型(体)のリコペンよりも体内への吸収が良いという報告があります。なお、シスリコペンは2008年に発売を開始した橙黄色のトマト品種「桃太郎ゴールド」に含まれていることもすでに明らかになっています。

β(ベータ)カロテン:
植物に豊富に存在する橙色色素の一つで、ニンジン、カボチャなどに多く含まれる成分です。動物に吸収されるとビタミンAとなります。

カロテノイド:
天然に存在する赤、黄、橙などの色素類。カロテノイドの中にはβ(ベータ)カロテン、リコペン、キサントフィルなどの化合物が存在します。近年、抗酸化作用が注目されています。

フィトエン:
フィトエンは、植物・細菌などの生体内で合成される最初のカロテノイドです。フィトエンから複数の中間体を経てリコペン、β(ベータ)カロテンなどが合成されます。フィトエンには細胞の脂質過酸化抑制作用があることが報告されています。

ポリフェノール:
ポリフェノールとは、フェノールを多く(ポリ)持つという植物成分の総称。フラボノイドが代表的な化合物であり、そのフラボノイドの中にカテキン、アントシアニン、ルチンなどが含まれる。一般的に抗酸化性を持つとされており、ヒトの健康への寄与が期待されています。

ラジカル消去能:
ストレス、運動等により生体内で生成される活性酸素やフリーラジカルは、細胞や遺伝子を傷つけ、がん・生活習慣病・老化の原因となるとされています。このようなフリーラジカルを消去する能力をラジカル消去能といいます。野菜などに含まれるポリフェノールの中にはラジカル消去能の高い成分があります。

SOD様活性:
フリーラジカルは細胞に損傷を与えるため、それを防ぐために各組織には抗酸化酵素と呼ばれる、活性酸素・フリーラジカルを消去あるいは除去する酵素が存在します。その中でSODはスーパーオキシドラジカルを過酸化水素(H2O2)と酸素(O2)へ分解する酵素である。SODと同様の活性をSOD様活性としています。