第4回

2017/07/20掲載

4.ミスを糧に観察力を養う

さて、4月の実習風景も紹介しましょう。

入学式以降、本科生たちは寮に帰ってもずっと気の抜けない緊張の日々が続きます。その上慣れない実習が待ち構えます。実習では先ず、広い圃場の位置関係を覚えることから始まります。タキイ園芸専門学校が併設されているタキイ研究農場は、滋賀県湖南市の地に1968年開設した民間の種苗会社が品種育成を目的に展開する研究施設です。場内の圃場30haでは葉根菜の野菜類や花卉の新品種を育成研究がなされています。生徒たちはそうした品種育成の現場である露地やハウス施設で栽培管理技術を実習し学びます。

朝礼、点呼、ラジオ体操終了後、実習予定表に従い当日の配属グループで場員や専攻生から実習内容の説明を聞き、専攻生・若手場員の先導で実習現場まで駆け足で移動です。その日に自分たちが実習に当たる品目と圃場はどこかを把握するのも覚えるまで大変です。なにせ東京ドーム14個分にあたる広さですから、圃場から圃場への移動もゆっくり歩いていては日が暮れてしまいます。長靴を履いての駆け足は慣れない本科生にとって一苦労です。現場到着後、場員から改めて実習内容とその具体的な方法の説明を受け実習開始となります。

班ごとに場員からその日の作業説明を受ける生徒たち
受け持ちの現場まで場内の移動は駆け足が基本

当初は説明された農業用語も十分理解出来ず、専攻生や他の本科生の様子を伺いながらの実習作業です。このため、4月は30分講義でまず農業用語の修得に当てられます。実習は研究農場の育種素材を扱うのでミス・間違いは許されません。勢い社員、専攻生は普段と違ってナーバスな状況となります。ミスは隠されるのが一番困るので、社員からはやさしくミスしたら正直に申告するようにと伝えます。そうすると不注意による失敗も正直に堂々と申告してきてきますから、こうした正直者たちがボロクソに大目玉を食らうのもこの時期です。研究農場では一般農家の営利栽培と異なり、一株一株が長い時間をかけた代わりの効かない貴重な育種素材です。特に交配した大切な果実や枝、莢などは扱いに細心の注意が必要なのです。こうして最初に大目玉を食らわす?ことで、以後、緊張感をもって植物を注意深く観察してくれますから、植物へ接する姿勢と観る目が自然と養われていきます。

実習は実習班(班長+班員4名)を単位として12班による週間予定が組まれ、周年を通して果菜、葉菜、根菜、花卉の基本を習得出来るようにプログラムされています。実習に当たっては、班員同士がお互いライバル意識持ち、如何にミスを無くして早く実習を仕上げるか競争です。さらに目標とする専攻生を定め、少しでもそれに近づける努力を継続することが、就農後収益を上げるうえで大切だと常に伝えていました。面白いことに一月もすると各班に特徴が生じます。一言でいうと「とろい班」と「出来る班」に分かれてきます。私が現場のブリーダー時代、前日夕方に翌日の作業予定を立てるのですが、必ず専攻生に受け持ちの班を確認させ、「とろい班」が当たっていると、心配な生徒には必ず専攻生とペアを組ませリスク軽減を図るのが常でした。

春は採種の真只中、支柱の孟宗竹を打ち込む実習中に手が滑り、掛けや(支柱を打ち込む大きなハンマー)で頭を叩かれ大きなたんこぶを作る者(現在はヘルメット装着が義務となっています)、タマネギ倉庫に吊っておいた赤タマネギがたまたま地面に転がっているのを見て、「タマネギが熟して落ちています」と真剣な表情で報告に来る生徒など、入学直後の本科生あるあるエピソードは枚挙に暇がありません。そうした失敗を積み重ねながら身体で体験し、実物をしっかり「観て」生徒は日々成長を続けます。

圃場で農場技師から聞く実習の解説は実戦ですぐに役立つ知識
種苗会社の育種素材を社員と同じ緊張感で扱うことで、プロとしての技術と見る目が養われていく
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