社会への貢献

医・食・農一体の取り組み
〜京都大原記念病院との連携が生んだグリーン・ファーム・リハビリデーション®〜

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第3章 グリーンファームリハビリテーションの実際(食事編)

医・食・農一体の取り組み

京都大原記念病院グループさんはリハビリテーションを担う京都大原記念病院さんを中核に、特別養護老人ホーム、ケアハウスなど6施設800床を展開し、在宅サービスも含めると1日平均2,700食の提供をされています。これら施設において提供される3度の食事は、リハビリテーションの向上や健康維持の基本です。特に京都大原記念病院グループさんの理念として、地元大原の特産食材を生かした「地産地消」の取り組みをかねてから進めておられました。

地元特産の赤シソジュース。
↑地元特産の赤シソジュース。
食材を仕入れる地元生産者山本有機農園の山本克也さんの圃場で説明を聞く病院関係者。
↑食材を仕入れる地元生産者山本有機農園の山本克也さんの圃場で説明を聞く病院関係者。

例えば赤シソは地場品種として維持されているものですが、京都盆地の北部山あいの昼夜の大きな寒暖差と相まって濃厚な風味と高い香りを備えた地元の名産となっています。こうした大原の野菜を平成22年からグループ内の有料老人ホームで月1回提供されていました。地元の新鮮でおいしい、安心安全な食材を提供したい、しかし1日平均2,700食をまかなうためにはそれなりの量が必要です。リハビリテーションメニューに生かすためには手に入る食材の内容が安定していないと難しいこともあります。そこで地元の農家さんから仕入れる以外にも、折角の農園用地があるのですから自分たちでも栽培してみようという機運が平成22年ごろから盛り上がっていったのです。

残食率を減らすために

地産地消にこだわり新鮮でおいしい食材を提供するのは大きな理由がありました。それは残食率の減少です。タキイ種苗ではリハビリテーションによる回復途中、あるいは高齢で噛む力や飲み込む力が弱っている方など、量を食べられない方が少量でも機能性成分を多くとれる「ファイトリッチ」シリーズの野菜はうってつけと考え、グループの栄養管理士の方々に提案いたしました。
病院側でも一日最大3時間リハビリテーションをうけられる患者様はその活動量に応じた食事を食べ、体を動かし筋肉をつけていかれますが、リハビリテーション効果を最大限あげていくためにも食事は欠かせない要素です。リハビリテーション以外にもグループ内で食事を提供される利用者は20〜90歳代と幅広く、体調や噛む力、飲み込む力など個人にあったメニューが提案され食事が提供されます。そこで問題となっていたのが提供される食事の残食問題です。管理栄養士が必要な栄養分を計算し、摂取できる食事を提供しても、完食いただかないことには役割は果たせません。回復スケジュールが停滞してしまいかねないのです。そこで食欲のわくおいしそうな食事のために、お皿の配色を考えたり、地元のおいしい食材を取り入れたりする延長に、野菜の色素に含まれた機能性成分に着目した「ファイトリッチ」シリーズとの出会いが、メニューの彩りを格段に変化させ、残食率が大幅に改善されていきました。例えば、苦みがなくカロテン豊富な「こどもピーマン」は、これまで普通ピーマンが不人気でメニューのアレンジを試行錯誤してきましたが「全く苦みがない」「やわらかくておいしい」と一転大好評で残さず食べる方が増えました。

2016年8月16日のグループ内「ケアハウスやまびこ」で提供された「五山の送り火膳」。自家農園でとれたファイトリッチシリーズのミニトマト「千果」「オレンジ千果」、「こどもピーマン」の炒り煮が彩りを添えている。
↑2016年8月16日のグループ内「ケアハウスやまびこ」で提供された「五山の送り火膳」。自家農園でとれたファイトリッチシリーズのミニトマト「千果」「オレンジ千果」、「こどもピーマン」の炒り煮が彩りを添えている。
食事の前に管理栄養士さんからメニューの説明がされる。食事の合間には管理栄養士さんへ感想を伝えたり食材への質問する方々もいて楽しそう。
↑食事の前に管理栄養士さんからメニューの説明がされる。食事の合間には管理栄養士さんへ感想を伝えたり食材への質問する方々もいて楽しそう。
お皿も含めどんどん彩りよく進化するメニュー。
↑お皿も含めどんどん彩りよく進化するメニュー。

現場の声10
「患者様に喜んでいただく病院食の工夫」

京都大原記念病院 管理栄養士 屋代朋子 氏

食材とする野菜は生産者の方がわが子のように大切に、誇りをもって育てておられます。また、この野菜はどういう特徴をもって開発されてきたものか。管理栄養士がこれらの素材を使って食事をお出しする場合、そうした姿を患者様や利用者の方にお伝えすることは食べる意欲や喜びに結びついているのではないかと感じています。実際、料理にどういった食材を使っているかを知ったうえで召し上がることで、食事の意欲は高まり残食も減る傾向がみられます。「しっかりPRする」ためにポスターやチラシ、お膳にメッセージカードをつけることが有効です。生産者の畑に足を運び、栽培の様子をお聞きし、写真撮影します。啓蒙資料にはそうした料理になるまでのプロセスをのせるようしています。こうした取り組みに対し患者様やご利用者から御礼のお手紙をいただくこともあり、生産者にお伝えしています。


食の循環へのトライアル

前述のように残食を減らす取り組みの結果、同グループで発生する残食は、一般的な医療・介護施設の約半分の水準となっています。
しかし、それでも発生する残食(年間約50トン)を有効活用できるよう、2015年から残食の堆肥化に取り組んでおられます。
2基のコンポスト容器(生ゴミ処理容器)を試験的に使用したところ、約20%の堆肥化に目途がついたそうです。同院の自家農園では年間約1500kgの堆肥を使用しますので、これはコンポスト3基分でまかなえる水準で、食の循環が現実的なものになりました。生成した堆肥は地元農家に還元することも想定し、「食の循環」のモデルケースが確立しつつあります。

家族もともに楽しめる収穫体験

ファイトリッチシリーズのうち、夏にまいて冬にとれるカロテンとリコピン両方を含むニンジンの「京くれない」とカロテンが豊富な「オランジェ」は、メニューを飾るだけでなくデイサービスの利用者の方々が集まって収穫体験で盛り上がりました。収穫後は新鮮なニンジンスムージーが提供され、作業を終えた参加者ののどを大いに潤したようです。
こうした収穫体験は、ファイトリッチシリーズ以外でもミニダイコン「紅三太」などでも好評でした。

「京くれない」を収穫してこの笑顔。
↑「京くれない」を収穫してこの笑顔。
「京くれない」を収穫してこの笑顔。

↑収穫したミニトマト「オレンジ千果」、こどもピーマン「ピー太郎」のスムージー。
野菜本来の甘みを楽しめると大好評。

常時ファイトリッチを味わうために独自の加工品も開発

病院内での農園からの収穫物が増えるにしたがって、四季折々の食事提供が増え、一度に収穫を迎えるものは加工販売して、院内の売店や近隣の道の駅で販売し、施設内での利用にとどまらず、お見舞いなど訪問者のお土産としても好評を得るようになりました。
管理栄養士の屋代さんが開発した三笠の「人参いれちゃいました」の餡は「京くれない」。白餡に「京くれない」のペーストを練り込み、シナモンでニンジン臭を抑えています。生地には大原産の米粉を使用。病院内の売店のほか、近隣の里の駅大原で販売し、2017年の初年度、5,500個は3カ月もしないうちに完売のヒット作となりました。

1個180円(税込)がすぐに完売。
↑1個180円(税込)がすぐに完売。
院内の売店で販売されている「京くれない」のジャムや「ケルたま」のドレッシング。
↑院内の売店で販売されている「京くれない」のジャムや「ケルたま」のドレッシング。
「フルティカ」「京くれない」のシャーベットと「オランジェ」のアイスクリーム。
↑「フルティカ」「京くれない」のシャーベットと「オランジェ」のアイスクリーム。

他にもケルセチンが豊富なタマネギ「ケルたま」を使ったドレッシング、前述の「京くれない」や「オランジェ」、中玉トマト「フルティカ」のジャムやジェラードなど、利用者がご家族と一緒に楽しめたり、お土産としてもち帰ったり、新たな特産として可能性を見せ始めています。

ファイトリッチの可能性

現在進められているのが「リハビリテーションの効果を高めるための食事の検証」です。一定の栄養素を強化した食事でリハビリテーションを実施することで、栄養指標や筋肉量の変化をデータとして蓄積し10年先、20年先にはエビデンスを得れるよう取り組みが始まっています。

現場の声11
「リハビリテーション食としてのファイトリッチの可能性」

京都大原記念病院 看護師 田村さちこ氏

京都大原記念病院 看護師 田村さちこ氏

私たち看護師は、リハビリテーション目的で入院された患者様が、リハビリテーションの効果を最大限発揮できるよう、一人ひとりの訓練内容や活動量に合わせ食事量やメニューの工夫を行っています。それらを一般的には「リハビリテーション栄養」と呼んでいます。食事が食べられているか、体重が減っていないかを観察し、生活面からサポートを行っています。食事もリハビリテーションメニューの大事な要素で、計画通り完食頂けてこそ効果が高まります。現在は、リハビリテーション食の開発にも携わり、リハビリテーション効果だけでなく、楽しい食事・おいしい食事が提供できるよう取り組んでいます。

ファイトリッチを取り入れた究極の「健康長寿食」メニューを発信

入院患者への食事提供は、熱を加えた調理に限られています。また、保健医療の範囲内では1食当たりの上限金額が定められています。かねてから「地産地消」に取り組み、高齢者共生型のまちづくり(大原版CCRC)を目指す大原グループさんでは、病院食の範疇にとらわれず、無農薬でおいしい地場産素材を使い、成分を壊さず吸収のよい調理法で、機能性成分が豊富なファイトリッチ野菜を使うなど、メニューにストーリーとエビデンスが用意されるような将来を見据えたメニュー提案も関係者向けにありました。
「リハビリ栄養食」の範疇を越えて「健康長寿食」へ。こうした取り組みはタキイと京都大原記念病院が連携する中で、生まれてきた新しい可能性の一つの形です。種苗会社、病院、管理栄養士、料理人、生産者等が連携することで新たな地方創生の入り口が開けています。ファイトリッチを取り入れた食事とリハビリの相乗効果の検証は始まったばかりです。