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医・食・農一体の取り組み
〜京都大原記念病院との連携が生んだグリーン・ファーム・リハビリデーション®〜
「グリーン・ファーム・リハビリデーション®」2017〜2018年の軌跡
2018年度のリハビリ農園
2018年は前年の結果をベースに作付けが実施されました。「グリーン・ファーム・リハビリテーション®」は、学術面からのエビデンスをとるため、脳神経内科の木村彩香医師がメンバーに加わっていただけました。病院側スタッフも農園の栽培管理に習熟されてきました。
また、新たな工夫としては、収穫作業後の野菜の洗浄、袋詰め、作業療法室の冷蔵庫への保管までの作業も農作業リハビリの一連のプログラムと位置づけ、春夏から秋冬の収穫期まで通年で実施できる範囲を広げていただきました。
収穫後の野菜が冷蔵庫に保管されることで、施設内での食材活用も計画的に無駄なく循環できる体制が整いました。余剰分はその日のうちに売店での販売に回され新鮮な野菜が来場者の人気となりました。
新たな課題としては、鳥や鹿の被害が深刻になってきてその対策にネット防御などの必要もでてきました。周囲が山であることと、リハビリの歩行のため畝の周囲を「防草アグリシート」で障害物を整備したため、カラスやシカにとっても見晴らしがよく、荒らしやすいのかもしれません。結局は物理的防除が一番とネットを張っての対応となりましたが、患者の中にネットを張る作業を買って出ていただく方がいたことも幸いしました。
進化を遂げた2018年版リハビリ農園の作付けを紹介いたします。
- <2018年栽植図>
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2018春夏 (前半)
2018春夏 (後半)
秋の列植図
- 春の「グリーン・ファーム・リハビリテーション®」に効果を発揮した品目、難しかった品目
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効果あり
エンドウマメ・キュウリ・オクラ・赤シソ・ナス・ピーマン
これらの品目はハサミで収穫、しゃがむ、立つ、指先を使う、といった動作がリハビリに有効で効果が期待できます。また、トンネル生育したキュウリやエンドウマメは農作業の経験があった患者が剪定・間引きなどを自ら買って出られました。上に大きく育つつる性の野菜は収穫作業だけではなく動作としてさまざまな可能性があるように思いました。(実を探す・切ってよい箇所を見極める・誘引する等)※特に収穫物を探すという作業は「半側空間無視」という脳機能のリハビリに効果がある可能性が木村医師から示唆されています。
また、ズッキーニやゴーヤのような、大きさや変わった形の野菜は収穫動作よりも視覚的に興味をひき、見てみたい、収穫してみたいと思わせる効果があったように思います。
キュウリやゴーヤ、モロッコインゲンのトンネル栽培は大成功
アーチ状に支柱を組みグリーンのトンネルとしたキュウリ・ゴーヤ、モロッコインゲンは、「涼しそうなので通ってみたい」、「トンネルの中で収穫してみたい」と多くの患者を畑へ引き寄せました。こうした足元が整備された農園は、患者だけでなく面会で訪れたご家族など来訪者の興味をひき、農園には多くの方が足を運ばれました。
2018年の特徴であるトンネルでの生育は成功しました。これは前年余った部材を使って簡易トンネルを作ってみたところ予想以上に好評をいただいたため、2018年は支柱パイプや関連部材を仕入れ、きちんと整備したことが成功につながりました。日よけ効果についてもトンネル内部と外部の気温差を明確にさせるために2019年度は温度計を設置しデータを収集する予定です。
猛暑による外出禁止!室内でできたこととは
室内で行えるリハビリの一環として、スタッフが収穫して持ち込んだキュウリをカットしたり、赤シソのもぎ作業が実施されました。摘み取った赤シソが、病院食で提供されることを作業される方々に事前にお伝えしたことで、みなさん意欲的に取り組まれました。エダマメやつるなしエンドウも株ごと室内に持ち込んでの莢とり作業がリハビリに使えることがわかりました。今後も夏季の高温は避けられず、患者の健康面を考慮すればやみくもに炎天下のリハビリは危険です。次年度の課題として、日よけによる高温対策、圃場での体温上昇への対策など、医師を交えてのデータ採取と対策検討の必要性を痛感しました。
難しかった品目
トマトの誘引作業では、患者さんが茎を折ってしまわれることもあり、農作業初心者には栽培が難しく、リハビリには不向きでした。ズッキーニも葉のトゲが大きく痛いので、これの収穫作業も不向きでした。また、スイカやカボチャなど地這で栽培する作物は不向きといえます。
- リハビリに役立つ農業資材の模索
(誘因具「とめたつ」(ニチバン)や耐暑対策の「スーパー涼かちゃん」(槍木産業)、軽量長靴「マジカルブーツ」(フクスイ)など -
タキイでも扱う農園芸資材について、「リハビリ患者が使いやすい」という視点から、使いやすい資材がないかも模索しています。医療テープ分野でも有名なニチバン株式会社さんには、キュウリのつるをキュウリネットへ粘着テープで簡単に結束できる誘因結束機「とめたつ」をサンプル提供していただきました。特に新商品の「とめたつライト」は、握力のないリハビリ患者や、手が小さい女性でも扱いやすく。使った患者もコツをつかむと「簡単ね」と、次々テープを結束いただけました。但し、使い方を教えられる人が常時いないと初見では難しくなります。
暑さ対策として日差しから頭を守る遮光に優れた「涼かちゃん」帽子を提供。まずは病院スタッフに試していただき日よけに最適だと購入いただきました。雨上がりなど圃場を歩く際に履いていただく長靴として、滑りにくく着脱が容易な長靴なども試していただきました。「軽く動きやすい」との感想を得ています。秋冬野菜種の播種時に患者4名に着用・使用してもらいましたが「涼しい・軽い帽子だから背中まで被っても気にならないし何より暑くない」「靴も軽くて短いのでしゃがみやすい」「誘引が簡単・使って楽しい」という声が聞けました。このように患者や高齢者目線での有効な資材も選定して、農作業リハビリに取り入れていきたいと思います。
- 秋の菜園で作付けされた品目
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ミニダイコン(紅三太)、ダイコン(耐病総太り)、キャベツ(彩音)、ニンジン(オランジェ)、メキャベツ(早生子持)、紫ミズナ(紅法師)、ホウレンソウ(冬ごのみ)、紫コマツナ、カブ(スワン)、赤カブ(ゆるぎ赤丸蕪)、茎ブロッコリー、オレンジ白菜(オレンジクイン)、ベビーリーフ(ガーデンベビー)。
- ※11月定植、タマネギ(ケルたま)
- ※11月播種、キヌサヤエンドウ(仏国大莢)、スナップエンドウ(グルメ)、ウスイエンドウ。
秋冬野菜は彩が少ない中で、病院での残食を減らすためにも野菜の色数を増やすことが意識されています。色素成分に機能性成分を豊富に含む「ファイトリッチ」シリーズでは、「オランジェ」、「オレンジクイン」、「紅法師」、「ケルたま」を取り入れています。中でも「オレンジクイン」は毎年デイケア施設のイベントでちゃんこ鍋としてふるまわれ、火を通しても色がオレンジのまま変化せず、見た目にもきれいで甘くておいしいと大人気です。
ニンジンの「オランジェ」も行事食としてポタージュで提供されました。こちらもカロテン豊富でおいしいと好評です。1月のイベント食でふるまわれたおでんでは、「耐病総太り」が大活躍。肉質のよい「耐病総太り」は2月にも嚥下食としても活用されました。また、ミニサイズで外皮が赤い「紅三太」は生育が短期間でだれでも抜きやすく、収穫イベントでも重宝されました。
寒さ厳しく圃場に出ることがない2月にはメキャベツの「早生子持」が活躍。農園から株ごと収穫して室内に持ち込み、結球したメキャベツを茎から取り外してもらいます。「プチ、プチ」という切り離す時の小気味よい手触りが患者たちにも評判がよく人気の作業となったようです。また、エンドウマメのわら帽子作成も作業自体が珍しく、ワラを輪状にくくり、竹に差し込むという作業に熱中された方も多かったようです。
◎2018年上半期(5〜9月):総収穫量264s、食材活用113s、院内売店販売量151s
◎2018年下半期(10〜3月):総収穫量143.3s、食材活用40.4s、販売量103s
2018年度合計:総収穫量407.4s、食材活用153s、販売量254s 廃棄野菜なし。
※総収穫量は患者収穫のみでなく、農園関連病院スタッフ収穫も含む。
- <2018年を回顧する>
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2017年でベースとなった栽植を踏襲し、連作障害が出るマメ類の畝をローテーションしています。簡易な支柱で展開したエンドウやキュウリのトンネルは、グリーントンネルとして夏場日よけとしても涼しいと好評だったため、2018年は広い通路を挟んで2畝分をアーチ状の支柱で覆い、見た目も強度もグリーントンネルとしても進化いたしました。リハビリに使い勝手のよいエンドウ(仏国大莢、グルメ、ウスイ)の畝は前年の3畝から5畝に増えています(但しエンドウは連作障害が出やすいのでローテーションや比較的連作障害が少ないインゲンを増やす工夫が必要)。エンドウの収穫が一旦終わるころにはキュウリの収穫が始まりました。また、患者の中には、指先がマヒして動かしにくいにもかかわらず、経験のある農作業を買って出て、キュウリの誘引やわき芽除去など毎日朝夕取り組まれる方も出てきました。
患者同士とのコミュニケーションも増え、農園が心身両面で患者の笑顔を引き出し、リハビリを前向きに取り組ませる効果があると感じています。
2018年の酷暑は例年以上に厳しく、山あいの大原でも高温注意報が連日出されるなど状況は同じでした。7〜8月には木村医師から屋外リハビリ活動の停止指示がたびたび発動され、収穫物が盛況なこの時期の農作業がリハビリに活用できないという課題が発生しました。対策として遮熱効果の高い農作業向けの帽子など提供いたしましたが、夏期高温対策は、次年度の課題として検討に入りました。
- <そして、2019年は・・・>
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「グリーン・ファーム・リハビリテーション®」プロジェクト発足から3年を経て、農園の完成度を高めてきました。リハビリ用途に向く品目や品種も選定されてきました。それでも立体栽培の導入など工夫の余地はあります。2019年は専門医師指導の元、各種データ収集が行われ、リハビリ効果の可能性を検討いたします。さらに進化していくタキイと京都大原記念病院の「医・食・農の連携」は次のステージへと移っていきます。