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2026.10.22
“悩み”に応える、タキイの品種開発力
Vol.5 人手不足や人件費高騰に寄り添う!ナス「PC」シリーズ

昨今、猛暑などの気候変動に加え、生産者の高齢化や担い手不足など、農業を取り巻く環境は大きく変化しており、生産現場ではさまざまな環境への対応が求められています。また、単身世帯・共働き世帯の増加などによるライフスタイルの変化は、流通や消費者の購買行動にも影響を与えています。
タキイ種苗では、こうした時代の変化に対応するため、品種開発に取り組んでいます。本シリーズでは、「なぜその品種が生まれたのか」という開発背景に着目し、社会課題やニーズとの関わりとともにご紹介します。
■“生産者不足や高齢化” で求められる効率化と省力化
日本の農業では担い手不足や高齢化が進んでいます。農林水産省の資料(※1)によると、農業経営体のうち個人経営体の基幹的農業従事者(※2)は、2020年と比べて2025年では、24.0%減少しています。また、2025年の個人経営体の基幹的農業従事者の平均年齢は67.7歳となっています。また、農業経営体のうち、個人経営体は5年前と比べ減少するものの、団体経営体は増加し、経営耕地のある農業経営体での1経営体当たりの経営耕地面積も増加しています。
こうした背景から、少ない労力で安定した収量と品質を確保できる栽培への注目が高まっています。
そんな中、ナスは管理に多くの手間を要することから、栽培面積の減少が懸念されている品目の1つです。生産者の中には、稲作や大麦など複数の作物を栽培している場合も多く、限られた労力の中ではナス栽培を断念せざるを得ないケースもあります。
(※1) 農林水産省 2025年農林業センサス
(※2) 基幹的農業従事者とは、自営農業を主な仕事としている世帯員をさす。

“ホルモン処理”の作業負担
ナスが果実をつけるためには、本来は受粉が必要です。露地栽培では主に昆虫が受粉を担いますが、ナスの年間出荷量の多くを占めるハウス栽培では、受粉を担う昆虫が外から入りにくく、自然受粉だけでは十分な着果が期待できません。
そのため、多くの産地では生産者が一つひとつの花に着果促進剤を散布する「ホルモン処理」という作業を行い、着果を促しています。この作業は栽培管理における総労働時間の約3割を占めるとされるほど多くの手間と時間を要します。
特に、春以降は生育が旺盛になり、開花数の増加に伴いホルモン処理の作業量も増えます。近年は高温化の影響で、ハウス内の気温が30℃を超える環境で作業を行うことも珍しくありません。こうした中でのホルモン処理は、生産者にとって大きな身体的負担となっています。
また、精神的な負担も少なくありません。「ホルモン処理」は、花が開花している短い期間に、適切なタイミングで行う必要があります。散布時は生育への影響も考慮しながら、できるだけ花のみを狙って散布をする必要があり、ていねいで細やかな作業を求められます。
作業負担への軽減策として、受粉用のハチを利用する方法もありますが、ハチが過ごしやすい環境を維持するための管理が必要になるほか、導入コストがかかるなど別の課題も生まれてしまいます。
生産者不足や高齢化、経営規模の拡大が進む中、農業現場ではこれまで以上に省力化へのニーズが高まっています。従来の栽培技術だけでは解決が難しい課題が増えており、生産者の作業負担を軽減しながら安定生産を支える品種そのものの価値が、ますます重要になっています。
果実がなるナス品種の開発
こうした栽培現場の課題を解決するため、タキイ種苗では長年にわたり、着果促進剤による「ホルモン処理」やハチによる受粉がなくても実がなるナス品種の開発に取り組んできました。
その結果、受粉しなくても果実が肥大する「単為結果
」という現象がナスで起こる仕組みを解明(特許:第6191996号)し、高温期や厳寒期といった厳しい環境条件下でも受粉なしで安定して果実をつける、単為結果性ナス品種「PC※」シリーズを開発しました。
※「PC」はParthenocarpy(単為結果)の略称です。
「PC」シリーズ最大の特長は、「ホルモン処理」の作業が不要になることです。これにより生産者の作業時間を大幅に削減できるだけでなく、その時間を他の栽培管理作業に充てられるため、品質向上にもつながります。また、ハチを利用した受粉も不要となるため、管理にかかる負担や導入コストの軽減にもつながります。
ナスは地域によって好まれる果形や食味、用途や栽培方法が異なるため、産地ごとのニーズに合わせた「PC」シリーズの品種開発を進めてきました。
| 品種名 | 主なハウス栽培産地 |
| PC筑陽 | 九州を中心とした長ナス産地 |
| PCお竜 | 高知県などの長卵形産地 |
| PC鶴丸 | 関東を中心とした長卵形産地 |
| PC千両EX(2026年新発表) | 本州の長卵形産地 |
2026年には「PC千両EX」を発表しました。50年以上親しまれてきた長卵形ナスの代表品種「千両」の特長を受け継ぎながら、単為結果性を備えた新品種です。
生産者の作業負担を少しでも軽減しながら安定した生産を支えることが、「PC」シリーズ開発の大きなテーマでしたが、今後、単為結果性は省力化だけではなく、暑さ対策への期待も大きいです。近年は夏季の高温によって受粉を担う昆虫の活動が低下し、ハウス栽培だけでなく露地栽培でも受粉不良や果実肥大の不安定化が課題となっています。「PC」シリーズの受粉なしで実がなる性質は高温期・低温期など厳しい栽培環境でも安定した着果が期待できるため、露地栽培においても安定生産にも貢献する重要な特性になりうると考えています。
〈ご参考〉
PC千両EX ナス | 品種カタログ | タキイの野菜【タキイ種苗】
ナス栽培の未来を変えた一瞬の“気づき”
― 単為結果品種誕生と産地との歩み ―|品種ストーリー|最前線WEB - タキイ種苗
■生産現場での「PC千両EX」の評価
〇JA岡山 備南営農センター
当地での冬春の千両ナスのハウス栽培は、8月〜翌年6月まで行っており、県内有数の産地です。しかし、農業用資材の価格高騰や出荷時の運送費上昇などの影響でコストが増大するにも関わらず、ナスの単価は上がらず収入に反映されにくいことが原因で、ナスの生産をやめる人も出てきています。「PC千両EX」の導入により、生産者の省力化につなげるだけでなく、今後は株間の調整や資材の有効活用など「PC千両EX」をより作りこなしていくことで、さらなる増収を目指しています。
〇JA岡山 備南施設茄子部会
「PC千両EX」の導入のメリットは「ホルモン処理の省力化」です。従来品種は、収穫作業が終わったらすぐにホルモン処理を1棟当たり約2時間、最盛期には半日かけて行っていましたが、「PC千両EX」ではその作業がなくなりました。また、省力化だけでなく、その時間を他の管理作業に回すことができるようになり、品質向上が期待できます。
「岡山備南千両なす」
■生産現場の人手不足に応えて、新規就農のハードルを下げる品種開発へ
近年、農業現場では猛暑や豪雨などの異常気象に加え、生産者の高齢化も大きな課題となっています。高齢化に伴い栽培面積が縮小する産地がある一方で、若手生産者を中心に経営規模の拡大も進んでおり、これまで以上に限られた人員で効率のよい栽培管理が求められています。
こうした環境の変化を受け、品種開発にも新たな役割が求められています。従来重視されてきた収量性や食味に加え、省力栽培への適応性や、高温環境下でも安定して生産できる特性など、生産者の負担軽減につながる価値がますます重要になっています。
実際に産地からは、単為結果性を備えた「PC」シリーズの導入によってホルモン処理の負担が軽減され、新たにナス栽培へ参入しやすくなったとの声も聞かれます。品種そのものが作業負担の軽減に貢献することで、新規就農や規模拡大を後押しする役割も期待されています。
タキイ種苗は今後も、生産現場が直面する気候変動や担い手不足などの課題に向き合いながら、安定生産・品質維持・省力化に貢献する品種開発を通じて、持続可能な農業の実現に取り組んでまいります。
※本記事に掲載の比較結果は、当社試験又は栽培現場での評価に基づくものです。栽培条件や環境等により結果が異なる場合があります。
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