インフォメーション

2026.10.29
“悩み”に応える、タキイの品種開発力
Vol.6 “縁の下の力持ち”が重要なワケ!
台木用トマト「キングバリア」台木用ピーマン「グランバギー」

昨今、猛暑などの気候変動に加え、物流の変化などにより、農業を取り巻く環境は大きく変化し、生産現場にさまざまな影響を与えています。
タキイ種苗では、こうした時代の変化に対応するため、品種開発に取り組んでいます。本シリーズでは、「なぜその品種が生まれたのか」という開発背景に着目し、社会課題やニーズとの関わりとともにご紹介します。
■栽培性や食味、収量性など、全てを兼ね備えた万能品種の開発は難しい!
このシリーズでは、暑さや病気など、栽培環境の変化に対応するタキイ種苗の品種開発をご紹介してきました。しかし、品種に求められる特性は「暑さに強い」「病気に強い」だけではありません。おいしさや収量性など、さまざまな性能が求められています。さらに、特定の栽培期間や産地だけに必要とされる性能もあり、それらすべてを一つの品種で実現することは容易ではありません。
そこで、トマトやピーマンなどの果菜類で活用されるのが「接ぎ木 栽培」です。「接ぎ木栽培」とは、土壌病害に強く、水分や養分を吸収する力が持続しやすい品種を土台となる「台木」とし、その上に食味や収量性がすぐれた品種を「穂木 」としてつなぎ合わせた苗を植えて育てる栽培方法です。
穂木品種と台木品種のそれぞれの長所を生かすことができるため、よりさまざまな栽培環境に応じた栽培が可能になります。

暑いとバテてしまうのは、野菜も人間と同じです。暑い夏に食欲が低下するように、高温下では野菜も水分や養分がうまく吸えず、「草勢 (※1)」が低下し、生育不良や収穫量の減少につながります。
近年、野菜の生産現場を取り巻く環境は厳しさを増しています。特に猛暑や局地的な大雨などの異常気象が、野菜の生育に大きな負荷をかける場面が多くなっています。
こうした中、重要になってきているのは「根の張り」です。植物は根から水分や養分を吸収するため、根の張りは生育を左右する重要な要素です。根がしっかり張ることで、高温期など厳しい栽培条件下でも水分や養分を効率よく吸収でき、栽培後半まで草勢が安定し、収穫量や品質の維持につながります。
特に果菜類は、7月下旬〜9月の厳しい暑さの中で定植(※2)を行う産地が多いです。定植時に高温の影響を受けてしまうと、初期の根の張りが不十分になることがあります。栽培初期に根の張りが不十分だと、茎が細く、葉は量が少なくサイズが小さい状態で生育が進んでしまいます。その後、秋になり気温が下がり根の張りが回復したとしても、初期生育の不十分さを完全に取り戻すことは非常に困難なため、結果として十分な収量を確保できないケースも少なくありません。
さらに、近年の大雨や高温の影響で土壌病害の発生も深刻化しています。例えば、トマトで問題となる「青枯病 」は土壌中の病原菌によって発生し、一度発病すると株全体が枯れてしまうこともある厄介な病気です。病原菌は高温条件下で活動が活発となるため、近年の温暖化に伴い発生地域が広がっており、これまで被害が少なかった地域でも問題となっています。このため、病気に強い台木品種を用いた栽培の重要性がますます高まっています。
上記のように、近年は「根の張りのよさによる草勢維持」と「土壌病害への抵抗性」の両方の形質が台木品種に求められるようになりました。しかし、従来の台木品種は、土壌病害への耐病性を重視すると草勢が弱くなりやすく、逆に草勢を重視すると耐病性が十分でないなど、両立が難しい課題がありました。
こうした背景から、猛暑による草勢低下への対策、青枯病などの土壌病害への対応という複数の課題に応える、強い根と耐病性の両方を備えた台木品種の開発が求められるようになりました。
(※1) 草勢とは、茎や葉が伸長する勢いのことで、一定の強さに保つことで収穫量や品質が安定する。
(※2) 定植とは、別で育てた苗を圃場などに植える作業。
根の張りのよさによるスタミナ維持と耐病性を両立!
こうした栽培現場の課題に対応するため、タキイ種苗では、これまで両立が難しかった「根の張りのよさによる草勢維持」と「土壌病害への耐病性」を兼ね備えた台木品種の開発を進めています。地上からは見えない根の力で、暑さ時代の野菜づくりを支える台木品種は、野菜の安定生産を支える“縁の下の力持ち”です。
トマト用台木「キングバリア」
夏秋の栽培で特に重要となる「根張り」と「青枯病耐病性」を兼ね備えたトマト用台木です。
「キングバリア」は、発根性にすぐれ、根を土中に深く広く張るため、高温環境下や長期栽培でも穂木の草勢を維持しやすく、スタミナが衰えにくいトマト用台木品種です。さらに、青枯病を中心とする土壌病害への耐病性を備えているため、穂木をしっかりサポートし、栽培の安定に貢献します。
その結果、夏秋栽培でも草勢を維持しやすく、収穫量や品質のばらつきを抑えた安定生産・出荷に寄与します。これにより消費者へ安定的にトマトを届けることにつながります。
農林水産省登録品種(品種名:TTM127)
キングバリア 台木用トマト | 品種カタログ |
タキイの野菜【タキイ種苗】
059_060_キングバリア.indd
左 キングバリア、右 他品種
調査日:2021年11月4日
調査場所:岐阜県
〈生産現場での評価〉
・JAめぐみの(美濃白川)
当地のトマト栽培は5月上旬に苗を定植し、6月下旬から11月中旬ごろまで収穫しています。「キングバリア」は青枯病への耐病性が安定していることから導入しました。また、茎が太いため、接ぎ木の活着率(※3)が高く、水疱症(すいほうしょう)(※4)の発生が軽減しました。さらに、直根と細根のバランスのよさが、当地の夏秋栽培におけるスタミナの持続につながっているのではないかと考えています。
(※3) 穂木と台木が順調に接続する割合のこと。
(※4) 水疱症とは、葉の裏面にコブが現れる生理障害。場合によっては落葉につながる。
根掘調査の様子
ピーマン台木「グランバギー」
近年、ピーマン栽培でも青枯病の発生が課題となっていました。しかし、青枯病に耐病性をもつ従来の品種は、栽培環境によっては草勢が弱くなりやすいことから、ピーマンの生産現場では接ぎ木栽培が普及しにくいという障壁がありました。
「グランバギー」は、「草勢の強さ」と「青枯病耐病性」を兼ね備えた台木です。暑さで株がバテやすい時期でも生育を支えるスタミナをもつため、収穫終盤まで草勢の維持が期待でき、安定した着果につながります。その結果、収量の安定や市場への安定供給に貢献することが期待されます。
〈生産現場での評価〉
・JAおおいた
当地のピーマン栽培は3月上旬から定植が始まり、4月下旬から11月下旬まで出荷します。従来は自根栽培が主体ではありますが、青枯病対策として数種類の台木品種を利用してきました。しかし、ピーマンの接ぎ木栽培の場合は、草勢がおとなしくなり、収量性が自根より劣る傾向が大きな課題でした。そこで、2022年から「グランバギー」の現地試験を行ったところ、外品率(※5)が低く、特に穂木品種の特性的に多い尻腐症(※6)が少なくなるなど、草勢や品質・収量性を確認して2024年産から本格的に導入しました。「グランバギー」は根の量が多いことで、蒸散量に応じた吸水力によって、夏場の異常高温による障害果(尻腐症など)の発生抑制や、栽培後半の草勢維持などから収量の増加につながっています。夏を制する大きな手段として吸水力の高い「グランバギー」には大きな期待がかかっており、年々利用者が増えています。
根掘調査の様子
左:グランバギー 右:自根
調査日:2025年3月13日
調査場所:大分県
(※5) 外品率とは、出荷規格外品の発生率のこと。
(※6) 尻腐症とは、果実の頂端部にえそができる生理障害のこと。主にトマトやナス、ピーマンで発生する。
尻腐症のイメージ(トマト)
■“栽培環境の変化”に応える品種開発へ
近年、農業現場では猛暑や豪雨などの異常気象が頻発し、栽培環境は大きく変化しています。これまで安定して栽培できていた地域や作型でも、高温や多湿による病害の発生、品質低下、収量減少などが課題となっています。
こうした中で、品種開発にも新たな視点が求められています。従来の収量性や食味だけでなく、高温環境への適応や病害への耐病性など、変化する栽培環境の中でも安定した品質を維持できる特性が重要な価値となっています。
さらに近年は、一つの品種ですべての課題に対応するのではなく、「穂木」と「台木」を組み合わせ、それぞれの役割を最大限に生かすという品種活用の重要性も高まっています。
タキイ種苗では今後も、気候変動によって変化する生産現場の課題解決に向け、穂木・台木の双方から安定生産と品質維持に貢献する品種開発に取り組んでまいります。
※本記事に掲載の比較結果は、当社試験又は栽培現場での評価に基づくものです。栽培条件や環境等により結果が異なる場合があります。
〈悩みに品種で応える、タキイの品種開発 過去の記事〉
Vol.1
カット加工の悩みに応える!メロン「レノン」シリーズ
“悩み”に応える、タキイの品種開発力
Vol.1 カット加工の悩みに応える!メロン「レノン」シリーズ
Vol.2 カボチャにも長もちする“日傘”が必要!カボチャ「グラッセ」
“悩み”に応える、タキイの品種開発力
Vol.2 カボチャにも長もちする“日傘”が必要!カボチャ「グラッセ」
Vol.3 猛暑でレタスが“結球しない”問題に!レタス「ヒートガイ」
“悩み”に応える、タキイの品種開発力
Vol.3 猛暑でレタスが“結球しない”問題に!レタス「ヒートガイ」
Vol.4 夏ハクサイを襲う猛暑に!ハクサイ「黄づつみ 67」
“悩み”に応える、タキイの品種開発力
Vol.4 夏ハクサイを襲う猛暑に!ハクサイ「黄づつみ 67」
Vol.5 人手不足や人件費高騰に寄り添う!ナス「PC」シリーズ
“悩み”に応える、タキイの品種開発力 Vol.5 人手不足や人件費高騰に寄り添う!ナス「PC」シリーズ



