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医・食・農一体の取り組み
〜京都大原記念病院との連携が生んだグリーン・ファーム・リハビリデーション®〜
第2章 グリーン・ファーム・リハビリテーションの実際(農園編)
タネまきから収穫まで、様々な栽培工程があります。その中で患者様が最も楽しそうに取り組まれていた作業は、なんといっても、「野菜の収穫」です。収穫時には、患者様の笑顔が農園にあふれていました。
農園芸のリハビリテーションにおいて大切なことは、栽培の楽しさと収穫の喜びを感じてもらうために
「最後まで栽培が継続し、確実に収穫できること」です。
1野菜がつくりやすく、安全な農園を設計する
農園芸のリハビリテーションに重要なポイントは、野菜づくりに適した土づくりはもちろんのこと、病院からのアクセスのしやすさと、足元通路など安全性の高い農園のレイアウト・設計です。危険な段差や障害物をなくすことはもちろんのこと、以下のような点を改善してきた結果、連携当初よりも多くの患者様が農園に足を運んでくださるようになりました。
(1)畝(うね)の向き
作物にまんべんなく光が当たるように、南北にしました。
(2)畝の高さ
排水性を向上させるため、やや高い状態に仕上げます。家庭農園において失敗する原因の一つに、排水の悪さによる根の傷みや病気の発生があります。畝を築くことで根張りのよい株になりました。
(3)排水
農園の周囲に排水路を掘り、全体の水はけをよくしました。
(4)通路幅
農園内の通路幅は、作業療法士などが寄り添っての歩行訓練なので2人分の幅が必要。車いすでの作業を想定し全道幅は1.2〜1.5mとする。
【参考図】松葉杖の幅と車いす可動域
(5)畝の長さ
初年度の畝の長さは20mでした。しかし、畝が長すぎると、患者様が隣の畝に移動しにくく疲労が溜まるとの意見が多数集まりました。一方、短すぎるとマルチシート*のカット作業などの工程が増えます。よって、畝の長さは9m程度までが妥当と判断しました。
*マルチシート…畝の地温を保温したり、肥料の流亡を防ぎ雨による栽培物への泥はねを防ぐ目的で張られるシート。プロ農家の必須品。
(6)肥料
肥料は土づくりから施肥する「元肥」(もとひ)と、栽培中に施肥する「追肥」(ついひ)があります。元肥は緩効性肥料(かんこうせいひりょう)を使い、追肥管理回数が少なくて済む肥料を選びました。
(7)栽培管理の効率化
雑草の生育を防止し、農園管理者の作業を軽減するため、畝には黒マルチシートをはりました。また、通路にはアグリシート(防草シート)を敷くと、通水性があるため表面に水がたまらず、雨上りの歩行も可能になります。畝間が乾燥することもなく、雑草も抑えるため一石三鳥のすぐれものです。
現場の声2
「歩きやすい農園にするために」
タキイ種苗 CSR委員会
農園の通路に貼るアグリシート。連携当初のアグリシートは、一般的な「黒色」を使用していましたが、作業療法士などへのアンケートで、「通路と畝が同じ黒色のシートなので、視力の低い患者様は通路と畝の境界線がわかりにくく歩きづらい」との声が寄せられました。次年度、白色アグリシートで試験したところ、16名中8名の作業療法士が、畝との境界線がクリアになり、白色アグリシートが望ましいと答えました。(白色アグリシートの裏面は黒色なので遮光性があり、雑草防止にもなります。)
同院スタッフに聞いた好ましいアグリシートの色
(8) 出入り口の配置
農園への出入口は2カ所以上設け、周遊できるようにしました。凹凸のある通路を車いすや手押し車ですれ違うのは、大変です。出入口を分けることで、患者様やご家族様が周遊しやすい農園になりました。
現場の声3
「農作業をリハビリテーションメニューに加えるための工夫」
京都大原記念病院 リハビリテーション部 作業療法士 山中卓也 氏(左)
リハビリテーションのプログラムに農作業を組み込むためには、農園の環境設定が関わってきます。農作業は心身の健康にとってよい効果があるという点についてはわかってきましたが、農園に出ないことには始まりません。しかし、患者様が農園にでるということは容易ではありません。患者様は作業療法士などと行動を共にし、転倒対策や体調管理等を行い作業します。通路が確保されておらず、車いすの患者様が移動しづらいようでは、患者様もスタッフも農園には行きません。この点については、タキイ種苗(株)さんと相談し、通路幅を確保して頂くことになり、解消することが出来ました。