芝生なんでも百科
芝生の選び方
家庭で芝生をつくる場合、大切なことの一つは、正しい芝草の選び方です。芝草を選ぶ時、次の点を考えてください。
自然条件
何といっても芝草は自然の恵みで育ち、また自然の厳しさに耐えることで、きれいな芝生ができます。よく手入れし、美しい状態で維持できるよう、心掛けましょう。
温度
芝草にとって、自然条件の中で最も重要なものは、温度です。日本の国土は南北に長いため、さまざまな温度差の中で芝草は生育しなければいけません。北は北海道から南は沖縄県まで、気候は四季それぞれに異なります。したがって、一つの芝草の種類や品種で全国をカバーするわけにはいきません。
芝草はその種類、または品種によって温度に対する反応が異なります。低温に適するもの、高温に適するものなどさまざまです。
例えば、高温の環境ではよく生育しても、低温の環境では地上部が休眠するか、または枯死するものがあります。これらを暖地型芝草、または夏芝といいます。ノシバやコウライシバ,バミューダグラス,センチピードグラスなどはこれらの仲間に入ります。
反対に、比較的低い気温の下でよく生育し、高温下では生育が弱って病気が発生したり、時には枯死するものがあります。これらを寒地型芝草、または冬芝といいます。ケンタッキーブルーグラスやフェスク類,ライグラス類,ベントグラスなどはその仲間です。
これらの両者とも栽培が可能な地域は芝草の移行地帯(トランジションゾーン)といい、両者ともある程度の成績はあがりますが、どちらも満点というわけにはいきません。
芝生は長期にわたって使用するものですから、長年の気候の変化を考えて、その高低両極端の温度に耐える安全な芝草を選ぶことが大切です。
型 | 草種 | 地域区分 | |||||
I | II | III | IV | V | VI | ||
寒 地 型 |
ベントグラス類 | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ |
ケンタッキーブルーグラス | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | △ | ||
ライグラス類 | ○ | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | |
ファインフェスク | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | ||
トールフェスク | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | △ | |
暖 地 型 |
ノ シ バ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | |
コウライシバ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | |||
バミューダグラス | △ | ◎ | ◎ | ◎ | |||
バヒアグラス | ○ | ◎ | ◎ | ||||
カーペットグラス | △ | ○ | ◎ | ||||
センチピードグラス* | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
◎最適/○適/△やや適/*改良種「ティフ・ブレア」に適用。
温量指数(℃) 1年間の月平均気温が5℃以上の月について、平均気温から5℃を引いた残りの温度を年間で合計したもの。
気温の点から選べば、関東以西(地域区分IV、V、VI)の家庭の芝草としてふさわしいのは、暖地型芝草すなわち、ノシバやコウライシバ、バミューダグラスでしょう。最近では、非常にキメの細かいバミューダグラス(品種名:リオ)や、ノシバ(品種名:ゼニス)などが流通しています。また、地域区分IVの地域では寒地型芝草でも耐暑性の強いケンタッキーブルーグラス(品種名:ムーンライトSLT)のような改良品種も選択できます。
東北南部など寒さが厳しくない冷涼地(地域区分III)では寒地型芝草のほとんどの種類が利用できます。また、暖地型芝草のノシバやバミューダグラスの耐寒性品種(リオ)も利用できます。
東北北部や北海道(地域区分I、II)では、家庭用としては、寒地型芝草のケンタッキーブルーグラスまたはベントグラスの単播利用や、これらにファインフェスク類(チューイングフェスク、クリーピングレッドフェスク、ハードフェスク)、ペレニアルライグラスを加えた混合が用いられます。
北海道の道東等の土壌凍結地帯ではフェスク類やライグラス類が越冬できない可能性もあるため、ケンタッキーブルーグラスを選びます。
イタリアンライグラスやペレニアルライグラスは、暖地のウインターオーバーシード用として短期的には利用されています。
耐寒性の草種別分類
耐寒性 | 芝草の種名 |
極強 | クリーピングベントグラス |
強 | チモシー、ケンタッキーブルーグラス、コロニアルベントグラス |
中 | クリーピングレッドフェスク、チューイングフェスク、ハードフェスク、トールフェスク、ノシバ、ティフ・ブレア |
弱 | ペレニアルライグラス、イタリアンライグラス、バミューダグラス、コウライシバ、センチピードグラス |
極弱 | バヒアグラス、セントオーガスチングラス |
耐暑性の草種別分類
耐陰性 | 芝草の種名 |
極強 | ティフ・ブレア、ノシバ、コウライシバ、バミューダグラス |
強 | トールフェスク |
中 | コロニアルベントグラス、クリーピングベントグラス、ケンタッキーブルーグラス |
やや弱 | チューイングフェスク、クリーピングレッドフェスク、ペレニアルライグラス、レッドトップ |
弱 | チモシー、イタリアンライグラス |
日光
芝草は緑色植物ですので、光合成(炭酸同化作物)を行って自分の体をつくり、維持しています。そのため一般に日光のよく当たる場所を好み、日陰地での生育は劣ります。
耐陰性の草種別分類
耐陰性 | 芝草の種名 |
極強 | ティフ・ブレア、ハードフェスク、チューイングフェスク、クリーピングレッドフェスク、オーチャードグラス、セントオーガスチングラス |
強 | ノシバ、コウライシバ、クリーピングベントグラス、トールフェスク |
中 | コロニアルベントグラス、レッドトップ、メドウフェスク、ペレニアルライグラス、センチピードグラス、バヒアグラス |
弱 | ケンタッキーブルーグラス、バミューダグラス |
寒地型芝草の中ではファインフェスク類の耐陰性がもっとも強く、ケンタッキーブルーグラスがもっとも弱い草種です。しかしながら、耐陰性品種の育成は容易ではありません。日陰では、芝草は単に、弱光線や乾いた土壌に耐えるだけではなく、うどんこ病、ブラウンパッチ(葉腐病)、リーフスポット(斑点病)、メルティングアウト(葉枯病)、フザリウムブライトなどの病気にも耐えなければなりません。寒地型や暖地型芝草を問わず、耐陰性には草種間に大きな差があり、品種間差も大きいといえるでしょう。
水
芝草には、日光と同様に水も欠くことができないものです。とはいえ、芝草の中にも水を多く要求するものと、比較的要求度の低いものとがあります。
寒地型芝草はどちらかといえば一般的に水を多く要求し、その中でもベントグラス類は特に水を多く要求します。
暖地型芝草は一般に乾燥に耐える性質を持っています。その中でも、バミューダグラスは、干ばつに最も強い芝草です。
耐干性の草種別分類
耐干性 | 芝草の種名 |
極強 | バミューダグラス、ノシバ、コウライシバ、バヒアグラス |
強 | ハードフェスク、トールフェスク、クリーピングレッドフェスク、ティフ・ブレア |
中 | ケンタッキーブルーグラス、レッドトップ、チモシー、 センチピードグラス |
やや弱 | セントオーガスチングラス、ペレニアルライグラス、メドウフェスク |
弱 | イタリアンライグラス、クリーピングベントグラス |
しかし、過剰な水は芝草にとっては害になります。特に水の要求度が高いベントグラスでも、過剰な水には弱いので、芝生をつくる際には、排水設備があることが望ましいのです。
耐湿性の草種別分類
耐湿性 | 芝草の種名 |
極強 | バミューダグラス、クリーピングベントグラス |
強 | チモシー |
中 | メドウフェスク、ケンタッキーブルーグラス |
やや弱 | イタリアンライグラス、ペレニアルライグラス |
弱 | クリーピングレッドフェスク、チューイングフェスク、センチピードグラス |
土壌
芝草は一般的に弱酸性から中性の土壌を好みますが、草種によってその範囲には多少の違いがあります。
日本芝やバミューダグラス、センチピードグラスは酸性に強く、多くの場合、土壌の酸性を矯正する必要はありません。ケンタッキーブルーグラスは、中性から弱酸性ぐらいがよく、pH6以下の土壌では石灰の施用などで矯正する必要があります。
土壌の物理的な性質としては、砂の多い土壌が一般に好まれます。粘土分が多いと土が固くなり、水はけが悪くなって根の伸長が妨げられます。その結果、肥料や水の吸収も少なくなり生育が衰え、病気にかかりやすくなります。一般に家庭の芝生では水をまくことが多いので、砂を多くして、なるべく乾くようにするとよいでしょう。
芝生に適した土壌をつくることは、根の張りをよくし、後の管理を楽にします。労力を惜しまず、丁寧に行いましょう。
芝草の土壌pH適応範囲(Musser、1962 その他)