タネから植物を育てる場合、タネまきした場所でそのまま収穫まで育てる直まき栽培と、まき箱などにタネまきして黒いポリエチレン製のポット(ポリポット)などに鉢上げし、その苗を育苗後、定植して栽培する方法があります。
ダイコンやニンジンなどのように直根性で、移植すると品質が著しく低下する種類では、直まきをすることが必要で、袋栽培の場合には、直接袋にタネまきをする方法と、ポリポットなどにタネを直まきして、芽を出させてからそのポットの中身をそのまま袋に定植して栽培する方法とがあります。
ダイコンやニンジンでは図に示すように点まきといって、タネを1カ所に3〜4粒ずつ一定の間隔をあけて軽く押し込んでまきます。袋栽培の場合には、2〜3カ所にタネをまき、発芽して、育芽後、1カ所に1株となるように間引きをします。
ポットで育苗して定植する場合、管理する面積が少なくてよいこと、良苗を選んで植え付けられること、また、苗が生長する間に植え付ける場所の準備ができることなどの利点があります。
タネの発芽には、水と酸素の両方が必要なことから、タネまき用土には特に保水性と排水性に優れたものを選ぶことが大切です。最近、この条件を満たしたタネまき用土が市販されていますので、入手できればこれをそのまま用いることができます(タキイの「たねまき培土」など)。しかし、タネまきの用土を自分で配合して準備するのも楽しいもので、それほど難しいものではありません。
まき箱などにタネまきして鉢上げ・育苗する場合のタネまき用土として、筆者の大学では以下の2種類の用土をつくって組み合わせて用いています。 第1の用土としては、袋栽培などの容器栽培用の基本的な培養土を用います。この培養土は、山土、砂、腐葉土、堆肥、ピートモス、バーミキュライトなどを混合したものです。
この配合土10リットルに対して30g程度の苦土石灰と、さらに肥料として、50g程度の被覆肥料(化成肥料)「マグァンプK」を加えます。 市販の培養土は便利ですが、肥料の入った培養土と肥料の入っていない培養土とがありますので、よく確かめることが必要です。肥料を含まないで土壌pHも未調整の培養土には、苦土石灰や被覆肥料を入れることが必要です。
第2の用土として、ピートモスとバーミキュライトを等量混合したもの(両者の名称を合わせてピートライトともいう)をつくります。この用土は乾燥しているので、混合するときに少し水をかけて、適度に湿らせることが必要です。
こうしてつくった二つの用土を育苗箱か浅い鉢などに、まず被覆肥料を入れた培養土を入れ、その上に、ピートモスとバーミキュライトを等量混合したピートライトを入れます。(第1図)
こうした2種類の用土を二段重ねにした用土をタネまき用土として用います。
この二段重ねのタネまき用土の特徴は、上半分のピートライトの層にタネがまかれるため発芽が促され、そして発芽後伸長してきた根が、下半分の被覆肥料を含む培養土の層へ達すると、そこでその肥料を徐々に吸収することにより、苗を順調に生長させられる点で、追肥も特に与える必要がありません。
トマトやナスのような小さなタネをまいて苗を育てようとする場合、この二段重ねのタネまき用土を用いてタネまきを行えば、育苗が容易で多くの苗を確実に得ることができます。同じ用土を用いて、サルビアやパンジーなどのほか、さらにタネが微細なトレニアやペチュニアなどの草花のタネまき、育苗もできます。
育苗箱などに被覆肥料を含む培養土(例・容積比…山土50%、砂10%、バーク堆肥20%、ピートモス10%、バーミキュライト10%)を3cm程度入れて、その上に、ピートライトを3cm程度入れます。
表面を平らにならした後、用土が乾いていれば、少し潅水します。このとき、表面の用土が移動しないように、潅水の水圧を注意して調節します。
タネまき法には、ばらまき、条(すじ)まき、点まきがありますが、育苗箱でまく場合、タネがごま程度の大きさ以上であれば、条まきが簡単です。条まきでは、指で3〜5cm間隔に約1cmの深さのタネまき溝をつくり、この溝に、タネとタネの間が1cm程度の間隔となるように指でタネをもむようにしてまきます。まいた後は、タネまき溝をなくすようにタネの上に周囲の土をかけて覆土します。覆土は、タネの高さの2〜3倍程度を標準とします。
微細なタネをまく場合には、用土の表面を平らにならした後、ハガキのような厚さの紙を準備して、二つに折り、その間にタネを入れて、その紙を指で軽くたたいてタネを紙の端から落としていって、ばらまきにします。タネをまいた後、覆土はせずに、潅水は底面給水の方法で行います(第2図)。
タネまき後、j条まきの場合と同様に、頭上潅水するとタネが動くので、発芽までは無潅水でよいように新聞紙やキッチンペーパーなどで覆って乾燥を防ぎます。そして、新聞紙の上からジョウロで新聞紙を湿らせる程度に潅水して発芽まで管理します。発芽が始まると、この覆いは夕方に取り除き、光を十分に当てて育苗します。
実際にまく方法は上述の通りですが、いつタネまきするか、まき床の温度をどのように管理するかという点がとても大切です。
トマトやナスなどの野菜を5月の中旬に定植できる苗を自分で育苗しようとする場合、京都では、桜の開花後、3月の下旬に加温できる苗床の工夫をしてタネまきをします。タネまき床を加温・保温できるスペースからタネまき量が決まってきます。育苗箱を加温・保温することができる場所があれば、そこでタネまきし、その苗を鉢上げするころには、鉢上げ苗を保温する場所を準備することが必要です。苗作り用のヒーター付き発芽育苗器、セット等が販売されていますので活用するのもいいでしょう。ポットに直まきは便利ですが、上述の育苗箱によるタネまきよりはタネまきしたポットを保温する広い場所が必要です。
加温・保温せずに苗作りをする場合には、遅霜の心配がなくなった4月下旬からタネまきをすることができます。この場合、定植できる苗に育つのは、5月下旬以降になると思われます。
秋からのブロッコリーやハクサイの育苗では保温する場所なしにタネまきができます。
上述の用土を用いる方法以外でタネまき育苗する方法もあります。それはタネまき用土を購入して準備し、その用土を用いてタネまき育苗する方法です。タキイ種苗の「タネまき培土」を用いる場合には、その用土をそのまま用いて、条まき、ばらまきを行って育苗します。ポットへの直まきも「タネまき培土」で可能です。さらに、近年市販されていますセルトレイ(例えば、40mm口径×50mm深さ、72穴)の各セルに培土を入れ、そこに1粒ずつタネまきして育苗することもできます。市販のタネまき培土は乾燥していますので、タネまきの前に用土を十分に湿らせることが必要です。まき方や覆土の仕方は上記しました育苗箱でのタネまきの場合と同様です。
トマトのタネをこの方法で条まきして発芽させ、育苗している様子を写真で示します(写真1)。こうして生長した苗をポリポットに鉢上げしてさらに育てます(写真2、3)。ポットに移植するときの土は、前述の被覆肥料の入った培養土です。そして、本葉が数枚展開する定植可能な大きさの苗に生長させます(写真4)。
ポットに直まきをするときの土も、被覆肥料の入った培養土を使います。タネの大きなスイートコーン、オクラ、スイカ、エダマメ、キュウリなどでは、ポットへの直まきがたいへん便利です。ポットに土を入れた後、指で1cmほどの深さの穴をあけて、そこにタネを1粒ずつまいていきます(写真5)。トマトも直まきすることができます。
全部まき終わってから覆土をして潅水します(写真6)。そして、写真のように定植できる苗に育てます(写真7〜9)。