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野菜

山田式家庭菜園教室
〜Dr.藤目改訂版〜

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秋まき野菜はまきどきを外すとすんなり育ってくれない

早まきするとどうなる?

秋まき野菜は春まきに比べてタネまきの適期幅が短いので、早まきすると次のような障害が起こりやすくなります。

1)タマネギは早まきすると収量が上がらない

タマネギの播種時期の目安は、暖地では極早生種は9月上旬、早生種は9月下旬、中生種は10月初旬です。詳しくはタネ袋を参照しましょう。播種時期を間違えて早まきすると苗が大きく育ち、第1図のように不時抽苔(季節外れのトウ立ち)したり分球したりして、収量が上がりません。花芽ができるとわき芽が生長を始め、分球が起こります。そこで、早生種のまき時期に遅れたら中生種を、中生種のまき時期に遅れたら晩生種をまくようにします。

第1図タマネギの一生(加藤 原図に加筆)

タマネギの一生(加藤 原図に加筆)

タマネギは早まきしても、日照時間の長さ(日長)がある長さに達しなければ肥大しません(第1表)。タマネギの球形成には冬季の低温経過が関係し、さらにその後、春の温暖・長日条件で結球が誘導されます。各品種には肥大開始に好適な温度と日長があり、栽培地に適した品種選択が重要になります。肥大を開始する日長は、早生種で12時間前後、中生種で13時間前後、晩生種で13.5時間前後です。たとえ早まきしても、植えた品種に好適な日長にならないと肥大は起こらず、適期にまいた株と同じ時期に肥大を開始します。

第1表日本のタマネギ一般種の結球に必要な限界日長(阿部ら, 1955 表記を一部編集)

日本のタマネギ一般種の結球に必要な限界日長(阿部ら, 1955表記を一部編集

2)早まきするとニンジンやホウレンソウは高温では発芽不良になる

高温時期に早まきすると、ホウレンソウやニンジンでは発芽率が低くなります(第2〜3図)。ホウレンソウの発芽適温は15〜20℃で、ニンジンは15〜25℃です。適温でタネをまくとそれぞれ75〜85%、70%ほど発芽します。

しかし、早まきして発芽適温よりも気温が高いとホウレンソウの発芽率は低下し、35℃ではわずか10%ほどしか発芽しません。しかも、発芽に7〜8日もかかります。ニンジンの「時無五寸」を気温の高いときに早まきすると、発芽率は極端に低くなります。「金時」の場合でも、35℃では発芽率が10%程度に低下し、生育は極めて悪くなります。

第2図ホウレンソウの発芽と温度(稲川ら1943)

ホウレンソウの発芽と温度(稲川ら1943)

第3図ニンジンの発芽と温度(琴谷1955, 稲川1943より合成作図)

ニンジンの発芽と温度(琴谷1955, 稲川1943より合成作図)

3)早まきは大苗になり寒害を受けやすい

エンドウやソラマメは10〜11月(直まきについては11月に入ってから)にタネをまき、春に収穫します。各栽培地では品種ごとに決まった播種時期があり、時期を間違えると順調に生育しません。大苗に生長すればよいわけではなく、株の大きさで耐寒性が変化するからです。

エンドウでは本葉2〜3枚時に最も耐寒性が強く、ソラマメでは本葉約5枚までは耐寒性があります(第4図)。早まきすると株が大きくなりすぎて耐寒性が弱くなり、生育不良になったり枯れたりします。大株になった場合は、敷きわらやマルチ、べ夕がけをして寒害を防ぎましょう。エンドウの花芽ができるには、生育初期に、低温にあう必要がありますが、春まきでは低温にあう期間が不足するため、花芽ができません。

第4図エンドウは早まき・春まきを避けて、適期にタネまきをする

エンドウは早まき・春まきを避けて、適期にタネまきをする

4)大株になりトウ立ちしやすい

関西で栽培の多い東洋系の金時ニンジンは、主としておせち料理に使うため、年内に収穫する必要があります。「金時」は中間地・暖地では梅雨明けの7月上旬〜8月中旬に夕ネをまきますが、収量を上げようとして早まきし、施肥量を多くしがちです。

金時ニンジンは第2表に示したようにほかの品種に比べて極めて小さい株で低温に敏感に反応し、茎が急速に伸びる抽苔を起こすため、早まきは厳禁です。

第2表ニンジンの花芽分化開始時の生育

ニンジンの花芽分化開始時の生育

  • ※抽苔は植物体の大きさ(第1要因)+ 低温(第2要因)+ 抽苔適温(第3要因)+長日(第4要因)に大きく左右される。

遅まきするとどうなる?

適期よりも遅れてタネをまくと、気温がどんどん低下する時期なので生育が進まず、さまざまな障害が起こります。

1)収穫時期が大幅に遅れる

ホウレンソウは第5図で示したように、極端にタネまきが遅れると気温が下がる時期に重なり、発芽率は低下しなくても発芽までにかかる日数が長くなります。ホウレンソウは種皮の上にかたい果皮が覆っていて発芽が困難な種類ですが、タキイの場合なら水分の吸収特性を向上させた「エボプライム種子」などが開発され、発芽率は飛躍的に高まっています。

第5図徳島県におけるホウレンソウの秋まき栽培型(阿部より抜粋)

徳島県におけるホウレンソウの秋まき栽培型(阿部より抜粋)

第5図の「秋まき年内どり」型と「秋まき厳寒期どり」型では、8月下旬〜9月下旬に早まきした場合は約1カ月で収穫できるのに対し、10〜11月に遅まきした場合には気温の低下にともない生育が抑制され、収穫が可能な大きさになるには2カ月以上もかかっています。

また第6図は「三浦ダイコン」の例です。適期の9月10日ごろにタネまきした場合は、約3カ月後に収穫が始まります。5日遅れでまくと、収穫までに約半月多くかかります。15日ほどのまき遅れでは、収穫までに約2カ月多くかかることが分かります。遅まきでも中間地では9月下旬が限界で、これより遅くなると気温が低下して発芽適温に至らず、十分に生長しません。ミニダイコンは、10月上旬くらいまでであればタネをまけます。

第6図三浦ダイコン 9月まき12〜3月どり栽培(三浦市 鈴木亀吉さんの例)

三浦ダイコン 9月まき12〜3月どり栽培(三浦市 鈴木亀吉さんの例)

2)花蕾形成が遅れ、収量が低下

花菜類のカリフラワーやブロッコリーでは、植物体が一定の大きさに生育してから15〜20℃の低温に当たることで出蕾し、花蕾が大きくなります。品種の早晩性が晩生種になるほど、花蕾形成には株がより大きくなってから、さらにより低い温度に長時間当たることが必要です。

したがって、早生種を遅まきすると低温のため生長できなくなります。一方で晩生種を早まきすると、生長できても低温不足により花蕾は大きくなれません。

カリフラワーやブロッコリーは出蕾時の葉数が多いほど大きな花蕾ができます。そこで、適期にまいて葉数が十分増加してから、低温に当たることが重要になります。

異常気象にも気をつけよう

1)長期予報を参考に播種時期や品種、肥料を設定

最近は異常気象が頻発しています。たとえタネを適期にまいても、多肥にしてしまった場合は暖冬の年は大苗になり、寒害のリスクもありますし、抽苔のリスクもあります。暖冬になるか、寒波が来るかは長期予報を参考にして播種時期を決めましょう。例えば、冬の冷え込みが例年より厳しい予想であれば、播種日を5〜10日くらい早めるほか(ただし、ソラマメやエンドウを除く)、低温に強い品種を選ぶようにします。あるいは高温多雨の予想であれば、播種日を5〜10日くらい遅らせるか、耐病性のある品種や早晩性で収穫時期の遅い品種を選ぶなどして対応するとよいでしょう。

マメの仲間のソラマメやエンドウでは、根に共生する根粒菌がチッソをつくるので、チッソ肥料は少なめにします。最近の複合肥料ではチッソ・リン酸・カリの3要素が含まれるため、チッソが多くなりがちです。ほかの野菜でも堆肥を入れすぎるとチッソ過多になり、暖冬のときと同様に生育がよく寒害を受け、抽苔しやすくなります。

2)段まきや早晩性の使い分けで収穫期を分散

寒波が来ると遅まきしたときと同様に、苗の生育が進まず収穫が遅れ、収量が低下します。早めに敷きわらやマルチをして地温を高めて根の傷みを防ぎ、べ夕がけをして茎葉を寒さから保護しましよう。さらに追肥回数を増やし、生育促進を図ります。

気象変化に対しては、一度にすべてのタネをまかず、播種日をずらす「段まき」も有効です。気候不順な年にはタネまきの予定日に加えて、その5〜7日前後も含め合計で3回タネをまけば危険は分散されます。あるいは早晩性の異なる品種を利用してもよいでしょう。

特に家庭菜園では1回で収穫するより、長期間にわたって収穫する方が適しています。「三浦ダイコン」の例のように、秋まき野菜の播種適期は短いので、段まきすることにより収穫時期の遅れを逆に利用し、収穫時期を広げられます。

キャベツなど結球する野菜では、遅まきすると結球不良になります。キャベツの球ができるには、葉が20枚前後できていることが必要で、その後、幅広になった葉が立ち上がって結球体制をとります。そのため発芽とその後のスムーズな生育が重要です。