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野菜

山田式家庭菜園教室
〜Dr.藤目改訂版〜

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野菜のメカニズム〜花芽分化〜

花とは何でしょう?

大変おかしな質問ですが、花芽とは具体的に花の形をしているものではありません。今まで成長点で葉を形作っていたものが、花を形作るように性質が変化した段階から、花芽が分化したといわれます。それまで葉を形成していたところで、形の変わった葉の形成を始めるわけです。形の変わった葉とは、萼、花弁、雄しべ、雌しべと呼ばれるもので、これらを総称して「花葉」と呼んでいます。萼、花弁、雄しべ、雌しべは葉が形を変えた(変態した)ものなので、花が茎の先(成長点)や葉腋(わき芽)につくのは、そのためなのです。

ところが、1カ所に一つだけ花がつくのかといえば、そうではありません。花芽が生育する段階で複数の花を作る場合もあります。それを「花房」と呼びます。トマトなどはその典型的なもので、花梗(茎)が次々と枝分かれをし、その先に花をつけるのです。

トマトを育てた人なら、必ず経験しておられると思いますが、大変よく育ったとき、花房の先端から茎が伸びて葉をつけることがあります。これは花梗の先端の芽が先祖返りをして葉芽になったために発生する現象です。栽培上はチッソ過多が原因ということになっていますが、この現象を見ても、花は葉になるべきものが、体内のホルモンの影響で変化したことを示唆しています。

第1図花芽の分化・生育の過程模式図

花芽の分化・生育の過程模式図

花はなぜ咲くのでしょう?

野菜の茎葉はいつも順調に生育が進むのではなく、栄養状態が悪くなれば花芽をつけ、タネを早くならせようとします。キュウリは低温で花芽ができやすくなりますが、栄養状態が悪い場合には葉が十分に増えないで、茎頂に花芽だけがつくようになります。これがかんざし苗です( 写真1) 。かんざし苗になれば葉の生長も悪くなり、花も発育できないで落花します。そこで、早めに追肥をして、栄養状態をよくしてやります。

写真1キュウリのかんざし苗

キュウリのかんざし苗<

写真2かんざし苗になったオクラ

かんざし苗になったオクラ

オクラもかんざし苗になります (写真2) 。草勢が悪くなる原因は日照不足、気温低下、極端な乾燥・過湿による根傷み、肥料不足などです。そこでタネまきは、気温が15℃以上になってからにします。花より上の葉数が少なくなった状態では、追肥や潅水をこまめにします。また、オクラの栽培で肥料の全量を元肥にすると、栄養過多のつるボケになり、花つきが悪くなります。元肥は施肥量の3分の2とし、3分の1を追肥とします。

ナスは花の雌しべの形で、栄養状態が判断できます。栄養状態や環境条件が悪いと、雌しべの花柱が短い短花柱花になり、受粉・受精が不良になり落花します(第2図)。追肥をするとともに環境条件を改善し、素質のよい花を咲かせるようにします。

第2図ナスは雌しべで栄養状態を判断

ナスは雌しべで栄養状態を判断

ナスの花は下向きに咲き、やくの先端が開いて花粉が出てくる。

花を咲かせたい果菜と咲かせたくない葉根菜

花芽がつくと、それまで根や茎葉に移動していた養分は、花芽に集中して移動するようになります。例えば、ブロッコリーは花蕾ができるころから地上部の重さ、特に花蕾の乾物重が増加しますが、葉や根は逆に軽くなります(第3図)。

つまり根菜や葉菜では、収穫する根や茎葉に養分がいかず、品質が悪くなります。そこで、ダイコン、キャベツなどの葉根菜では、花芽をつけないように栽培管理をします。一方トマト、ナスやブロッコリーなどの果菜や花菜では、積極的に花芽をつけさせるとともに、茎葉を旺盛に発育させることが重要となります。

第3図ブロッコリーの花蕾形成に伴う部位別の乾物重変化

ブロッコリーの花蕾形成に伴う部位別の乾物重変化

花ができる仕組みとそれを抑える処理は?

花芽を形成させる要因として@温度、A日長、B栄養の3つがあります(第1表)。

第1表野菜の花芽形成の主要要因

野菜の花芽形成の主要要因

1)低温と高温の作用

秋まき野菜の多くは、花芽ができるには低温にあたる必要があります。これを春化といいます。ハクサイやダイコンは、発芽しかけたタネが0〜5℃くらいの低温にあたると、その後に花芽ができます(種子春化)。しかし、タマネギや、ニンジン、ブロッコリーは、一定の大きさになってからでないと、約5〜10℃の低温に反応できません(植物体春化)。これらの野菜では、茎頂とわき芽で低温刺激を受け取っています。

また、どちらの低温要求型の野菜でも、低温を受けた後に約25℃以上の高温にあたると、花芽はできなくなります(脱春化・第4図)。ただそのときの反応は夜温によって違いますので、後で詳しく説明します。

第4図花芽分化に対する低温と高温の働き合い

花芽分化に対する低温と高温の働き合い

春先に収穫するダイコンなどでは、トンネルをかけると昼間は高温になるため、夜間が低温であっても花芽ができるのを遅らせることができます(第5図)。

第5図ダイコンの抽苔とトンネル被覆内気温の関係

ダイコンの抽苔とトンネル被覆内気温の関係

逆にブロッコリーなどで花芽形成を促進させたい場合には、品種を選ぶだけでなく低温にあたるように播種時期を選ぶことが大切になります。

一方、レタスは25℃以上の高温に、ある期間あたると花芽ができます。花芽ができると抽苔し、せっかくできた球がゆるくなってしまいます。そのため、レタスの高温期の栽培は高冷地に限られます。暖地などでは栽培地ごとに適した品種を選択し、播種時期を守ることが重要になります。

2)低温の量的要求と質的要求

秋まき野菜の多くは、花芽ができるのに低温要求性を持っています。それぞれの野菜には最適とされる低温があり、その温度に近いほど花芽は早くできますが、それほど低温でなくても、葉数が増加すれば花芽ができます(量的要求、第6図)。

しかし、キャベツの晩生種などでは最適の低温に、しかも数週間以上あたらないと花芽はできません(質的要求)。このような量的あるいは質的反応は、光周性(昼の長さと夜の長さに応じて生物が示す現象)にもあります。

第6図春化の質的要求(S)と量的要求(R)(Wiebe、1989を修正)

春化の質的要求(O)と量的要求(F)(Wiebe、1989を修正)

3)植物体春化型の野菜でも、発芽時の低温は影響を与える

キャベツやカリフラワーはある程度生長してから低温に反応する植物体春化型の野菜ですが、発芽時〜幼苗期に遭遇した低温の効果は体内に残っていることが分かってきました(第2表)。

そのため、生育初期に低温に遭遇していると、低温に遭遇していない場合に比べて早期に花芽を形成しやすくなります。その効果は極めて弱く、種子春化だけでは花芽はできませんが、一度受けた低温の効果は体内に残っており、その後に受けた低温量にプラスされて、合計で低温要求量が満たされると、花芽ができます。ですから春から初夏にかけて低温期に育苗する場合には、不時出蕾などが起こる危険性があり、タネまき時期や育苗温度に注意をします。

第2表カリフラワーの花芽発育に及ぼす種子低温処理の影響(藤目、1983)

カリフラワーの花芽発育に及ぼす種子低温処理の影響

※0:未分化、1:膨大期、2:花蕾形成前期、4:花蕾形成後期
2以降で花蕾形成と判定

4)低温に反応する生育時期と要求量

植物体春化型の野菜では、発芽後ある日数(苗齢)がたってから低温に反応するようになり、さらに低温下で一定期間経過した後、花芽ができます。カリフラワーを例に見ると、早晩性の早い品種ほど発芽後の週数が短い、若い苗齢で低温に反応するようになります(第3表)。また早晩性の早い品種ほど、花蕾形成に必要な低温日数も短くなります。

第3表早晩性の異なるカリフラワー7品種の花蕾形成条件
(藤目、1983)

早晩性の異なるカリフラワー7品種の花蕾形成条件

※D:直接作用型(低温に当たっている時に、花蕾を形成)
I:誘導作用型(低温を経過後に、生育して花蕾を形成)

※用いた品種は変わっても早晩性での反応はほぼ同じです。

5)夜温の低温効果は高い昼温で打ち消される

カリフラワーやブロッコリーでは、低温に遭遇する必要があるため、春か秋にタネをまきます。低温効果は毎日植物体内に蓄積されていて、その蓄積量が一定の量を超えると花芽ができます。トンネルをかけても夜温は変わりませんが、昼間に高温が保たれれば、夜間の低温効果をある程度打ち消します。これを脱春化といいます。

昼温と夜温を変えてカリフラワーを育ててみると、夜温が10〜15℃のときだけ花蕾が形成されます(第7図)。ただし、それは昼温が10〜20℃の範囲の場合で、昼温が25〜30℃であれば花蕾は形成されません。

毎日の夜間の低温効果は、日中の気温が高ければある程度打ち消されています。そのためトンネルをかけて花芽ができるのを抑えるにあたって重要なのは、高温を毎日保つことです。曇雨天で気温が低くなる場合は花芽を形成しやすいので、保温に注意します。

第7図カリフラワーの花蕾形成に及ぼす昼夜変温の影響

カリフラワーの花蕾形成に及ぼす昼夜変温の影響

6)日長の作用

日長によって、花芽形成の時期が左右される性質が光周性です。葉が日長の刺激を受け取っています。秋の短日期や遮光などで日長をある長さ(限界日長)より短くして、10時間程度にすると花芽を形成するのが短日植物(SDP)です。短日植物にはイチゴやシソがあります。イチゴに早く花芽をつけさせるには、遮光をして日長を短くするとともに、気温を15℃くらいにしてやるのが効果的です。

逆に花芽がつくのを遅らせるには、夕方から補光をして日長を14時間程度の長さにしてやるか、真夜中に1〜2時間の補光(光中断:光による暗期の効果の打ち消し)をするようにします(第8図)。秋にハウスのイチゴ栽培で電灯照明をしているのは、花芽ができるのを遅らせているのです。花芽ができるのは短日だからではなく、長夜で誘導されるからです。そのため、夜が長いときの真夜中に短時間の補光をすると、暗期が連続せずにとぎれる(光中断)ため、花芽ができなくなります。

一方、夏の長日期や、日長がある一定の時間より長くなるように補光して14時間程度にすると、花芽ができるのが長日植物(LDP)です。長日植物の例としては、ホウレンソウやシュンギクがあります。

また、日長に関係なく花芽ができるトマトやナスは中性植物です。

つまり、花芽を早くつけさせるには、短日植物では遮光などをして短日にしてやり、長日植物では補光をして長日にしてやればよいことになります。

第8図長日植物(LDP)と短日植物(SDP)の花芽形成に対する暗期中の光中断効果(Hess, 1979)

長日植物(LDP)と短日植物(SDP)の花芽形成に対する暗期中の光中断効果(Hess, 1979)

SDP:short-day plant / LDP:long-day plant

なお、街灯あるいは高速道路の近くに畑があり、照明が野菜に届いている場合には、たとえ弱光であっても長日効果を示します。その結果、短日植物では花芽形成が遅れ、長日植物では花芽ができるので、注意が必要です。

7)温度と日長の組み合わせで相乗作用が起こる

花芽ができるには低温が作用する春化反応と、日長が関係する光周性反応があります。これらは別々に働くのではなく、相互に関係しています。例えばブロッコリーの場合は、早生品種では気温が上昇する初夏でも花蕾ができるため、低温要求性はないと思われていたこともありました。しかし、低温が必要ないのではなく、そのときの日長が「長日条件」であったため、花芽ができやすくなったのです。 

下の図は、ブロッコリーの3品種を15℃での長日・短日条件と、20℃での長日・短日条件で育てたときの花蕾形成を示したものです(第9図)。

その結果、長日条件であれば、花蕾ができる低温の範囲が広がることが分かりました。このような性質は「温度と日長の相乗作用」と呼ばれており、ほかの野菜についてもこの作用が認められています。

第9図ブロッコリーの花蕾形成に及ぼす温度と日長の影響

ブロッコリーの花蕾形成に及ぼす温度と日長の影響

8)栄養状態

ナスやトマトでは、ある程度生育すれば、温度や日長にかかわりなく花芽ができます。
多くの果実をつけさせるには株全体の生育を促進し、充実したよい花をたくさんつけさせることが重要です。花芽ができるのを促進して花数を増やすには、植物体内のチッソ成分に対する炭水化物の比率(C/N率)を大きくしてやることが有効です(第4表)。

ただし、比率だけでなく表の「第3の場合」のように、十分なチッソ成分があり、さらにそれを上回る炭水化物がある場合に花芽形成は良好で、結実も促進されます。

イチゴをポットで育苗すると、苗床育苗に比べて、C/N率のコントロールが容易で病気の伝染も防げるため、最近ではほとんどがポット育苗になっています。

第4表花芽ができる炭水化物・チッソ関係4つの場合(香川, 1967)

花芽ができる炭水化物・チッソ関係4つの場合(香川, 1967)

トウ立ちとは何か?

花芽がついた茎が伸びることをトウ立ちまたは抽苔(ちゅうだい)といいます。第3図で見たように花芽がつくと、それまで根や茎葉に運ばれていた養分は花芽に集中します。

そのため葉根菜では花をつけさせないように管理します。ダイコンやキャベツ、レタスなど葉根菜の多くは、栽培中にほとんど茎が伸びません。このような茎を短縮茎と呼び、キャベツやレタスでは結球の中心に短縮茎があり、ダイコンでは地際部分に根のように見える茎(下胚軸)があります(第10図)。

花芽ができると花芽をつけた短縮茎が伸びるようになり、これがいわゆるトウ立ち(抽苔)で、球はゆるんでスカスカの球になります。一方トマトやナスでは花芽をつけた茎が伸びても単なる茎の伸長であり、短縮茎が伸びるトウ立ちとは異なります。

第10図トウ立ちが起こる前のキャベツとダイコンの短縮茎

トウ立ちが起こる前のキャベツとダイコンの短縮茎

※文中で紹介している品目や品種にはタキイでは取り扱いのないものもございます。ご了承ください。