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野菜

山田式家庭菜園教室
〜Dr.藤目改訂版〜

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葉根菜の生育診断とチッソ

野菜の生育はS字カーブ

野菜に限ったことではないのですが、生物の生長は直線的に進むものではありません。

第1図に、ニンジンの生育経過をあげました。葉と根の生育曲線は、S字カーブを描きながら増加します。葉の生長が盛んになるころと、根の生長が旺盛になるころの間には、40日くらいの「ずれ」が見られますが、平行して進んでいることがよく分かります。つまり、ニンジンでは葉の生長と根の生長の間に、正の相関が見られるということです。

第1図ニンジンの生育過程
(長崎農試 1965抜粋)

ニンジンの生育過程(長崎農試 1965抜粋)

ニンジンの根で吸収された養水分は維管束の木部を通って茎葉へ運ばれます。葉では水分・炭酸ガスを使って光合成産物が作られ、維管束の師部を通って貯蔵器官である根に運ばれます。ニンジンの収量を増やすには、果菜類とは異なり、葉を立派に育てることが大切、ということになります。

葉の生育が根や球の肥大に大きく作用することは、第2図のタマネギの調査結果からも分かります。同じ大きさの苗を植え付けて、活着後の新葉が出始めたときから、常に2枚しか葉をつけさせないように外葉を摘み取った株と、4枚の状態にした株、6枚の状態にした株を作ります。すると、葉の枚数によって、収穫できる球の大きさに差が出てきて、葉を多く残すほどタマネギの球は大きくなっています。タマネギは根菜ではなく葉菜です。ただ葉に2種類あり、地上に出ている葉で光合成をし、光合成産物を土の中にある貯蔵葉に蓄積して球が肥大します。

第2図タマネギの葉数と球の横径の変化
(山田 1971)

タマネギの葉数と球の横径の変化(山田 1971)

栄養診断で肥料成分の効き具合を知る

第3図に、主な肥料成分の欠乏症状を示しました。チッソ成分が不足すると、葉の色が薄くなり、また葉の大きさが小さくなります。逆に過剰になると、葉の色が濃くなるとともに葉も大きくなります。葉の大きさ、色などの変化からある程度、肥料成分の過不足を知ることができます。肥料成分によっては、葉以外の茎、花、果実などの色や形から、過不足を知ることができます。

肥料成分の欠乏症状が現れた場合には、液肥を薄めて葉面散布をすることにより、急速に症状を改善できます。

第3図肥料の欠乏と症状、障害例(小林, 2004)

肥料の欠乏と症状、障害例(小林, 2004)

第1表に代表的な野菜について、どの肥料要素が欠乏しやすいかを示しました。葉菜類では、チッソに加えて特にカリ、カルシウム、マグネシウムが欠乏しやすく、根菜類ではチッソに加えて、カリウム、マグネシウムが欠乏しやすいようです。

第1表どの作物にどの要素欠乏が起こりやすいか
(「住友肥料手帖」瀬古龍雄より)

どの作物にどの要素欠乏が起こりやすいか

野菜はチッソを硝酸塩やアンモニア塩の形で根から吸収しています。無機態チッソのうちアンモニア塩は、酸素の多い畑では微生物の働きによって酸化し、硝酸塩に変化します。野菜などの畑作物には、硝酸塩をよく吸収する性質があります。これと光合成で作った炭水化物から、さらにアミノ酸やタンパク質を作り出しています(第4図)。しかし、施肥量が適量であっても、曇天だったり気温が下がったりして十分に光合成が行えないと、吸収した硝酸塩は利用されないでそのまま体内に残ります。そのような野菜には多量に硝酸塩が含まれており、もし人間が食べると、それが体内で亜硝酸に変化し、発がん性物質であるニトロソ化合物になることが指摘されています。ただし、通常摂取する程度の硝酸塩であれば、それ自体、特に人体に有害なものではありません。EU(欧州連合)ではレタスとホウレンソウなどについて硝酸塩の基準値を決め、注意を呼びかけています。日本でもかつての野菜品種は、多肥条件下であっても過剰な栄養生長をしないものでしたが、最近では、少肥条件下で正常に発育する品種育成に変わってきていますので施肥量は増やさずに適量を守りましょう。

第2表に、葉根菜に含まれる硝酸濃度の高い野菜を示しました。

第4図チッソの吸収と利用

チッソの吸収と利用

第2表硝酸濃度の高い野菜例
(可食部)(小林, 2004)

硝酸濃度の高い野菜例(可食部)(小林, 2004)

葉を大きく育てるには根が大切

先に、ニンジンでは葉の生長と根の生長の間に、正の相関が見られることを説明しました。キャベツやハクサイなどで、大きな球を収穫したいときはどうすればよいのでしょうか?

答えは、よい根を育てることです。キャベツなど葉菜類では、外葉で光合成を行いながら、光合成産物を新しい葉に送って、新しい葉から順に結球していきます。根は土の中に伸びているので、旺盛かどうかを判断することは難しいのですが、葉の生長が思わしくないときは、必ず根が何らかの原因で障害を受けています。地ごしらえのときに、堆肥などの有機物をできるだけ多く投入して、深く耕して通気性を改善してやれば、根がよく伸びて球重も増加します(第5図)。

第5図土壌の通気性とキャベツの根と
茎葉の生長(住田, 1955)

土壌の通気性とキャベツの根と茎葉の生長(住田, 1955)

チッソの効き方は?

古くからチッソは葉肥、リン酸は実肥、カリは根肥などといわれています。今日でも少し肥不足かな?と思ったとき、チッソだけをちょっと効かせるという方法をとる人もいます。実際、このような使い方には効果があるのでしょうか?

第6図のように、キャベツ栽培で、生育期間中の一時期にチッソを与えなかった場合、それが生育の初期であれば、影響はほとんど現れません。しかし、生育が後期に進むにしたがってチッソを与えないでおくと、チッソ不足が影響して球重を軽くすることが明らかになっています。

第6図チッソの無施用の時期とキャベツの生育(岩田, 1969より抜粋作図)

チッソの無施用の時期とキャベツの生育(岩田, 1969より抜粋作図)

その反対にニンジンでは、生育初期にチッソを与えなければ根重の増加を悪くしますが、生育が進むにしたがってチッソを与えないでいても、その影響は小さくなり根重は減少しません(第7図)。これは、生育初期にチッソを与えておかないと、茎葉の生長に大きなダメージを与えるからです。それが、その後もずっと尾を引き、根の生長を妨げる主要な原因となっているのです。

このようにチッソを減少させた影響は処理をする生育時期により異なり、またその反応は野菜の種類によっても異なるようです。

それでは、チッソの施用量を多くすれば、生育はどうなるのでしょうか?

セルリーの栽培では、一般的な施肥量はN:P:K=6:4:4程度になっていますが、第8図の調査結果では、それよりチッソを少し減少させた方が葉の伸びがよくなり、チッソ量を多くしたら逆に葉の伸びが悪くなっています。セルリーは本来、多肥栽培がよいといわれる野菜ですが、あまりチッソだけを多く与えすぎると、このように葉の伸びが妨げられることになるので注意が必要です。

セルリーだけでなく二十日ダイコンでも、チッソ過多になると、葉の生育が抑制されます。葉根菜類は、チッソ肥料を適切に施せば、大きな球や根の収穫に結びつくのですが、施肥の仕方によっては、球の肥大や根の太りを妨げる結果になることもあります。このためチッソを与えすぎないよう、配慮してください。

第7図ニンジン栽培でのチッソ中断期間と根重の関係

ニンジン栽培でのチッソ中断期間と根重の関係

第8図セルリーの生育とチッソの効果
(山田, 1965)

セルリーの生育とチッソの効果(山田, 1965)