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野菜

山田式家庭菜園教室
〜Dr.藤目改訂版〜

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夏・秋野菜の苗作りと直まき

キャベツやハクサイの苗作りをするメリットは

葉菜類の直まきをすると、長期にわたって畑を使うことになります。特に発芽後の生育初期は大変ゆっくり生長します。そこでこの時期に苗床で育苗すれば、集約的に苗作りができるうえ、その期間に畑でほかの野菜を栽培することができます。

また、小面積で集約的に苗作りをすることにより、病虫害の発生を効率的に防ぎ、生育のそろった苗作りが可能になります。

さらに直まきをした場合、雑草の方が生育旺盛なので除草が大変ですが、育苗では管理がかなり楽です。

そのほか、生育適期に畑へ直まきして栽培をスタートしたのでは、十分な収穫が得られません。育苗していれば、生育適期に苗を本畑に植えることができます。

第1図に夏秋まき野菜の生育適温の目安を示しました。夏秋まき野菜の多くは15〜20℃の範囲でよく育ちますが、キャベツやハクサイはこのような気温になるまで待っていたのでは、年内の収穫は望めません。そこで、高温期にタネまきをしなければならなくなります。

第1図夏秋まき野菜の生育適温の目安

夏秋まき野菜の生育適温の目安

しかし、高温期に直まきをすれば、生育ムラがかなり出ます。そこで、苗床に日中だけ寒冷紗やよしずなどで日よけをして気温を下げてやると、生育のそろった苗を得ることができます(第2図)。

第2図暑い日中は寒冷紗などで日よけをする

暑い日中は寒冷紗などで日よけをする

第3図には日よけによる地温の抑制効果を示しました。ちょっとした温度差ですが、意外な効果を表すことは、実際に夏場の苗作りを経験してみると実感できます。

第3図地表の覆いと地温の変化(8月中下旬)

地表の覆いと地温の変化(8月中下旬)

セルトレイ育苗では若苗定植を

育苗方法は最近播種箱からポット育苗、さらにはセルトレイで育苗するように変化してきました。セルトレイを使うことにより、狭い面積で大量の苗が育てられ、苗の移動や運搬が楽になり、培養土を入れることからタネまき、覆土などが自動化できるようになりました。セルトレイでは野菜の種類別に異なったサイズのトレイがあり、葉菜では128〜288穴のセルトレイがよく使われます。セルトレイのセルにタネをまきますが、このセルが小さいため若苗定植が基本となります。育苗に使う培養土は保水性と通気性のよいことが必要です。

セルトレイにタネをまいた後は直射日光を避け、涼しい所で発芽させますが、過剰な水やりをしないように注意します(写真1)。また発芽後も軟弱で徒長しないように朝にやる水やりも、夕方には土の表面が乾く程度にします。さらにセルトレイの下に空間をあけ、余分な水は排水させるようにします(第4図)。

写真1レタスのセルトレイ育苗

レタスのセルトレイ育苗

第4図セルトレイ育苗では水管理に注意

セルトレイ育苗では水管理に注意

セル成型苗の定植は、本葉3〜4枚で根鉢が形成され、セルトレイから抜き取れるようになったときです。比較的若苗定植になるので、定植直後は植え傷みなどが起こらないよう、ベタがけなどで覆ってやります。育苗期間が長くなりすぎると老化苗となり、定植後の生育が遅れて収量が低下しやすくなります。苗が小さいなどすぐに定植できない場合では、従来の育苗でしていたように、定植までにポリ鉢などに1回移植してやれば活着しやすくなります(第5図)。ただし移植の際に根を傷めては、かえって活着が遅れてその後の生育に支障を及ぼすので注意します。

第5図苗の移植回数と生育球重(例:キャベツ)

苗の移植回数と生育球重(例:キャベツ)

「独り育ち」と「共育ち」

コマツナやシュンギクなど直まきを主にする野菜では、よほど薄まきにしたつもりでも、最近のタネは発芽率がよいので厚まきになりがちです。特にバラまきの場合は、気をつけなければ厚まきになってしまいます。

厚まきは決して悪いことばかりではありません。厚まきしても細い茎葉の種類では、間引きを急いで「独り育ち」させるより「共育ち」させると生育がよくなることがあります。共育ちによって植物同士が接触し茎の伸長が抑えられ、徒長せずにしっかりと育ちます。しかし、接触の度合いが強すぎると、刺激はお互いの生長を抑制してしまい、勝ち負けが出るようになるため、間引く作業が必要になります。

オクラは高温性の野菜で、播種後45〜50日で1番花が咲き、それ以降も相次いで開花していきます。果実肥大も早く、収穫が遅れると、果実はかたくなります。オクラは一般的に1カ所に4粒まきとし、発芽後も間引かないで3〜4本仕立てとします(第6図)。4本仕立てでは、お互いが競合して茎はやや細目になり、果実への養分もゆっくり運ばれます。また、果実成熟もゆっくりとなり長期間やわらかいため、収穫時期の幅が広がります。

第6図オクラは共育ちで育てよう

オクラは共育ちで育てよう

オクラのタネは3〜4粒まき、発芽後も間引きしないでそのまま育てる。

反対に、広すぎる株間でタネまきをした場合には、「独り育ち」的な状態になり、刺激が少ないので初期生育は緩慢ですが、与えられた土壌養分が十二分にあるので、ある時期を過ぎると生育はぐんぐん進み、立派な株に育ちます。しかし、1株ごとの比較ではよくても、単位面積当たりの収穫量が少なければメリットはありません。

ニンジンなどでは初期生育が緩慢で茎葉が繊弱なため、1回目の間引きを遅くした方がよいのは、共育ちの状態で互いに競争させ、初期生育をよくするためです(第7図)。ゴボウやダイコンなども間引きを急がないで共育ちした方が、株元への日射を遮り、よく展開し受光態勢のよい個体を選べるというよい効果を生みます(第8図)。

第7図ニンジンの初期生育

ニンジンの初期生育

ニンジンは脆弱で葉の切れ込みも深く細い葉なので、間引きを急がない。苗は共育ちにする。

第8図ダイコンの共育ち

ダイコンの共育ち

ダイコンの芽生えでは株元に日射が入り根を傷めやすい。間引きを急がないで共育ち気味にする。

まき方も、バラまきより条まきの方がまきやすいうえ、中耕、除草、施肥などの作業がしやすく、収穫物の調整もしやすいという利点があります。