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野菜

山田式家庭菜園教室
〜Dr.藤目改訂版〜

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施肥の基本的な考え方

肥料の利用率

個々の野菜の施肥量は、その野菜が最高の収量を上げたときの、吸収成分量から割り出すことで決まります。さらには、施した肥料のうちどれだけが野菜に利用され、どれだけが利用されずに土の中に残ったか、また、どれだけが雨水などによって流亡したかなども考えなければなりません。つまり、施した肥料のうちの何%を、養分として野菜が吸収したのかを知る必要があるのです。これが一般に肥料の利用率と呼ばれるものです。

野菜に施す肥料をだんだん多くしていくと、あるところまでは収量も増加しますが、ある段階にくるとそれ以上は増えなくなります。したがって多くの肥料をやればいいというものではありません。

各肥料成分の利用率は、土壌の種類によっても異なりますが、堆肥などの有機物と一緒に施して根に直接触れるのを少なくしたり、根に吸収されやすい位置に施すといった工夫をすることで高めるようにしたいものです。利用率の一般的な目安は、チッソ=40〜60%、リン酸=10〜20%、カリ=60〜80と考えて施肥量を勘案してください。また、第1表に果菜類で目標収量を得るための必要成分量を挙げておきましたので、参考にしてください。

第1表標準収量を得るための必要成分量(山崎より抜粋)

標準収量を得るための必要成分量(山崎より抜粋)

実際には良好な生育をさせるためには3要素のチッソ、リン酸、カリ以外に、ほかの鉄分やホウ素などの微量要素も必要になります。施肥をする際には、各肥料の量はもちろんですが、肥料要素間のバランスも大事です。微量要素は、微量だからといっておろそかにはできません。植物の生育は、肥料の要素のうち、最も少ない成分によって左右されるという説があります(第1図)。微量要素が不足すれば、それで生育は順調に進まなくなるのです。

第1図リービッヒの最小律

リービッヒの最小律

肥料の種類と効率的な効かせ方

実際の栽培に当たっての施肥設計では、前作で施肥した肥料成分がどれだけ残っているかを推定して施肥量を決めます。一般的なトマト栽培に当たっては、第2表に示したチッソ、リン酸、カリを元肥として施用します。実際にはこれ以外に、定植前に完熟堆肥(たいひ)と苦土石灰を入れ、よく耕うんしておきます。前者は土の保水性と通気性をよくするために入れ、また後者は畑土が酸性になりやすいので、野菜に適した土壌酸度に調節するために加えます。

第2表トマトの施肥量

トマトの施肥量

1)肥料として必要な要素

野菜が育つには養分が必要ですが、その養分の大半は土の中に含まれています。しかし、3要素のチッソ(N)、リン酸(P)、カリ(K)などは野菜が多量に必要とする養分のため、自然の土の中にある量では不足するので、肥料として施す必要があります。また、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)も前記の3要素と同程度に吸収するので、必須要素として、少なくとも5要素を肥料として施します。5要素の大まかな働きを挙げると第3表のようになります。

第3表5要素の役割と主な働き

5要素の役割と主な働き

2)肥料の要素と性質

肥料は、有機質肥料と化学肥料に大別されます(第4表)。

有機質肥料
動物や植物の一部が素材となり、ほとんどがN・P・Kの3要素を含みますが、含有量は化学肥料ほど多くはありません。効果が長いので、トマトやナスのような収穫期間の長い野菜に有効です。元肥にするときは、タネまきや植え付けの一週間ぐらい前には施すようにします。

化学肥料
1種類の成分しか含まない単肥(たんぴ)と、2〜3要素を含む複合肥料があります。各成分の含有量は一定ではありませんが、3要素が同量含まれるものが、使用上は便利です。

液肥(えきひ)
300〜500倍に薄めて水やり代わりに施したり、原液を元肥として施すこともできます。化学肥料を水に溶かした場合も、一種の液肥と言えますが、「水肥(みずごえ・すいひ)」と呼んでいます。

葉面散布剤
肥(こえ)切れを応急的に補うのに利用します。葉菜類では2%、イモ類では1%、苗のときには0.5%程度に薄め、噴霧器で葉にまんべんなくかけてやります。葉の表面には極小の水孔があり、また光合成を行う気孔からも、葉面散布された栄養分を吸収しています。

第4表主な肥料の特性

主な肥料の特性

3)肥料成分の見方と計算方法

肥料袋には、含まれるチッソ(N)、リン酸(P)、カリ(K)の成分比(重量%)が書かれています。例えば第2図のように8−12−8と書かれていれば、チッソが8%(100g中に8g)、リン酸が12%(同12g)、カリが8%(同8g)含まれています。家庭菜園で使いやすい肥料は、三要素の成分を足して30%以下となる8−8−8などの、同率に含まれる肥料が適しています。また第5表で、実際の施肥量の計算を説明しています。

第2図肥料成分の見方

肥料成分の見方

第5表畑と苗床での施肥量の計算

畑と苗床での施肥量の計算

畑と苗床での施肥量の計算

4)野菜の生育パターン

果菜類では、チッソ肥料を過剰に与えると、過繁茂(つるぼけ)になり肝心の果実の収量に悪影響を及ぼすので、絶対に避けなければなりません。肥料の効かせ方について、概要を第3図に示してみました。つるぼけを防ぐには、元肥に重点を置いてもよい結果は得られません。コンスタントに肥料を効かせるか、もしくはⒺのラストスパート型のような肥効を現す施肥法をとりたいものです。

第3図野菜の肥料の効かせ方のタイプ

野菜の肥料の効かせ方のタイプ

堆肥や有機質肥料を用いる際の注意点

土壌が物理的に悪化するのを防いだり、微量要素の欠乏を防止したり、さらに有用微生物の活動を促進するためには、畑に堆肥を入れることが重要です。堆肥を入れることにより、土壌の通気性は増し、保水性も高まります。また、各種の微生物が増加することで、土壌の化学的変化にも緩衝作用が増します。

今では各種の堆肥が販売されていますので、その利用もできますが、簡単に堆肥を作ることも可能です。堆肥を使う上での問題点は、未熟の堆肥を使ったり、多量の家畜ふんなどを安易に肥料代わりとして畑に入れると、かえって病虫害を拡大させます。必ず信頼できる完熟した堆肥・有機質肥料を使うようにします。

未熟の堆肥・有機肥料の問題点
  1. 未熟な堆肥は土の中で発酵して有害なガスや有機酸を出すので、野菜の根を傷めます。
  2. 未熟な堆肥は、フザリウム菌やリゾクトニア菌、ピシウム菌などで汚染されていることがあります。
  3. 有機肥料の中には、乾燥していても未成熟のものがあり、雑草のタネやウイルス、細菌、ネコブセンチュウなどが入っていることが多く、病虫害の原因になりやすいので避けましょう。

また有機肥料は動植物を原料としていて含まれる肥料成分は少なく、発酵分解してから徐々に効いてくるため緩効性肥料とも呼ばれます。各種の微量要素を含んでいて、長い期間にわたって効果があるため、元肥として使うのに適しています。

ただし標準的な牛ふん堆肥に比べて豚ぷんや鶏ふん堆肥では、肥料成分、特にリン酸と石灰が異常に多いので注意します(第6表)。

第6表堆肥および緑肥の有効成分量

堆肥および緑肥の有効成分量

  • ※緑肥の場合は、地上部の茎葉も多いが、地下部の根が過剰養分を吸収するので、根も有機物として残る。

(神奈川県作物別肥料施用基準)

また乾燥鶏ふんでは肥料成分が多いことに加えて、石灰の含有量が多いので土壌をアルカリ性にするので、畑へやり続けることには注意が必要です(第7表)。土壌酸度を補正していないと、収量は低下していくでしょう。

第7表野菜の普通栽培での有機質資材施用基準

野菜の普通栽培での有機質資材施用基準

(土づくりと土壌改良資材参考)

肥効を上げるには水やりも忘れずに

野菜は水の中に溶けた肥料を根で吸収して、野菜の中に取り込みます。土が乾いているときなどに施肥を行う場合には、肥料に覆土しておくとともに、施肥後に水をやっておくことも大切です。

第4図に、潅水量と果実の収量についてあげてみました。施した肥料が効率よく野菜に吸収されるためには、特に梅雨明け後の水やりが重要となります。

第4図潅水点と果実の収量
(鉢栽培)(杉山, 1968より作図)

潅水点と果実の収量(鉢栽培)(杉山, 1968より作図)

  • ※pF値:土壌から水を吸引するのに必要な力を表す値。数値が大きいほど土壌水分が少ない。