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野菜

山田式家庭菜園教室
〜Dr.藤目改訂版〜

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果菜類の失敗しない苗作り

保温・加温設備で安定した発芽を

一般家庭でも果菜類の育苗はできますが、専業農家のような早期出荷を考えずに適期栽培が中心です。果菜類は発芽や生育・開花・結実に20〜30℃の高温を好むため、気温が上昇する5月中下旬に定植する育苗ならできます(第1表)。問題はタネをまく3月中下旬の気温変動が激しく、特に夜温がかなり下がるため保温か加温し、最低15℃を保つ必要があることです。主要な果菜類の発芽適温を第2表に示しましたが、常に適温を保つ必要はありません。昼温が20℃程度あれば夜温を15℃程度にした方が、発芽は早まり発芽そろいもよくなります。ナスでは第1図に示すように、昼温は30℃まで、夜温は20℃程度に変温管理した方が、発芽は最も促進されています。トマトの育苗温度も昼夜の変温管理をする方が、一定温で育苗するより発育を促進し、花芽の分化も促進されます(第2図)。

第1表露地早熟栽培でのタネまき〜植え付け期の目安

露地早熟栽培でのタネまき〜植え付け期の目安

(暖地)

第2表果菜類のタネの発芽温度・発芽適温

果菜類のタネの発芽温度・発芽適温

第1図ナスの発芽をよくする条件

ナスの発芽をよくする条件

第2図トマトの着花数に対する昼夜と夜温の影響

トマトの着花数に対する昼夜と夜温の影響

便利な資材で良苗を育てる

ビニールハウスかトンネル内で、播種箱かセルトレイを「農電園芸マット」(写真1)などの温床マットに乗せるか、家庭用発芽・育苗器(写真2)などに入れて育苗します。育苗数が数株ならポットで、数十株ならセルトレイで、苗数が多い場合は播種箱を使います。

簡単に育苗ボックスをつくる方法をご紹介します。第3図のように、木で長方形の枠をつくるか、発泡スチロールの箱を使い、上面をフィルムで開け閉めできるようにします。その中に育苗ポットかセルトレイを置いて育苗します。夜間はフィルムの上を、断熱資材などでさらに覆って保温をします。この育苗ボックスをハウス内に置けば、ある程度夜間でも温度を保てます。

第3図育苗ボックス

育苗ボックス

写真1「農電園芸マット・電子サーモセット」

農電園芸マット・電子サーモセット

写真2発芽育苗器

発芽育苗器

数株程度の育苗なら、家庭用発芽・育苗器がおすすめ。本体内蔵の電気ヒーターで簡単に加温が可能。保温や風よけ、湿度調整もできます。(写真は「愛菜花」)

発芽と初期生育は昼夜一定温より、夜温が昼温より低い変温管埋の方が生育はよくなります。そこでタイマーで昼夜変温管理できる加温器が便利です。タネまき用培養土には通気性、保水性がよく清潔な土が必要で、「タキイたねまき培土」(写真3)などが便利です。水やりは夕ネまき時にたっぷりやれば、発芽までよほど乾かない限り不要です。発芽後は夜温を徐々に下げ、定植前には戸外の温度に慣れさせます。日中は高温になるため水やりと換気をして、徒長を防止してがっちりとした苗を育てます(写真4)。

タネまき時期を守るのも重要で、定植時期から逆算しタネまき時期を決めますが、育苗日数は種類により異なります。トマトは約60日、ナスは約80〜90日、キュウリ、カボチャは約40日、スイカは約50日で、それを考慮します。

写真3タキイたねまき培土

タキイたねまき培土

育苗時追肥不要の長期肥効型でタネまき全般に適しています

写真4こんな苗を育てよう

こんな苗を育てよう

育苗する利点は?

1)素質のよい花を早く、また多く作らせる

真夏までに収量をあげようと春早くに定植したくなるかもしれませんが、トマトなどは高温野菜であり、発芽には高温が必要で温床育苗を行います。通常は移植するまで昼温を28℃前後で夜温を12〜15℃、その後は夜温をやや下げて10〜12℃を目安にします。定植前は夜温を8〜10℃として、がっしりした苗に育てます。

定植するときは地温が15℃以上になっている必要があります。一般に高温育苗で大苗にして、早期に定植する方がよいと考えがちですが、15℃以下では活着はスムーズにはいきません。一般には第1番花が開花するころに定植をします。この時期の苗はすでに第1花房だけでなく第2〜3花房、さらに第4花房まで分化しています(第4図)。各花房には普通7〜10花が、連続して分化しています。定植時に根がスムーズに活着すれば、これらの各花房の花芽発達は順調に進むでしょう。しかし春先は気象の変化が激しく、十分な管理が必要です。

第4図定植時のトマトの花弁

定植時のトマトの花弁

15cm程度のポットに移植されていれば、それなりに順調に活着します。しかしそれより小さなポットやセル苗の場合、苗の順調な活着はかなり難しいでしょう。活着が順調でなければ、花芽の発達は著しく障害を受けて、奇形果になる可能性が増します。活着が順調な場合でも、低温期から高温期にかけての時期に十分に根を張り、養水分を吸収する必要があります。それは茎葉の生育を旺盛に支えるためと、花芽を元気に発達させるためです。茎葉の生育と、通常6段花房までの花芽・果実の発育を、ともに連続して進めるには、第1花房の第1番花の開花時に定植するのが最も適しています。

2)雌花の分化を促進できる

ウリ科の野菜には雄花と雌花があり、低節位には雄花が、高節位には雌花が着きやすくなる傾向があります(第5図)。さらに短日処理をすることで、雌花が低節位に着くようになります。ウリ類の春まき栽培では、育苗時に短日処理をして低節位に雌花を早く着けさせることが、収量増加にもつながり重要です。春まきでは加温育苗になりますが、カボチャの場合、最低夜温15℃で約3〜4日すると発芽し、その後約25日育苗します(第6図)。発芽後は徒長を避けるため、やや夜温を段階的に下げていき12℃くらいで管理します。この低温下で雌花形成が促進され、さらに夜間は遮へい幕で覆う短日処理(約12時間の明期)を2週間くらい行うと、雌花形成が一層促進されます(第7図)。

第5図洋種カボチャの雌雄性

洋種カボチャの雌雄性

(志佐・加藤 1962より引用)

第6図カボチャの育苗管理模式図

カボチャの育苗管理模式図

第7図カボチャの短日処理による雌花形成促進効果

カボチャの短日処理による雌花形成促進効果

(倉田 1959より抜粋作図)

ウリ類の花芽分化は、キュウリやメロン類では第1葉の展開前にすでに開始しています。カボチャはそれより遅れて第1葉展開直前ごろに、スイカはさらに遅れて第1葉展開ごろに開始されます。

西洋カボチャの播種後15日目ごろの本葉第1枚展開苗では、「芳香青皮栗」の場合、主枝上の葉は第10〜11節まで分化し、そのうち花芽は5〜6節まで分化しています。「打木赤皮甘栗」の場合は、主枝上の第10〜11節まで葉は分化し、そのうち第7節くらいまで花芽が分化しています。

キュウリでは各節に雌花の着く節なり性の品種も育成されるようになり、短日処理の必要性は減少しています。

徒長はどのように防ぐのか

密植を避け、高温・過湿にしない

密植による株同士の競合が起こると、苗が徒長する原因になることは言うまでもありません。株同士の競合を防ぐには、発芽後の鉢上げは9cmポットか15cmポットに鉢替えをしておくと、がっちりとした根鉢が形成されて、株間も十分に保てるので、徒長の原因となる最初の問題が解決できます。

徒長の原因となる2番目の問題として、高温(苗床の高温)と過湿(用土の水もち)があげられます。苗が徒長したとき、温度を下げるか、潅水を控えて用土を乾かすか、いずれの処置をとるかが問題です。たいていは水やりを極度に控えることによって、徒長が防げたと思い込みがちですが、第8図のように同じ量の水やりをしても、夜温を低く管理する方が徒長は起こりません。

水やりを控えて苗の徒長を防ぐことは、水分の供給が抑えられるだけでなく、水分の減少に並行して養分の供給も抑えられるため、よい素質の苗にならないのです。水分も養分も十分に供給し、夜温を下げて、昼間の光合成養分を体内に蓄積させることにより、がっちりとした苗に育てることができます。

第8図徒長防止は温度調節で(ナス)

徒長防止は温度調節で(ナス)

低温期の早期定植より、適温になってから大苗定植を

春先から高温性の夏野菜を定植する際には、早く収穫したいために夕ネを早くまいて、早く植えたくなります。しかし高温性の野菜は定植直後が低温では障害が発生するため、発芽適温が高いオクラやバジルなどはなかなか早まきはできません。
オクラの発芽適温は25〜30℃と高く、3〜5日で85%以上発芽します。それより低い20℃では10日、15℃では20日と発芽に日数がかかります。また、一般に露地での播種の目安は、最低地温が15℃以上になったころになります。マルチ栽培で地温を確保すれば5月上旬ごろ、トンネル栽培では4月上旬ごろタネまきできるようになります。
露地でのタネまきは、最低気温が15℃になった5月上旬になります。一方、温床で育苗した苗は、マルチをしていれば最低温度が10℃になった4月上旬ごろに定植できます。温床育苗では1カ月早く栽培を開始し、露地まきに比べて苗は大きくなり、定植後に収穫が早く始まり、収穫期間も長くなります。

京都北部の京丹波でオクラを栽培した場合、温床で発芽させて育苗した苗をまだ低温期の4月中旬ごろにマルチをした畝に定植しても、定植後の発育は停滞して進みません。同じころに播種した苗を温室でさらに育苗して大苗にしてからやや遅れて定植すると、気温の上昇とともに生育は順調に進み収穫に至ります。無理をして早まきをするより、大苗にしてから定植する方が生育は安定して進むので、定植遅れは十分に取り返せます。
暖地の高知県では、オクラのトンネル露地栽培で、セルトレイで育苗・移植した苗を植えた場合(3月13日まき)と直まきした場合(3月30日まき)を比較しました。72穴セルトレイ苗は直まきより17日早くまき、7日早い5月18日に開花し、より低節位に着果して、単価の高い5月下旬から出荷をしています(第3表・第9図)。

第3表セルトレイ苗の移植栽培が生育に及ぼす影響(7月11日調査、各区5穴)

セルトレイ苗の移植栽培が生育に及ぼす影響(7月11日調査、各区5穴)

(高知農試)

第9図セルトレイ苗の移植栽培が生育に及ぼす影響

セルトレイ苗の移植栽培が生育に及ぼす影響

(高知農試)

低節位の奇形果は何が原因?

トマトを順調に生育させるには、充実した花芽を分化させ、着果・肥大させていく必要があります。定植する目安は、第1花房の1番花が咲き始めたころです(第4図)。この時期には第1花房だけでなく第2〜4花房の花芽も分化しています(第10図)。これらの花芽はまだ小さいため、定植後の活着が悪いと発達も悪くなって奇形果になったり、発育が停止する発育阻害が起こりやすくなります(写真5)。

写真5
育苗中の低温による悪影響が原因のトマトの奇形果。

第10図トマトの苗の生育と花芽分化との関係

トマトの苗の生育と花芽分化との関係

(斎藤, 1982年)

したがって、定植時に速やかに活着させることが重要です。そこで、根がよく発達できるよう、決められた肥料が畑の土に含まれていることと、通気性と保水性がよいことのほか、日当たりがよく気温が上昇している必要があります。定植時の気温が低いと、ナスでは単為結果してかたい石ナスが発生しやすくなります(写真6)。

写真6
肥大が悪く石のようにかたい果実になる「石ナス」。主として育苗中の低温が原因で第1花、第2花がなる。

また定植するときに栄養過多になっていたり、12℃以下の低温が3〜5日続いたりすると、トマトでは子房の子室数(果実を切った時に見えるゼリー状の部分の数)が5個より異常に増えすぎて、形が悪くなりがちです(写真7)。

写真7トマト果実の大きさと子室数

トマトの苗の生育と花弁分化との関係

左:普通トマト(6子室)
右:ミニトマト(2子室)

苗床での追肥や、苗立枯病対策は?

苗作りは限られた量の用土で行われるので、育苗中に追肥が必要な場合があります。葉色が薄くなってから追肥するのでは手遅れで、常に苗の生育状態を観察して、早めに対処します。一般にトマトやナスでは特定の日長や温度がなくても、ある一定の大きさになると花芽を分化します。また、肥料不足を起こす場合にも花芽分化しやすくなりますが、花芽発育は異常になりやすくなります。そこで、葉数の少ないうちに肥料不足とならないよう、500〜600倍に希釈した液肥を水やり代わりに定期的に施して、安定して発育するようにしてやります。

発芽後から子葉が展開して本葉が出始めるころにかけて、苗床では苗立枯病にかかりやすい時期になります。高温・多湿がその被害にさらに拍車をかけます。この病気が発生したらまず罹病株を抜き取り、防除薬剤を潅注したのち苗床の覆いを外して温度を下げ、床土の乾きを促すようにします。用土にはもちろん新しいものを選び、さらに排水のよいものを使用するようにします。