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山田式家庭菜園教室
〜Dr.藤目改訂版〜

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タネの発芽不良の原因と対策

発芽に必要な3大条件とはなんですか?

よく知られているように、タネが発芽するには温度、空気水分の3条件が必要です。実際にはさらに、発芽させる育苗床と、畑の土壌条件が密接に関係してきます。光は絶対必要というわけではなく、野菜の中には明暗によって多少発芽が遅れたり早まったりするものがあります。

1)温度:夏野菜は高温でないと発芽しないが、冬野菜は低温でも発芽する

野菜のタネがまかれても、ある一定の温度にならないと発芽はしません。種類によって、発芽する温度範囲は色々です(第1表)。

タネが発芽できる温度には種類ごとに幅があり、発芽する最低温度と最高温度がありますが、最適温度の時期にまくと発芽が最も安定してそろいます。タネ袋などに書かれている時期にタネをまけば、タネまき時期としては間違いありません。

第1表主な品目の発芽適温と生育適温の目安一覧

葉菜

※「エボプライム」種子の場合は発芽日数4〜5日

果菜

根菜

  • 注1:あくまで目安なので文献・資料によって数値は異なります。栽培条件などにより適温内であっても障害をきたす場合もあります。
  • 注2:発芽日数は栽培条件などによって表示日数の範囲外となることがあります。

種類によっては休眠性のあるタネもありますが、販売しているタネでは休眠はすべて終わっていて、発芽に問題はありません。また、ナスなどは昼夜の変温で発芽が促進されますが、普通にまいても夜温は昼温より低くなるので、特に気にすることはありません。
ナスやトマトなどの夏野菜は最低温度が10℃以上なので、春先の低温期にまく際は保温設備などが必要になります(第2表)。一方、ダイコンやキャベツなどの冬野菜は0〜4℃の低温でも、発芽までに多少日数はかかりますが発芽はしてきます。

第2表野菜種子発芽温度(最低〜最高)

野菜種子発芽温度の目安

2)空気:タネまきの深さと水はけが重要です

タネが発芽するには空気中の酸素が必要で、大気中には21%の酸素があります。普通は土の中にタネをまくので、タネをまく深さ、土の種類、水やり量は酸素濃度を左右する重要な要素となります。
野菜の種類によって酸素要求度は異なります(第1図)。ダイコン、セルリーは要求度が高く、キュウリ、ネギ、シロウリ、インゲンは要求度がかなり低い野菜です。

第1図酸素濃度と発芽率(温度18.5〜24.0℃)

酸素濃度と発芽率(温度18.5〜24.0℃)

要求度が高いダイコンやセルリーは、有機物を入れて耕うんし保水性と通気性を改善した畑で、浅めにタネをまきます。ソラマメも酸素要求度が大きいので、黒い筋状のおはぐろを斜め下にして、タネの反対側が見えるくらいに浅くまきます(第2図)。こうすることで、幼芽と幼根は折れることなく伸びるようになります。

第2図ソラマメ種子の断面と播種方法

ソラマメ種子の断面と播種方法

3)水分:水分を吸収することで、生育が開始して発芽します

一定の温度下で、酸素と水分があるとタネの中の胚が活動を開始し、やがて発芽してきます。発芽が速やかに起こるためには適度の水分が必要で、土壌の通気性と保水性が重要になります。発芽する際にはまず幼根が伸び、次いで幼芽が伸び出してきます。どちらもその先端はフック状で折れにくい構造になっています(第3図)。しかしあまりにかたい土では、それらの生育は阻害されるため、膨潤な土にしておくことが重要です。

第3図幼芽の先端はフック状

幼芽の先端はフック状

浸漬処理は必要か?

ホウレンソウやアサガオのように種皮のかたい硬実性の種子や、レタスなど休眠性の種子をスムーズに発芽させるために、かつて生産者の知恵として浸漬処理という裏技がありました。これは種皮に含まれる休眠物質を除去するとともに、種子を流水に一晩浸し、あらかじめ水分を吸収させ発芽を促すというものでした。家庭菜園の解説書でも定番の記述としてしばしば登場しています。

確かに昔は裏技として有効でしたが、現在は種苗会社の種子加工や管理技術が向上し、浸漬処理はむしろトラブルを引き起こすのでおすすめしていません。特にプライミング処理や立枯れ防止の農薬がコーティングされている種子に対しての浸漬処理は、厳禁です。浸漬中に種子の発根伸長が進み幼根を傷めたり、必要な農薬が流失してしまい発芽低下を招くトラブルを生じる場合があるからです。

タキイでも、品目によって種子加工を施しており、販売にあたっては厳格な発芽検査を実施し、休眠の有無が確認されていますので、基本的に浸漬処理は不要です。例えば ホウレンソウではかたい種皮(果皮)の吸水性をよくする処理(エボプライム)、アサガオでは種皮の研磨処理、カンナやオクラの一部の品種ではかたい種皮にレーザーで穴をあけ、吸水性を改善する処理がされています(2021年現在)。また、レタスは裸種が極小で大半がペレット種子に加工されているので、浸漬処理をするとペレットが崩れてしまいます。

購入種子はタネ袋証票に記された発芽率が保証されていますので、有効期限を守ってタネをまいてください。

かつては硬実種子の種皮に爪切りなどで傷をつけ発芽を促すことがあった(上:アサガオ/下:オクラ)

かつては硬実種子の種皮に爪切りなどで傷をつけ発芽を促すことがあった(上:アサガオ/下:オクラ)

苗床に比べて露地に直播をする場合は、畝面の凸凹などで、水平ではなく傾斜ができていると、ニンジンなどは発芽が不ぞろいになります。場所によって、土壌水分の過不足が起こり乾いた場所や湿った場所ができるためです(第4図)。
畝起こしの際には、よく耕うんして土の塊がなくなるように整地し、畝面を水平にしておきます。

第4図トマトの発芽と水分

トマトの発芽と水分

4)光:光の明暗も発芽を早めたり遅らせたりします

種子の発芽には光条件も影響し、野菜の分類ごとにその反応は決まっています(第4表)。光があると発芽が促進される好光性種子にはアブラナ科(ダイコン以外)、キク科、セリ科とシソ科があります。

タネまきの基本は、タネの直径の3倍の深さに播種溝を水平に引き、播種後その上に覆土をしますが、好光性種子をまくときには、播種溝と覆土は浅めにします。
逆に光があると発芽が抑制される嫌光性(好暗性)種子には、アブラナ科のダイコン、ヒガンバナ科、ナス科、ウリ科があります。これらの種子は、播種溝を深くまた覆土も厚めにします。

第4表野菜種子の光と発芽の関係

野菜種子の光と発芽の関係

タネにも寿命があり、タネの大小なども発芽に影響を及ぼします

寿命

タネにも寿命があり、室内で保存した場合、ナス、トマト、スイカは比較的寿命が長くて4年以上保存できます(第5表)。一方、ネギ、タマネギ、シソとラッカセイの寿命は短くて、1〜2年たてば翌年には発芽は悪くなります。その中間で、やや寿命が長くて2〜4年保存できるのがダイコン、ハクサイ、キャベツ、レタスなどです。

第5表種子の寿命の分類

野菜の種の寿命

熟度

タネはできてから、ある程度成熟した後、発芽できるようになります。例えばニンジンでは開花して30日後にタネを収穫しても、胚はまだ未熟で発芽できません。開花70日後ごろに胚の発達が進んで成熟すると93%のタネが発芽できるようになります。胚の発育にはそのときの気温が関係し、成熟するまでに高温では早いですが、低温では長くかかります。

休眠

タネが成熟するのにともない、普通は休眠性が深まり、好適条件下でも発芽できなくなります。これはタネが成熟しても周りの環境が適していないと、発芽しないことで適した環境になるまでタネを保存させるためです。多くの場合、種皮か果皮に休眠物質が蓄積されています。市販されているタネは休眠が打破されていますが、高温に遭遇するとレタスなどでは二次的に休眠に入るため、種子の保管に注意します。

種子の保管

種子袋の証票には発芽率や有効期限などが表示されています。これは種苗法に定められたもので、販売にあたっては厳密に試験がされ、その発芽率が保証されています。しかし、種子は生き物ですから購入後、種子の保管に適さない高温や多湿環境で放置したり、また有効期限を大きく過ぎてしまったものは保証された表記の発芽率を下回り、発芽しない場合もあります。
購入した種子は気温15〜20℃の範囲での保管を心掛け、特に高温期の6〜9月は低温・低湿環境での保管が望まれます。特に発芽促進処理を施された種子は普通種子より劣化しやすいため15℃以下の低温管理が望まれます。少量であれば家庭用冷蔵庫で保管してもかまいません。
湿った種子を保管すると発芽力の急激な低下を招くので、開封後の残り種子を保管する場合は、種子が吸湿しないように注意してください。また、ペレット種子は落下や圧迫など衝撃で割れることがあるため、取り扱いには注意が必要です。

高温の夏季でも秋野菜の発芽を促進できるペレット種子

最近では苗生産にセルトレイが使われ、大量生産できるようになりました。小さなタネや扁平なタネでは取り扱いが不便でしたが、タネを均一な球状になるようコーテイングしたペレット種子が、レタスやニンジンなどで開発されています。
ペレット種子をまいてたっぷり水やりをすると、コート剤が水に溶けて割れ目ができます。この割れ目から水分と酸素を吸収して発芽します。安定して発芽させるには、継続した水分補給と、余分な水分を排水させることが注意点です。

これ以外にも発芽過程をある程度進め、普通の種子より早く発芽し、悪条件でも発芽しやすくしたプライミング種子や、特にホウレンソウ種子では、果皮を軟らかくする処理により、水分吸収をよくして発芽ぞろいをよくしたエボプライム種子なども開発されています。

キュウリでは発芽を早めようと高温管理すると、皮被りが多発して生育不良になる

キュウリなどのウリ類やオクラなどを春先に育苗すると、子葉に種皮がかぶった皮かぶりになることがあります(第5図)。
ウリ類では胚軸の基部に、ペグ(ツメ)があります。正常発芽の場合、ペグに種皮が引っ掛かり、子葉は種皮から抜けますが(第6図)、覆土が薄かったり土壌が乾燥していたりすると、種皮を押さえる力が弱く皮かぶりになります。

主な原因は、発芽を急いだ高温管理にあります。ペグが未発達で胚軸が徒長し、皮かぶりとなります。
手で種皮を取ると子葉を傷めてしまい、皮をかぶったままだと子葉の発芽力も劣り光合成も不十分で、その後の生育も進みません。カボチャの子葉が傷つくと、着果数が減少してしまいます。

第5図キュウリの正常発芽と皮かぶり

キュウリの正常発芽と皮かぶり

第6図ウリ類の発芽では種皮はペグに残る

ウリ類の発芽では種皮はペグに残る

地域のタネまき適期をまず守ります

秋まき野菜はまきどきを外すとすんなり育ってくれない、あるいは夏・秋野菜の苗作りと直まきで、詳しく説明しますが、それぞれの時期には発芽させるだけでなく、その後の生育を速やかに進めるための注意点があります。

秋まき野菜の発芽の1日遅れは、収穫の1週間あるいは10日遅れとなってしまいます。また夏秋野菜の育苗期は低温下にあり、育苗管理がその後の生育、さらに花芽・雌花形成に影響してきます。